第7話 駿、と言う人

「…落ち着いたらで良いから、お風呂、入りなね。風邪ひかないように…。僕、食事の用意、しておくから」


5分くらい、私の背中に付き合ってくれていた鳳さんが、そう言った。私は、とても、自分の火傷の跡に傷ついた。一応、女だ。こんな、体、誰にも見せられない。誰だって、こんな跡を見たら、何があったかと聞くだろう。その都度、私は親に虐待され、熱湯を浴びせられたからだ、と言わなければならないのだろうか?


洗面台の鏡で、背中を名一杯覗き込んで、お尻にまで広がる火傷の跡に、私は、今にも、生きる希望を失いそうだった。ここに来なければ、こんなもの見ずに、一生、気楽にいられたかも知れないのに…。なんて、鳳さんの優しさを少し憎んだ。理不尽で、申し訳なかったけど…。


それでも、気を取り直して、私は、初めて、湯船に浸かった。お風呂は大きくて、足が延ばせた。温度は40度。ちょうどいい。首までずーっと浸かってたら、5分くらいで、のぼせて来た。もったいなかったけど、お風呂から出ると、ふわっふわのバスタオルで、体を拭いた。柔軟剤…と言うのが入っているのだろうか?良い匂いがする。初めての経験だ。





「上がりました」


「あ、ゆっくりできた?」


「はい。さっきは…すみませんでした…」


「仕方ないよ。天稀ちゃんのせいじゃない。全部、周りの人が悪いんだ」


「そう…なんですか?」


「え?」


「私が…悪いんじゃないんですか?」


「なんで?」


「だって、私が悪いから、みんな、私が嫌いで…みんな、私が憎いんじゃ…」


「それは違うよ、天稀ちゃん。天稀ちゃんは何一つ悪くない。天稀ちゃんは素直だし、強い子だし、ちょっと、強がり過ぎだけど、悪いことは何一つとしてしてないと思うよ」


「そうでしょうか」


「うん。あ、ご飯、出来たよ。食べよ」


「あ、ありがとうございます」


カタン…。テーブルに、どんぶりが二つ。それは、インスタントラーメンに、卵とネギが乗っているだけのシンプルなものだった。でも、あったかい食べ物なんて、何年ぶりだろう?


「ふー…ふー…ズズズ―――…。ごくん。…美味しい…」


「良かった」


そう言うと鳳さんもズズズとラーメンをすすりだした。何となく、笑顔が交わされる。とても、居心地がいい。こんな事、私の人生で起こるんだ…。と、何だか、信じられなかった。


「「ごちそうさまでした」」


「おいしかったです。ありがとうございました。じゃあ…」


「何言ってるの!お城は捨てたでしょ?」


「え?」


「今日から、ここが、天稀ちゃんの家だよ。ベッド、使って良いから。僕、ソファ使うし」


「でも…」


「良いから。弱くなって。いい意味で」


「ありがとうございます。鳳さん」


「駿でいいよ。僕もまだ18歳だから。大学生だけど」


「え、じゃあ、増々、こんな私、お金かかって迷惑なんじゃ…」


「あー…実は…僕の家、金持ちでね、学費はもちろん、生活費も全部仕送りなんだ。バイトは、社会経験と、興味本位。だから、その辺は心配しないで」


「そう…なんですか?」


「敬語も良いよ。兄妹みたいに、仲良くしようね」


「…うん」


「じゃ、おやすみ」


そう言うと、おお…駿は、寝室から出て行った―――…。

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