第18話 処女は良い。童貞は良くない
急に泣き出したライサ嬢。
俺は励ますこともできず、立ち去ることもできず、ただ案山子のようにボーッと突っ立っていた。
だって、何で泣いてんのか分からんし。
貴族相手に迂闊なことも言えないし。
5分くらいして、嗚咽の収まったライサ嬢が立ち上がった。
「…見苦しいところを見せたわ」
「いえ…。ところで、毒消草を探しているんですか?」
「ええ…冒険者ギルドで特徴は聞いてきたのだけど、正直、全く見分けがつかなくて…」
実際、毒消草とタンポポは似たような黄色い花をつける。
平民なら子供のうちに親や兄弟から見分け方を教わるのだが、貴族だと毒消草なんか見たこともないかもしれない。
「諦めた方がいいのでは?」
「でも…丸一日使ったのに…」
丸一日使った結果がタンポポ一本ではなあ…。
「ええっと、昨日ギルドで魔法を使っているところを見ました。魔法が使えるなら
「小鬼退治…?」
「小鬼は見たことありますか?」
「それくらい当然ある」
「小鬼は、まあどこにでもいますが、東の森がおすすめの狩場です。小鬼を5体倒したら銅級冒険者になれますよ。毒消草を集めるより手っ取り早いし、向いているかと」
「そうなの…?」
「受付で説明されませんでしたか?」
「いえ、全く…。初心者は薬草採取が基本と聞いて…」
ああ…。
さてはバーナードさんだな?
あの人は不親切な説明に定評があるからな…。
「分かった。また明日ギルドに行き、小鬼退治の依頼を受ければいいのね?」
「小鬼退治は常設依頼なので、その辺で5体倒して討伐証明用に耳を切り取って持っていけば、それで昇格できますよ」
「そう」
と言うと、ライサ嬢は森の方へ歩き出した。
「待って待って!今日はやめた方がいいですよ。もう夜だし、危ないですよ!」
「…それもそうね」
あぶねー、この世間知らずお嬢。
結局俺達は2人並んで町に戻った。
冒険者ギルドの前で別れるまで、終始会話は無かった。
翌日。
また俺は昼前に冒険者ギルドを訪れていた。
昨日ギルドに金狼の件を報告しに行ったのだが、バーナードさんがいなかったのだ。
ライサ嬢の話からして朝当番だったっぽいからな。
遅番までやってるわけないか。
ギルドマスターも不在だったので、仕方なく3日連続ギルド入りし、バーナードさんに詳細報告をした。
「金狼がいたか」
バーナードさんは眉間に皺を寄せた。
「銀級だけで対処できそうか?」
「厳しいと思います」
長年冒険者をしていると、初見の魔物でも大体の脅威度が分かるようになる。
以前見た
流石に土竜ほどではないと思うが、金級案件であるのは間違いない。
「それでも早急に対処しなくてはならん」
西の森に陣取られては銀級以下の冒険者を西に派遣することができない。
西部との交流は断絶すると言っていい。
昼間は基本寝ているだろうが、うっかり起きている金狼に遭遇したらほぼ確実に死ぬ。
そもそも銀狼の群れだけでも早急に対処が必要な案件だ。
「金級冒険者の派遣依頼を他所の冒険者ギルドに出すが、期待しない方がいいだろう」
そもそも金級冒険者の数は少ない。
丁度手の空いてる金級冒険者が迅速に駆けつけてくれる可能性は低い。
「銀級以下の冒険者と町の兵士らで対処しなければならんだろう。その場合はお前にも行ってもらうぞ」
「分かってますよ」
総力戦だ。
多数の死傷者が出るだろう。
そもそも勝てるかも不明だ。
しかし冒険者である以上、参加しないわけにはいかない。
戦いこそが俺達の仕事なのだ。
「ねえ」
別室での話し合いを終え、ギルドを出ようとしたところ、またしてもライサ嬢に捕まった。
「…なんでしょうか」
「銅級に上がったのだけど、次はどうしたらいいの?」
「もう昇格したんですか」
魔法が使えれば小鬼程度は問題にならないが、それにしても昨日の今日で、しかもまだ昼だぞ。
朝早くに出発したとして、最速で狩らなければ昼には間に合わない。
やはり結構な使い手なのは間違いないようだ。
「倒すこと自体は簡単だった。ただ、耳を千切るのがちょっと…」
「ああ…」
まあ、初めは皆んなそうだよな。
でも小鬼の耳ってあんまり血が出ないから、意外とグロさは控えめだ。
ちゃんと初心者向けではあるんだよな。
「それで、どうすればいいの?」
「あの、そういうのは受付で教えてもらうものなんですが…」
「教えてくれないから聞きに来たのよ」
いや、バーナードさん以外ならちゃんと教えてくれるんだけど…。
バーニーちゃんとか良いぞ。
めちゃくちゃ丁寧に教えてくれるからな。
でも今日バーニーちゃんいねえや…。
「何で俺に…」
「冒険者で一番話が通じそうだから」
「…」
ちょっと否定できなかった。
冒険者って脳筋が多いからな…。
俺は助けを求めてバーナードさんに視線をやったが、思いっきり目を逸らされた。
「…銅級の討伐依頼を10件受けると銀級昇格試験が受けられるようになります。依頼掲示板は向こうで、今は西の方が危ないので、西側には行かない方がいいと思います」
「分かった」
まずいな…。
完全に説明ポジとしてロックオンされた気がするぞ。
しかも、狼の件があるから遠方依頼も受けにくいし。
どうしたもんか…。
それから3日後。
金狼の件は既に広まっており、町には物々しい雰囲気が流れていた。
冒険者ギルドには普段より多くの冒険者が待機しており、決戦の日を待っていた。
金級冒険者は未だ来ない。
「エドワード、お前って童貞?」
「ゲホッ、ゴホッ!な、何すか急に!」
ギルドで待機しているとダックス達が話しかけてきた。
「知らんのか?童貞はタマが当たらないらしいぞ」
「お前の近くにいれば敵の攻撃が全部当たらなくなるってことだろ?最強じゃん」
「…知ってますか、金狼は火を吹くらしいですよ。金玉は熱に弱いらしいので先輩達も気を付けた方がいいっすよ」
「もし俺の金玉がやられたら、その時は金狼に決死の特攻を仕掛けてやるぜ…」
「女と遊べなくなったら人生終わりだからな…」
「どんな覚悟の決め方ですか…」
脳と股間が直結しているダックス達は置いておくとしても、皆んなそれぞれ覚悟は決めていた。
最悪の場合、全滅すらあり得る戦いだ。
中には姿が見えなくなった奴もチラホラいる。
それでも大半の冒険者がギルドに残った。
何だかんだ言っても、皆んな冒険者という仕事に誇りを持っているのだ。
戦って死ぬ覚悟なんてものは、とっくの昔に済ませてあるのだ。
「おい、誰か来たぞ」
誰かの言葉に、皆んなが一斉にギルド入口を見た。
そこには見覚えのない女が立っていた。
金髪の美しい女。
だが、立ち姿に一本線が通っている。
腰には剣を
女は受付まで行くと…。
「狼退治に来たわ。金級冒険者のシェルティよ」
と言った。
「「「う、うおおおおおおおおお!!!!!」」」
ギルドは男共の野太い歓声に包まれた。
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