第二幕 「怒る私」

次の日、私が部室へ行くと、のんびり過ごしている彼の姿が目に入った。「今日も部活がないのに、珍しいね」と彼が軽妙なジョークを飛ばす。私は「お前は頭脳明晰な鳥のようだな」と鋭い返しをしてみせる。私は教壇の前に近づき、いつものように彼が座る机の後ろに立った。

「こちらは、ちゃんと顧問の承諾を得てきた。まぁ、事前の根回しもあって楽勝だな。それでお前の方はどうだ?」

「デザインは後輩が美術部の知り合いに頼んでる。文言はまだ考え中だけど、その辺のチラシと似たような感じでいけるでしょ。まず大事なのはデザインだからね。」

どうせ彼なら何もやっていないだろうと思っていた。まさか進めているとは。しかし、私は慌てず冷静な態度を保つ。

「流石だな。行動が早い。文言は明日の部活で皆の意見を聞くのがいいだろう。現時点ではその程度がちょうどいいな。お前はなかなかできる男だ。」

ぎこちない褒め方だけど大丈夫かな?と、とにかく、まずは感謝を伝えないと。

「よし、目処はついた。いつもありがとうな。」

「お、おう。」

よし、ここからが正念場だ。わたしは心を落ち着かせようとする。しかし手は震え口も思うように動かない。でも、彼のためにも聞くんだ。

「そ、それでだな。お前に、ちょっと質問がある。」

彼は「何か用?」と軽く答える。やっぱりこの性格ムカつく。それでもわたしは言葉を続けた。

「お、お前はどういう人間だ?どんなことに興味がある。」

その質問はプレゼントを選ぶためのわたしの精一杯の表現だった。果たして彼はわたしの気持ちに気づいてしまっただろうか。期待と不安が入り交じる。

しかし、わたしの想いも知らず彼は軽率に言葉を発した。

「急に聞かれても困るなぁ。僕は椿さんみたいに優秀じゃなくて普通の人間だね。興味はこれってのはなくて色々。椿さんはホントにスゴいよね。頭も良いいし天文部の活動だっていつも情熱的で、学年一の才女ってもっぱらの噂だよ。」

なっ、なんなのそのテキトーな答え!一年間も待たせた挙げ句、なんでそんな答え方なの?この観望会の企画も、この質問も、わたしがどんな想いでやっていると思ってるの!?

「お、お前の興味はそんなものか!本当につまらない男だな。お前には情熱ってものがないんだ。」

隠し続けた気持ちが出てしまう。なんで気づかないの?!そんな想いも彼には届かない。

「そんなことないよ。僕も情熱を持って生きてるって。急にどうしたの?」

「本当にそうか?そうだといいな。だが、わたしにはお前の情熱が伝わってこない。」

まさに返す言葉になんとやらだと私は少し冷静になりそう思っていた…。彼の次の言葉を聞くまでは。

「えっ、そうかな?どうすれば伝わると思う?」

「どうすればいいかだって?!」

それはあんたが考えることでしょ!なんで他人事みたいに言うの!?

「そんなこと自分で考えるべきだ。お前が情熱を持っていることがわかったら、わたしに教えるんだな。それで、これから話を続けられるかどうか決める。」

わたしは怒りに任せて、そう言ってしまった。

「は、はい、わかりましたよ。情熱を持っていることがわかったら教えますよ。」

わたしは自分のいたたまれなさと彼を傷つけたことへの罪悪感から、この場を一刻も早く離れたかった。目に熱いものが込み上げてくる。

「ふん。それじゃあ、今日はこれで切り上げる。また今度、時間があるときにでも話をしよう。」わたしは、簡単には揺れない前髪を揺らして急いで部室を出た。

窓の外に目をやると、冬の冷たさに耐えるように木々が立ち並んでいた。


その夜、わたしはものすっごく落ち込んでいた。黄色いクマのぬいぐるみを抱え今日のことを思い出していた。なんてことを言ってしまったんだろう?彼に嫌われてしまったかもしれない。こんなにずっと好きだったのに…。わたしは目に涙を浮かべながら彼との思い出を振り返った。彼と親しくなったのは、いつだろう。去年の今ごろだったかもしれない。

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