038 「まるで、千夏ちゃんのおっぱいみたいだね」
チョコレートを二つほど美味しく頂いてから(桃と杏仁、マンゴーとココナッツの香りが口の中に広がる素晴らしいガナッシュでした)、再び杖を取り出しました。
今度はミラージュボックスに仕舞う方法を、説明してもらうからです。
「まずは、仕舞うものを目視、存在を正しく認識してから、杖で叩きます」
わたくしはサテラさんに言われた通り、箱をジッと見てから、チョコレートの箱! と頭で考え、箱を杖で軽く叩きました。
「次は、仕舞いたいボックスを選びます。1番のボックスに仕舞いましょう。先程と同じように、数字の1を空中に描いてください」
わたくしは、数分前にやった通りに、上から下へと杖を走らせました。
すると、右手に乗っていたチョコレートの箱がフッと消えてしまいました。
「消えちゃいましたわ!(消えた! マジックか!? いや、魔法か……)」
「これで、1番のボックスにチョコレートが収納されました」
な、なるほど! これは本当に便利な魔法ですね! 生活が一変しそうです!
色々な物を持ち運び出来ますし、お財布のような貴重品から、小腹が空いた時用のお菓子まで仕舞えちゃいますよっ!
「この杖に搭載されているミラージュボックスの数は、全部で100個でして––––」
「ひゃ、ひゃくぅ!?」
突然、ハニー先生が大声を出しました。
「え、100って、え、多過ぎじゃない?」
「多くて困ることは無いと思いまして」
驚くハニー先生に対して、平然と答えるサテラさん。
「いや、それはそうだけどさぁ。普通は多くても20個くらいじゃん? てか、100個のミラボなんて今まであったけ? 最大でも50とかじゃなかった?」
「記録されてますのは、五年前、当社が開発したライシュⅧの42個ですね」
「超えてんじゃん! てか、倍以上になってんじゃん!」
ハニー先生は驚きながら、「流石ロウランファランカだねぇ」と感心した様子で杖を見つめました。
「この杖に内蔵されたミラージュボックスは、世界記録となる数でして、ボックスも用途に応じて使い分けられるようにと、12のサイズをご用意しました」
「小さい物は戸棚の引き出しくらいのボックスに仕舞って、大きいのはクローゼットくらいのボックスに仕舞うの」
ハニー先生が分かりやすい使い方を解説してくださいました。
なるほど、仕舞う物のサイズに合わせて、ボックスを使い分けると。
というか、クローゼットくらい大きなボックスがあるのは、シンプルに凄いですわね。
「ちなみに、この杖に搭載されたボックスの最大サイズは、130万立法メートルです」
「は、はぁ––––––––––––––––っ!?」
ハニー先生の今日1番の声が上がりました。
「99番と100番のボックスは、130万立方メートルでご用意いたしました」
「しかも、二つもあんの!?」
「はい」
「いやいや、一つで十分でしょ!? 130万って……」
「あの、それはどれくらいの大きさですの?(なあ、それってどれくらいデケーんだ?)」
「あー、千夏ちゃんの世界で言うところの、東京ドームが丸ごと入る大きさ」
「それはそれは、おっきいですわね(でぇぇぇぇかっ!)」
「それが二つも」
「おっきいのが二つも……(でぇぇぇぇかっ!)」
「まるで、千夏ちゃんのおっぱいみたいだね」
冗談はともかくとして。
東京ドームは、行ったことはありませんが、大きいというのは知っています。
それが丸々入ってしまうというのは、スケールが大き過ぎますわ。
「え、タダなんだよね?」
「はい」
「こんな大容量のミラボ付いてたら、城二つは建つよね?」
「かもしれません」
「え、メンテナンスや維持費がバカ高いとかは無いよね?」
「先程申し上げた通り、毎年の検査、用途に応じた調整、不具合も含め、この杖に関することは、当社にて無料でサービスさせていただきます」
「はーっ、すっごいねぇ」
わたくしにも段々と凄さが分かってきましたよ。
東京ドームが入るほど大きい、何でも収納ボックスが二つも付いており、他にも大小様々なボックスが100個存在すると。
そして、それをすべて無料でどうぞと言われていると。
え、わたくし騙されてますの?
おかしいですわよね、これ騙されてませんか?
不安になっちゃいましたけど?
「大容量ですので、ご旅行に行かれた際に、家を丸ごと収納し持って行く––––なんていう使い方も可能です」
どこでも我が家じゃないですか!
でも、それは何と言いますか、旅の醍醐味の一つを潰しているような気もします。
旅先の宿泊施設に泊まるのは、新鮮で面白いものですから。
「それでですね、こちらのミラージュボックスですが、気をつけていただかないといけない事が何点かございます」
あ、やっぱり。
ほーらね、やっぱり何かあると思っていました。
こんな凄い物をリスク無しに使えるわけないですものね。
「まず、ミラージュボックス内に、人や生き物、生物は仕舞えません」
「倫理的にアウトだからね」
まあ、わたくしもそれくらいは理解出来ますよ。
「植物や食品は収納可能です」
なるほど、生き物はダメと。
「こちらは、術式で仕舞えない物は自動で弾くように設定してあります」
では、収納出来なかったらダメなものだよーってことですね。
「次に、ボックス内は時間を凍結、内部空間を固定する魔法をかけてありますので、食品の保存や、壊れやすい物の収納も可能となっております。こちらは、ボックスごとにオンオフの切り替えが可能です」
「それは、今日作ったケーキが、一カ月後も美味しく頂けるってことですの?(それってよ、食いもんが腐らないってことか?)」
「その通りです」
素晴らし過ぎますわ! こ、これは、革命的ではありませんか!
今日からお夕飯をミラージュボックスにしまって、お腹が減った時に取り出して食べましょう!
「ですが、収納している質量分の魔力を常に消費し続けますのでご注意ください」
えっと、それは、つまり––––。
「収納している質量分ということは、大きければ大きいほど、魔力を消費しますの?(ってことは、デカいと消費もデカいのか?)」
「その通りです。もちろん、収納している数が増えれば増えるほど、消費魔力も倍増します。もしも、魔力が足りなくなってしまった場合、自動的に外に排出されてしまいますのでご注意ください」
なーんだ、無限に仕舞えるわけではありませんのね。
ちょっと、ガッカリです。
しかし、ハニー先生はしたり顔でサテラさんを見ていました。
「なるほどねぇ、だから無料なんだ。こんなミラボを扱えるのは、莫大な魔力量を持つ、千夏ちゃんくらいだもんね」
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