第15話 告白

「ねぇ、鳳君て、好きな子いるでしょ」


ある日、社員食堂でご飯を食べていたら、隣の席に、真鍋まなべいつか、と言う先輩が、座って、そう言った。


「え?」


僕は、どうして急にそんな事を聞かれるのか、訳が分からなかった。でも、いつか先輩は続けた。


「その子はぁ、きっと、可愛くて、素直で、純粋な子なんだろうね…」


僕は、何となく、苛立った。まるで、天稀の事を、軽々しく言われているようで、気に喰わなかった。


「いませんよ。好きな人なんて…」


「嘘だね。私ね、見たことがあるの。2人が一緒にいるところ」


「え?」


「何年前だったかな?どっかの書店で、2人でアルバイト、してたよね?」


「あ…本当に、天稀の事…知ってるんですか?」


「うん。可愛かったから覚えてる。2人とも」


「え?」


「鳳君も若かったし、ついこの間まで、どっかで見た事あるのに思い出せないなぁ…って思ってたんだよね」


「あ、じゃあ、天稀の事、何か知りませんか?どっかで見かけたとか、知り合いにいるとか」


駿は、少し、必死だった。そんな都合よく、いつか先輩が知っているはずも無いのに…。


「さぁ…あれ以来、見た事ないけど。…やっぱり、その子の事が好きなんだ」


「…………」


僕は、気持ちがどす黒くなった。天稀の事を、軽々しく他人に口にして欲しくなかった。おまけに、こんな風にからかうような口調で。


「あ、怒ってる?ごめんね、そんなに想ってるとは思わなかったから…」


いつか先輩は、いきなり真剣な顔になって、僕に謝った。その表情で、僕のどす黒い気持ちが、少し、和らいだ。


「あ、いえ。大丈夫です」


「その子、どっか行っちゃったの?」


「あ、いや…先輩には関係ないですから…」


「そうだけど…。何か力になれるかも知れないじゃない」


いつか先輩が、どうしてそんな事を言うのか、僕にはよく分からなかった。その表情をいつか先輩は読み取ったのだろう。こんな事を言ってきた。


「私は、真剣に、鳳君が好きだよ」


「え?」


「『え?』ばっかだね。私、からかってるつもりも、ふざけてるつもりも、馬鹿にしてるつもりもないから。本当に、鳳君が好きなだけだから」


「…あ、はぁ…。でも…すみません…。僕、本当に天稀…その、先輩が書店で見かけた子が好きなんです」


「でも、さっき、何処にいるか分からないような事言ってなかった?」


「…1年以上同棲してたんですけど、突然、いなくなっちゃって…」


「え?そうなの?どうして?」


「それが分かってたら、今頃何処にいても迎えに行くんですけどね…」


駿は、とても悲しそうな顔をした。その顔を見て、いつかは、言った。


「その様子じゃあ、私が踏み込む余地はなさそうね…」


「は?」


「私、鳳君が入社してからずっと、鳳君の事が好きだったの」


「え!?」


「そんなに驚く?鳳君、人気あるじゃん。こういうの、慣れてると思ってた」


「や、そんな事ないですよ…。僕は、社交的な方じゃありませんから…」


「私は…もっと鳳君の事が知りたくなったよ…」


そう言うと、いつか先輩は、席を立った―――…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る