第13話 社会人になっても
「御社を志望いたしましたのは…」
僕は、大学3年生になって、就活を始めた。中々難航したが、3社、内定をもらうことが出来た。
僕は、天稀と別れて…付き合っていたのかさえ、天稀が姿を消した時点で分からなくなったけど、別の彼女らしき人は、作らなかった。その答えは即答できる。
『天稀が好きだから』
いつか、天稀が言っていた。
「駿はモテルでしょ?」
「なんで?」
「だって、背が高いし、髪型だってちゃんとしてるし、清潔感あるし、顔も良いじゃん」
「そんな事ないよ。まぁ、正直告白された事は何回かあるけど、彼女なんて、作った事ないよ?」
「じゃ、やっぱ、童貞だ!」
「ぶっ!!!」
僕は、飲んでいたジュースを吹き出した。
あんな、会話で良い。また、天稀と話したい。天稀と笑い合いたい。天稀と書店でアルバイトをしていた頃に戻りたい。だけど、そうも言ってらんない。もう1年したら、大学を卒業して、就職して、社会人としてしっかり、路を歩かなければならない。
…という事は、このまま、もう、天稀の事は忘れて、次へ進まなければならないのだろうか?
天稀を忘れる?どうやって?あんな強烈な奴いるか?可愛くて、素直で、面白くて、頭良くて、強くて、あんな弱い…奴…。僕がいなきゃダメだと思ってた。僕がいなきゃ、天稀は生きていけないって、自信過剰になってた。依存してたのは、天稀じゃなく、僕の方だった。そんな事にも、気が付かなかった。
僕は…ダメな奴だ…。
そして、一年が過ぎ、僕は社会人になった。仕事はきつかった。ブラックではなかったが、要領を得るのに、僕は人より時間がかかる傾向にあった。上司に小言を言われるのは、もう慣れっこになるほどだった。でも、先輩からは可愛がられた。特に女性の先輩に。きっと、天稀の言う『背が高い』『髪型も決まってる』『清潔感がある』『顔も良い』と言うやつのせいなのだろう。
「ねぇ、鳳君て彼女いないの?」
会社の飲み会で、女性の先輩から聞かれた。
「あ、いないです」
「勿体なーい!私なら、すぐ空いてるよ?」
「あ、なら、私も空いてる!!」
「先言ったの私ー!」
「恋に順番は関係ないの。お馬鹿さん」
「逆だったら、同じこと言って邪魔する癖にぃ」
先輩方は、酔ってらっしゃる。僕は下戸なので、ウーロン茶とか、オレンジジュースとか、ソフトドリンクばかり飲んでいた。これで、みんなと同じ会費は厳しい。
「ねぇ!聴いてる?駿君!」
「あ、聞いてます」
「じゃあ、好きな人は?好きな人はいないの?」
「…!」
僕は、2年間の想いが、爆発しそうになって、グッと呑み込んだ。
「…い、いません…」
「なら良いじゃん。付き合うだけ!付き合ってみようよ!」
「あ、でも、僕、そう言うの、得意じゃないんで…。すみません…」
「うぶだねー」
『いない』はずがない。もう、ずーっと片想いしてる。でも、もう何処にいるのかさえ、分からない。でも、天稀の他の人と付き合うとか、キスするとか、それ以上とか、考えられないんだ。本当に、本当に、それほど、天稀の事が、好きだった…。
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