第19話 天国

ふぅ、深呼吸して空泉に近づく。怒神気をかきわけていって空泉の目の前に立つ。「今助けに行くね。」と小声で言い、手を伸ばし、空泉に触れる。


その瞬間神気がガバッと出てきて、私を包んだ。すっと空泉の中に引き込まれる感覚。空泉の中は怒神気ではなく、神気が満ちている。水に触れている感覚はあるのに濡れている感覚はない。とても心地よい。浅いはずなのにいつまでたっても底につかない。いや、数秒だったのかもしれない。どんどん沈んでゆく。


ふっと引き戻された。目を開けたら、とてもまぶしかった。濃密な神気が漂っていた。私は危機感も忘れ、きれいだなぁ。と思っていた。その時悲鳴が聞こえた。「ここどこなのって言ってんじゃん!答えてよう!」「おろせよ!てめえ!」「るいっぺ!七愛ちゃん!」後ろを振り向いたら、3mぐらいありそうな、半裸の筋肉隆々な人が立っていた。その人の手には、「るいっぺ!七愛ちゃん!」ふたりがぶらさがっていた。「なんだ?空泉の守り人よ。」あまりの威圧感に息が詰まった。この威圧はおそらくこの間お祖父様と神孫子さんが教えてくれた『あれ』だろう。私は神気を全然纏ってないから効きにくいってお祖父様言ってたのにそれでもこれ。体が上手く動かない。だけど、本当に効きにくいのだろう。頑張れば、少しぎこちないが動ける。大丈夫、できる。るいっぺと七愛ちゃんのためだ。お嬢様って呼ばれて、小学校のころから一人浮いていた私ととっても仲良くしてくれた。るいっぺみたいな友達は今までいなかった。がんばらなきゃ。この人は確か神孫子あびこかな?神孫子は、斬ろうと思っても斬れなさそうだし、もし斬れても、斬ったら不敬罪で神に殺されそう…。向こうはあんだけ神気纏ってるし、『あれ』効きやすいでしょ。正仄空泉を使って威圧?しようとする。効くよね…?やった瞬間少し神孫子の顔がこわばったが、すぐキッと顔をあげた。「若く神気も少ない成りたての守り人が私を神圧しんあつしようとするなど笑止千万。」その言葉に背筋が凍った。神圧とは『あれ』のことだろう。私が正仄空泉をつかってやっている神圧を膨大な神気で言葉を発するだけで完全に操っている。さっきのは手加減していたのだと分かった。本当に動かない。体が言うことを聞かない。神気が多い分効いているはずなのに、私は神気が少ないから効きにくいはずなのに、神孫子の方が強い。るいっぺと七愛ちゃんにちかづけない、助けられない。それどころか、私も殺されちゃうんだな…「ふん、まぁお前は守り人だ。ここに来ただけで死刑というわけでもない。やったことは神圧。私が常時行なっていることであるし、その行為自体も死に値することではない。私は悪魔ではない。許してやろうじゃないか。」!

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