第14話 何処にいるの?
「おぉー!どうした?鳳君」
「お久しぶりです。店長」
日曜日、僕は久々に昔、天稀と一緒にアルバイトをしていた、書店に立ち寄った。店長は変わっておらず、でも、アルバイトのメンツは、一新していた。僕が知っていたのは、古株の
「おっす!鳳!元気か?」
「あ、富田さんも。元気そうで…」
「まぁな。…その様子じゃあ、まだか…」
「え?」
「天稀ちゃんだよ。まだ、会えてないの?」
「あ…はい。まぁ…」
「それで、久々、ここ来てみようなんて思ったんだ?」
「や、そんなことは…無いんですけど…」
図星だった。もう、探す当てのなくなった僕に出来るのは、たまに、思い出の場所に現れる、それだけだった。遊園地も、何回か行った。やっぱり、お化け屋敷は…入れなかったけど…。
「じゃあ、行きます。すみません。お仕事中に…」
「あぁ、またいつでもどうぞ」
店長は、そう言って笑った。
「ありがとうございます」
僕はそう言って、お辞儀をして、店を出た。足は、とりあえず、左に進んだ。どこか目的地がある訳じゃなかったから、何処に向かおうかと、向かいながら考えてた。考えも無しに、歩いてたら、なんかこじゃれたカフェがあったから、僕は、何となく立ち寄った。
「いらっしゃいませ。こちらのお席にどうぞ」
「キャラメルラテ一つ、ください」
「かしこまりました」
僕は、甘党だ。男らしくない、と、天稀にからかわれそうだから、天稀には話してない。
ふと、向かいの席の背を向けている女の人が目に入った。綺麗な長い茶色の髪の毛。ちょっと華奢な体型。少し…似てた。天稀に。でも、そんなはずないよな…。こんな近くにいるなら、どっかでとっくに会ってる。
でも、顔が見たい。こっちを向かないかな?チラッとでも良い。横顔だけでも見せてくれないかな?
しかし―――…、その人は、一度も振り返ることなく、レジを済ませ、僕より先に店を出て行ってしまった。
「似た人…これで18人目だ…」
そう。こんな事が、もう18回もあった。だから、そんなに期待しなくなってる。最初の人は、トイレに行くふりをして、顔をちゃんと確認したし、その後も、少し似てると、どうしても目が行ってしまう。
カチャリ…。
金属と金属がぶつかり合う音がする。僕は、まだ、あのアパートにいた。いつ、天稀が帰って来ても良いように。天稀の居場所は、ここだよ、って、語りかけるように…。
「何処にいんだよ…天稀…」
何だか泣けてきた。最近は泣いていなかった。吹っ切らなければと、過去の想い出にしなければと、単なる失恋じゃないかと、何度言い聞かせたか知れない。でも、頭の中で、それこそ膨らんで来るんだ。天稀の笑顔も、すねた顔も、恥ずかしそうな顔も、泣き顔も、悲しい事を、悲しくなく話す事も、全部愛おしいんだ。
ただ一つ、僕の中で、天稀を待っている決定的な根拠…とまでは行かないけれど、合鍵が、戻っていない。多分、天稀が持っている。だったら、ここにいないわけにいかない。
「どうか…戻って来て…」
ぽつりと、呟いて、僕はその日、眠りについた―――…。
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