トンネル

夕日ゆうや

トンネル

 仙台市の某所。そのトンネルの向こう側には、異世界があるという。

 俺と一ノいちのせ加賀谷かがやはトンネルの向こう側を見やる。

「普通のトンネルっぽいけど?」

 トンネルは昔使っていたのか、つる植物が蔓延はびこっているが、今でもしっかりしている。

 雰囲気はあるけど、確かに普通のトンネルみたいだ。

 俺たちは懐中電灯を片手にトンネルの中を進み始める。

「暗いな」

「そっち、大丈夫か?」

「きゃっ。何かいた」

 足下を照らすとそこにはネズミがいた。

「ね、ねずみかー」

 一ノ瀬はホッとした様子で足を進める。

 トンネルを抜けた先には草原が広がっていた。

 空には見たこともないような丸々とした茶色いトリが飛んでおり、野を駆けるユニコーンがこちらを睨む。

 遠くには城塞都市が見える。幌馬車や人の出入りが激しそうだ。

「ははは。やっぱりここは異世界だよ!」

「やった! 私たち、大発見じゃない!?」

「帰って報告しなくちゃ!」

 加賀谷はスマホを取り出し、撮影を始める。

「大スクープだぜ」

 大学の写真部としてはこれ以上ないってほどの成果だろう。


「いやー。あのユニコーンとか、すごかったな……」

 俺たちは一度帰り、準備をしてから探検しようという話になった。

 トンネルを再び抜けると、そこにはいつもの風景が広がっていた。

 仙台市の町並みが一望できる、この場所は嫌いじゃない。

 戻り撮影した映像を振り返ろうとする。

 が、

「なんだこれ?」

「おい。砂嵐になっているじゃないか」

「うそ、なんで映像が残っていないの?」

 映像のファイルはあるが内容は全滅していた。

「だって先異世界に」

 加賀谷は慌ててトンネルの向こう側を目指す。

 それにつられて俺も向かう。

 が、そこには異世界などない。ただの森が広がっていた。

「そ、そんな……」

 俺たちはいったいどこにいたんだ?

 膝から崩れ落ちる感覚を覚える。


 異世界はなかったのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トンネル 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ