11、望まぬ再会(1)

 わずかに20日と少しだ。

 久しぶりというほどに期間は空いていない。


 だが、応接間に招いて再会した2人には大きな変化があった。


(ど、どうしたの、これ?)


 セリアは目を丸くすることになった。


 2人共、見るからにに顔色は良くなかった。 

 あまり寝られてはいないのかもしれない。

 クワイフにしてもヨカにしても、顔は青白く目元にはクマが浮かんでいる。


 やはり、だった。

 何かあったのかもしれない。

 それが両親についてかは分からなかったが、セリアは思わず前のめりになる。


「な、何? 一体貴方たちはどうして……」


「セリアっ! この恥晒しめっ! 全ては自業自得だというのに、この蛮行はどうしたことだっ!」


 問いかけを忘れ、セリアは目を丸くすることになる。

 怒声の主はクワイフだった。

 荒々しく立ち上がりながらの罵倒であったが、一体彼は何を言っているのか?


 呆然としていると、隣で動きが起きる。

 隣には、心配だからとケネスが同席してくれていた。

 泰然たいぜんと座っている彼は、「ほぉ?」と感心めいた呟きをもらした。


「なんだ? 俺が知らない内に復讐にでも打って出たか? 意外とやるな」


 もちろんのこと冤罪えんざいである。

 セリアは慌てて首を横にふる。


「ち、違います違います! ちゃんと職務に専念してましたからっ! まさか復讐だなんてそんな……っ!」


 釈明しゃくめいには、クワイフが怒声を返してきた。


「しらばっくれるな!! 気がつけば、金庫は空だった!! ヨカがこれだけがんばっていたのにこれだ!! お前の所業しょぎょう以外に考えられるか!!」


 セリアは「はい?」だった。

 唖然とするしかなかった。

 どうやら窃盗せっとうの疑いをかけられているらしいが、身に覚えなどはもちろん無い。


「な、なんですかその疑いは!? ひどいですよ!! そんなことするわけが無いじゃないですか!!」


 怒りの思いしかなく、叫び返すことになる。

 だが、クワイフはセリアの犯行を信じ切っているらしい。

 歯ぎしりしてにらみつけてくる。


「ざ、れ言を……っ! どれだけお前の性根しょうねは醜いんだっ!! 投資先からの配当も無くなったっ!! これもお前の所業だろっ!! 分かっているんだぞっ!!」


 セリアは怒りを忘れることになった。

 「へ?」と首をかしげる。


「投資先からの配当が? え、なんで? なんでそんなことに?」


「し、白々しいことを……っ!!」


「い、いや、本当に分からないから。何かあったの? 投資先とか、関係する商家と何か問題でも起こした?」


 クワイフは変わらず歯ぎしりを続けていた。

 やはり彼は、全てが元婚約者によることだと信じ切っているらしい。

 しかし、隣のヨカだ。

 セリアは思わず見つめる。

 彼女はまったく違う反応を示していた。

 どうにも居心地の悪い様子で、視線は明らかに左右に泳いでいる。


「……ふーむ。なんとも分かりやすいな」


 ケネスが呟いたが、おそらくそういうことだった。

 ただ、クワイフばかりは、それを理解していないらしい。


「とにかく来てもらうぞっ!! この償いは必ずしてもらうからなっ!!」


 クワイフが憤怒の表情で迫ってくる。

 セリアは思わずびくりと体をすくませることになった。

 不条理への怒りはあったが、暴力に訴えられるのではと思えば恐怖はどうしようもなかった。


 しかし、セリアの胸中に安堵が広がることになる。

 ケネスだ。

 いつの間にか立ち上がっていた彼が、クワイフの前に立ちふさがってくれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る