二章 Nullis amor est sanabilis herbis. 2

                 ◇



 あれから襲撃もなく、カノシタが宿泊しているホテルへ無事に到着した。全国展開するビジネスホテルの受付を通る際、何か言われるか気になったカノシタだが、そんな心配は無用だった。そもそも、デリヘル呼び込み可のビジネスホテルなのだから当然だった。

 エレベーターに乗っている間や、二人並んで廊下を歩くだけなのに妙な緊張感があった。こんな場所にもイカれた連中が襲ってくるのではないかと不安だった。そんなことを考えていたが、既に隣には頭のネジがないクソガキがいる訳だが。

 当の本人であるノアはというと、ホテルの近くにあったコンビニで買ったモンスターエナジーピンクを、ストローで飲んでいた。

「おっじゃましまーす」

『1023』の部屋をカードキーで開けて入る。高級ラブホテルより随分と狭いが、この矮小さが妙な安心感と心地よさを抱かせた。

「さっさと文書出してよぉ」

「ないってそんな物……」

 嫌々になりながらキャリーケースを開けた。着替えや東京土産などしかない。

「は?」

 と、思っていたのだが、。こんな物を入れた記憶はないし、貰った記憶も買った記憶もない。中に何か入っているようで、おそらく書類だろう。中身についても知らなかった。

「なにこれ?」

「それそれ! やっぱりあるじゃん!」

 文書を手にした瞬間、喜々として声を上げたノアはカノシタから文書を取り上げた。

「それじゃ、もう用はないかなぁ」

「待て待て待て待てっ!?」

 息するように拳銃を抜いて向けられ、慌てふためくカノシタ。

 引き金に指が掛かる前。ノアのアイフォンに着信がきた。拳銃を向けたまま、左手でアイフォンを持って電話に出た。

「もしもしぃ。文書は手に入ったよぉ。だから処分するところでぇ────え? そうする? ノアはいいけどぉ…………うん。わかったぁ。ばいばぁい」

 電話が切られた。自分の命が終わる時だと絶望したカノシタだったが、ノアは拳銃を下ろしてバッグに片付けた。

「ノア、お腹空いてるんだよねぇ」

 不満顔から一転、甘い笑顔で猫のように強請り始めるノアが、相変わらず切り替えの良さを見せつけられて言葉も出なかった。

「中華料理、食べに行こっかぁ」

 どうやら、まだ生き存えるらしい。同時に、このぴえん系殺し屋少女からもまだ離れられないらしい。

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