10、仕事の成果(2)

「あらたまって何だ? 人名ばかりが書かれているようだが」


「あの、まだ推測の範囲ですからそのように理解をお願いします。作業の過程においてですが、ちょっと怪しいと思える人たちが見つかったといいますか」


 これでピンと来たようだった。

 ケネスは「あぁ」と頷きを見せる。


「つまりあれか? 横領おうりょうか?」


「どうにも支出分と、実際に調達出来た物品の金額が合わないことが多くありまして。その辺りを調べますと……はい」


「出るわ出るわということだな? まぁ、仕方あるまいか。ろくに管理もしなければこうもなろうが……ふむ」


 不意にだ。

 ケネスがあごをさすりながらに見つめてくる。

 セリアは身じろぎしながらに応じることになった。


「え、えーと……閣下?」


「いやまぁな。優秀だなと思っているのだ。それもこのシェリナにおいて2人といないほどに優秀であれば……少し困る」


 セリアは「へ?」と首をかしげる。


「困る……ですか? えーと?」


「今それを口にすれば、お前の能力ばかりを評価しているようでなぁ。出来れば、裏表の無い思いとして受け取って欲しいものだが」


 そうしてケネスは腕組みで黙り込んだ。

 悩んでいるといった雰囲気だが、その悩みの内容は皆目検討がつかなかった。


 この風変わりな友人は一体何を悩んでいるのか?


 不思議の思いで見つめる時間が続く。

 そして、


「……閣下。よろしいでしょうか?」


 扉がコンコンと鳴り、そんな侍従の声が部屋に伝わってきた。

 ケネスは「む?」と一言して顔を上げる。


「一体なんだ? まぁ、入れ。今、忙しいところではあるのだがな」


 別に、忙しいところなど何も無かったような。

 セリアにはそうとしか思えなかったが、ともあれ扉は開いた。

 侍従が申し訳なさそうに頭を下げつつ入ってくる。


「それは失礼を。ですが、妙な客人が訪ねてこられまして……」


「妙な? それは予定も無くということ以上の意味か?」


「はい。何故か妙に荒々しいと申しますか興奮している様子なのです」


 セリアはケネスの妙な態度を忘れることになった。

 代わって、不安の思いで彼を見上げることになる。


「あの、何か問題を起こされました? 学院の時のように、またどなたかを怒らせましたか?」


「その可能性は否定せんが、それで俺に直接文句をとはな。骨があるヤツもいるものだ」


 彼は妙な感心を見せ、その様子にセリアは呆れることになる。

 ただ、ケネスが誰かを怒らせたという話では無いらしい。

 侍従はすぐさま首を左右にした。


「いえ、閣下へのお客人ではありません。先方は、声を荒げてセリア様の名を口にしていまして」


 セリアは「へ?」と自身を指差すことになった。


「え? 私ですか?」


「はい。若い男女の2人組でして、男性はシュルト家、女性はヤルス家の者と名乗っておりましたが」


 セリアは「ん?」と首をかしげることになった。

 シュルト家の男と、ヤルス家の女。

 若いとなれば、想像は難しくない。

 婚約者であったクワイフと、妹のヨカ。

 おそらくは彼らが尋ねてきたのだろうが、


(……なんで?)


 胸中には疑問しかなかった。

 何故、彼らが自分を尋ねてくるのか?

 言葉なく黙り込むことになり、ケネスが眉をひそめて見つめてくる。


「どうする? よく分からんが、追い払っておくか?」


 セリアは咄嗟には返事出来なかった。

 正直なところ、あまり会いたくは無かった。

 ただ、何事か問題が起こったのであればと思ってしまうのだ。

 あるいは両親に何かあったのではないか?

 ヨカの口車に乗ってしまった彼らだが、やはり肉親のこと。

 どうしようもなく気にはかかる。


 セリアはしばし思案し……ひとつ頷く。


 どうしても万が一が気にかかった。

 セリアはケネスに首を左右にして見せた。

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