第3話:『お化けレンガ屋敷』と猫もどき
『お化けレンガ屋敷』
そう呼ばれる隣の家を、私はぼんやりと眺めていた。
その名称に違和感はない。生い茂る樹々と苔むした廃墟は、昼間なのに薄暗く、陰々とした雰囲気をかもし出している。
しかし、人の侵入を拒んでいるようで、それでいてどこか惹かれるものもあって、私は正直、嫌いじゃないと思った。
そんなもの思いにふけっていると、ふと視線のすみに、庭を横ぎる『何か』が映った。
あの動きは……猫だ!
私は反射的に猫へと向かう。空き家だと聞いたからだろうか、人様の庭に入り込むのに罪悪感は薄かった。
姿勢を低くしてゆっくりと近づき、猫へとそっと手を伸ばす。
しかし……
「え……?」
私はピタリと手を止めた。その猫の背中に、小さな翅のようなものが見えたのだ。トンボの翅のような、透明で細長いものが耳の後ろあたりから伸びている。
猫じゃない……! そう思ったとたん、足が震えた。心臓の音が頭に響く。
謎の生物は頭をプルプルと振ると、こちらに気づいたのだろう、私へと顔を向けた。
何気に可愛らしかったが、金色の瞳が爛々と光り輝いていて『ソレ』が『可愛い猫ちゃん』などではないことを物語っていた。
猫のようだが猫じゃない。猫もどきだ。
そしてその猫もどきは、こともあろうに私の胸元に跳び込んできたのだ。
「わぁあっ!」
私はみっともなく叫んで『猫もどき』を振り払った。そいつはそれこそ猫のように、クルリと身を捻って着地する。
見るとその口元には、なぜか私がつけていたはずのペンダントがあった。
「え? あ! 私のペンダント!」
自分の胸元を確かめてみると、ペンダントが消えている。それはブドウ粒くらいの緑の石で、人からもらった大切なものだった。
猫もどきはさっさと身をひるがえし、敷地の奥へとぽてぽて歩いていく。
「返して!」
私は猫もどきの後を追った。
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