第2話 尻に突っ込まれたのはギンカ

 食事処テーユー。

 それが、彼女のいる店の名前じゃった。


 そして彼女の名前はギンカ。

 食事処テーユーの看板娘じゃった。

 ギンカの人気は高く、ギンカ目当てで来る客もいるそうだ。


 あの日あの時あの位置にギンカのお尻があったのは、新しく作った看板を取り付けていたから、だそうだ。

 つまり、偶然。

 これは運命の出逢いとしか思えん!


 これらの情報は、城のモノを動かして集めた。

 町娘の情報ぐらい、城のモノが本気になればすぐに集まる。


 じいにはちょっと怒られた。

 城の労力はもっと有意義なことに使え、と。

 じゃが、これは実に有意義なこと。

 城のモノのおかげで、余はこうしてテーユーにいるのである。




「毎日来て、毎日高いモノを注文して、食べてくれるのはありがたい――ありがたいんだけど……」

 テーブルで食事をするエイシーを、ギンカはゴミを見るような目で見ていた。

 普通の店なら、そんな目を店員が客に向けたりはしない。

 普通の店なら。

 それがお客さんにとってのご褒美という店は存在するが、それは特殊なお店。食事処テーユーは、そういうお店じゃない。


「なにが不満じゃ?」

 料理の味にも、店内の雰囲気にも、ギンカの存在にも満足しているエイシーに不満はない。ギンカの目つきも新鮮で、心地がいい。


「毎日結婚を申し込んでくるのはやめて!!」


 ギンカの情報を集めてから、エイシーは毎日のようにテーユーへやってきていた。

 そして高い料理を注文して、結婚を申し込んでは断られる。

 そんな毎日だった。


 ギンカの澄んだ瞳。

 ギンカの柔らかい髪。

 ギンカの透明感のある声。

 そしてギンカの外からではその大きさしか分からないが、ほどよい柔らかさを持つ弾力性のある尻。


 これを見聞きするために来ているようなものだ。

 見るだけでも、聞くだけでも幸せになれる。

 常連客がギンカ目当てで来るのも、よく分かる。


「ギンカちゃーん。王子様が結婚申し込んでるんだから、応えてあげなよ」

 常連客である中年男が言う。酒が入って少し酔っているようだ。

「私はこの生活が気に入ってるの! 変える気はないね」

「ま、オレもギンカちゃんいなくなったら寂しくなるけどな。ハハハハ」


「じゃが、余がギンカの尻に突っ込んでしまったからのう。王族として、責任は取らないといかん」

「え!? ギンカちゃん、お尻に突っ込まれたの!?」

 エイシーの言葉に、店内にいた常連客たちが驚き、ざわめき始める。


「みんな、なんかヘンなこと考えてない? 違うからね?」

 ギンカは顔を真っ赤にして、必死に否定する。


「余がギンカの尻に顔を突っ込んだのは事実であろう?」

「ギンカちゃんとそんなプレイを!?」

 エイシーの追い討ちに、再びざわめく店内。

 事実ではあるが、言葉だけ聞くと誤解せざるを得ない。


「ずるいぞ!」

「ギンカちゃん! オレにヒップアタックしてくれ!」

「じゃあ、オレはヒップバットで!」

「ミサイルヒップアタックで頼む!」


「うちはそんな店じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

 ギンカの怒号が店内に響き渡った。

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