第五幕 「泣く私」
月曜日の夕方、私は土日にできなかったクリスマスプレゼント探しをしようと、港のショッピングモールを訪れた。勉強心な彼は今ごろ補講を受けているだろう。
ひと通りお店をまわり、いったん港のウッドデッキに出て思った。うん、やっぱり何を買えばいいか分かんなくね?黄昏を背に私は途方にくれた。そして、失意の中、家路に着こうとレトロ通りの石畳を歩いた。
急に聞いたことのある声がする。遠くの海で汽笛が鳴るのが聞こえた。
「椿さん。前回、僕が情熱を持ってることが分かったら教えるって約束したよね。」
私は完全に固まってしまった。
なんで彼がここいるの?補講は!?あぁ、それよりもどう反応すればいいの?
わたしの頭の中のコンピューターはフル稼働。しかし、なかなか答えは出ない。結果的に出てきたのはいつもの偉そうな態度だった。
「そう...だったな。お前は約束を守る側の人間だったようだ。」
なにやってるの、私!?
私のコンピューターは完全に壊れていた。
「ははは、厳しいね。もちろん守りますよ。守れる約束ならね。」
約束。彼の言葉に、わたしは"あの日"を思い出した。そう、彼は約束は絶対に守る。去年の"あの日"もバカみたいに待っていた。また、待たせちゃいけない。彼の言葉を聞かないと。
「そうか…、そうだな。あの時のお前は必死に約束を守ろうとしていた。
わかった。それで、お前の情熱とはなんだ?」
彼は珍しく真剣な眼差しで話を始めた。
「あの日、君に『情熱がない』と言われたとき、なぜそんなことを言ったのか、考えたんだ。君はいつも偉そうなことを言うけど、実は誰にでも優しく接することを僕は知ってる。」彼は言葉を続ける。
「一年前のクリスマスイブ、僕は叶わぬ彼女との約束を守り、海峡公園で待ち続けていた。そんな僕を君は迎えに来てくれた。星を見に来たなんて下手な嘘をついて。それ以来、いつも君と話すことが楽しくて、君をからかいながら話をすることが楽しみだったんだ。でも、あの日までそんな気持ちに気づかなかった。」
そう、去年のクリスマスイブの"あの日"、彼はずっと泣いていた。わたしはその後もずっと彼を気にかけてきた。クリスマス観望会だって彼のトラウマを消すために企画したのだ。
「それで、何がいいたいんだ?」
「君は、きっと僕の気持ちに気づいていたんだと思う。だから、あの日、君が僕に『情熱がない』と言ったのは、僕が君に対して持つ情熱に気づいて欲しい、もっと目を向けて欲しいということだったんだろう?」
レトロ通りのガス燈が灯り始めた。わたしは、自分の気持ちを見抜かれ嬉しくもあり恥ずかしくもあった。
「そ、そうだ。お前の表情から、お前の好意には気がついてた。」
そう、彼は入部当初からずっと、わたしの方を見ていた。
「そうなんだ。椿さんのことだから、もっと確信があると思ってた。」
いや、そもそもである。こんな偉そうな態度の女といつも話をしている時点で好意があるに決まってる。彼との日々が浮かぶ。
「わたしも、お前と話すといつも胸が熱くなる。いつもこんな偉そうな私の話を聞いてくれるのは、お前だけだ。それなのに…。」
でも、それをかき消すように劣等感の波がわたしを襲う。
「それなのに、お前に『情熱がない』などと、なんて酷い言葉を…。
わたしは…、私は人の感情も理解できない本当に最低な女なんだ!お前に好かれる価値なんてない。」
怖い。本当のわたしを知られて彼に嫌われるのが。本当のわたしなんて劣等感の塊なのに。
「そんなことないって。そのおかげで僕は自分の気持ちに気づいたんだから。」
「違う!私は、勝手にお前が私に好意があると思い込んで、プレッシャーをかけた。お前はそれに負けて、あんなことをただ言っただけだ。好意に気づいたなんて嘘だ。確信なんてなかったんだ。私はバカだ。いつもそうだ。素直になればよかったのに、自分を守るために偉そうにして。」
わたしは暗闇の中にいた。ガス燈の微かな光だけが頼りだった。嫌われるくらいなら、嫌いにさせればいい。今までだって偉そうにそうやってきたんだ。
「椿さん、僕は君のこと……。」
「だ、だめだ。最後は私が言う。素直になれない私なんてもう要らない!」
わたしは彼を制し声を震わせながら言う。
「私は、知ってる。私は、その辺の男には惹かれないんだ。お前には、私が本気で惚れるくらいの価値がある。でもな!私にはお前と付き合うだけの価値も資格もない。素直になれないせいでお前まで傷付けて。結局、私は可愛げなんてひとつもない。偉そうなだけの女なんだ!お前だって、こんな面倒くさいバカな女と付き合いたいと思わないだろ?!」
わたしが言い放った瞬間、周囲に張り詰めていた緊張が一気に解け、沈黙が広がった。
「……ん?」
彼は戸惑った表情を浮かべると、少し笑いながらわたしに話しかけた。
「つまり、一緒にいたいってこと??」
「ち、違う…。」
「でも、そんな言い方されたら、『そんなことないよ』って返すしかないよ。情熱については言わされたかもしれないけど、一緒にいて楽しいという僕の気持ちは本物だよ?そう言ったでしょ?」
ガス燈が次々と灯り、辺りが少しずつ明るくなっていく。
「椿さん、こんな時、普通なら素直に付き合って欲しいとか、他に好きになってくれる人がいるかもしれないとか、そんなこと言うんだよ。」
「そ、そんなこと。」
言われてみれば図星だった。嫌われたくなかった。振られたくなかった。ましてや他の女に取らたくもなかった。褒めたり質問したり何も言わなかったり。完全に見透かされている。悔しい。
「あぁ、もう!わかったよ。気持ちはよくわかった。付き合いますよ、椿さん!」
彼は頭をかきながらそう言った。
「なっ!?わたしは真剣に悩んだんだぞ。こんなんだから『情熱がない』とか言われるんだ。バカ。」
なんてテキトーな告白なの!?めっちゃムカつくんですけど。
「ごめんごめん。椿さんのそんな素直じゃないところが、本当に可愛いんだ。」
時計の鐘が鳴り響く。その音と共に、夜の街のイルミネーションが一斉に輝き出した。
わたしは、生まれて初めて自分の性格を褒められ、その目を見開いた。
「僕も知ってる。プライドがバカ高いところとか、そのくせ優しくて純粋なところとか。"ずっと見てきたんだから。"」彼は一瞬何かに気づいた表情を見せると、大きく息を吸い力強く言った。
「だから僕は、全部、全部受け入れますよ。そんな君のことが好きでたまらないんだから!」
木々に織りなすイルミネーションが彼を照らす。まるで乙女ゲームのように彼が煌めいて見えた。わたしは顔を伏せ、こう思う。ず、ずるい。そんなこと言われたら、わたしどうしたらいいの?
周りを一時の静寂が包む。
わたしはどうしていいか分からず彼に近寄った。
「椿さ…」
彼はわたしに話しかけようする。わたしはそれを制し、彼に抱きつき悔しながらにキスをした。桟橋から駅へと続くイルミネーションが、私たち二人を祝福しているようだった。
わたしは、不意に自分の頬をつたう涙に気づいた。それは、一年間待ち続けたわたしの情熱だった。
偉そうな私、キレながらクリスマス観望会開きます。(観望会開く前に終わるけどね) 縁高輝/chatGPT3.5&4 @mgurin26
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