037 「大雑把に言ってしまえば、持ち運び出来るタンスです」

「魔力のコントロールが上手く行かなくて、雷雲が出て来て、島に雷を降らそうとしちゃったね。ちょっと危なそうだったから、念の為消したよ」


 わたくしは先程の質問をハニー先生に再び投げかけます。


「なぜ、ハニー先生とは違う魔法になりますの?(だから、なんであんたと違う魔法になる?)」


「カミナリゴロゴロ、ビリビリボルトだよ? そのままでしょ?」


 ……確かにそのままです。

 カミナリゴロゴロ、ビリビリボルトでした。

 ですが、それが違う魔法になるという疑問の回答にはなりません。

 ハニー先生もそのことに気付いたようで、


「魔法って、込める魔力量で効力が変化するの。今、千夏ちゃんが込めた魔力は、あの時あたしが使った魔法よりも、大量の魔力を使ってた。だから、あんなに強力な魔法になっちゃったの」


 ハニー先生は「それに」とわたくしが握っている杖に視線を落としました。


「そんな強力な杖を使ったら、高威力の魔法も簡単に放てちゃうよ」


 なるほど、それならかろうじて理解は出来ます。

 杖のおかげでもあると。


「とにかく、要練習。魔力のコントロールは感覚を掴めば簡単に出来るから」


「……分かりましたわ(分かってる)」


 それは、前回のムカ着火ファイヤーから言われ続けていることでして、どうやらわたくしは、自らが意図しない形で高威力の魔法を放ってしまうくらい、魔力を過剰に込めているそうです。

 消費する魔力を事前に設定するデバイスなら問題なく使えるんですけどね。

 ハニー先生はサテラさんに向き直り、


「で、サテラ、杖は問題なく動作した?」


「あ、はい、詠唱後の術式構成スピード、魔力放出量共に異常なく、ベストパフォーマンスだったと断言出来ます」


「だろうねぇ、あんな綺麗な魔力放出は久しぶりに見たよ。芸術的だった」


 はい、何言ってるの意味分からないターンです。

 別に良いですよ、後でフラン先輩にぜーんぶ聞きますから。

 フラン先輩はとっても凄いんですよ。

 わたくしが分からないことを、とても丁寧に分かりやすく教えてくださる上に、お菓子作りがとてもお上手なんです。

 なので、今大事なのは分からなかった事柄や、単語を曖昧でもいいので覚えておくことです。


「杖の機能についてのご説明をしたいのですが、よろしいですか?」


「構いませんよ(いいぜ)」


 サテラさんは、わたくしの隣に立ち、「失礼します」と、わたくしの左手に軽く手を添えました。


「栗栖様は、ミラージュボックスをご存知ないとのことですので、私から軽く説明をさせていただきます」


「あ、はい(ああ)」


 ミラージュボックス、聞いたことはありませんね。


「ミラージュボックスとは、杖に備わっている機能の一つでして、大雑把に言ってしまえば、持ち運び出来るタンスです」


 わたくしは、タンスを背負う図を想像しました。

 重そうです。


「ボックスの1にささやかですが、当社からのプレゼントをご用意致しましたので、取り出してみましょう」


「は、はぁ……(何言ってるのか、分からないけどな)」


「まずは、杖で数字の1を空中に描き––––」


 言われた通りに、杖を上から下へとゆっくり下ろします。


「––––次に、出現させる場所を杖で指し示します。今回は右手にしましょう」


 わたくしは右手を開き、杖で指しました。

 すると、手のひらの上に長方形の箱が出現しました。


「わっ、急に箱が出ましたわ!(何だこれ! 手品か! いや、魔法か……)」


「ミラージュボックスは、このように魔法空間内に任意の物を仕舞ったり、出したり出来る機能です」


「そ、それは凄いですわ!(やばっ!)」


 本当に凄いです! まるで、四次元ポケットじゃないですか! 明日から教科書は全部この中にしまいましょう!

 あ、以前セリナが何も無いところから教科書を取り出したのは、コレでしたのね!

 まったく、そういう便利なものは早く教えてくださいな!

 知らないと人生損するとは、まさにこのことではありませんか!

 わたくし、損してましたわ!


「そちらの箱の中身ですが、栗栖様はチョコレートがお好きだと聞いておりましたので、当社のチョコレートブランド、ル・ラパンユのガナッシュをいくつか選ばせていただきました」


「高いやつだよ」


 ハニー先生がこっそり耳打ちしてきました。

 というか、杖を作ってるのに、チョコレートも作っているんですね。


「これ、食べてもいいですか?」


「もちろん」


 箱を開けるには杖が邪魔ですね。

 サテラさんもそれに気が付いたようでして、


「杖から手を離せば、自動で指輪に戻ります」


 と教えてくださいました。

 恐る恐る杖から手を離すと、手を離した途端に、杖は消えて無くなりました。


「便利ですわねー(すげーな)」


「こちらの設定はオンオフの切り替えが可能ですが、紛失防止の為、オンにしておく事をオススメします」


 そうですね、何処かに杖を置いておいて紛失してしまった––––なんて事になったら困りますしね。

 ですが、杖といいますのは本当にハイテクですわね。

 ハニー先生が杖は高価な物と仰ってましたが、なるほど、確かにコレは高価になる理由が分かりますね。


 魔法を使うだけではなく、それ以外の部分でも使いやすさ、扱いやすさなど、様々な観点から効率を重視しているのが伺えます。

 杖の出し方や、仕舞い方一つ取っても、便利で簡単ですし、直感的な操作性です。

 色々な人の知恵が凝縮しているのでしょうね。

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