第4章 ヒロイン登場

第16話 アレは熱に弱いらしい。冷やすのはセーフ

寒い寒い冬が終わり、春。

俺は17歳になった。


「よう、エド!」

「今帰りか!」


冒険者ギルドに入ると、ダックスとテリーがいた。


「酒臭っ!」


時刻は夕暮れ時。

そろそろ夜ではあるが、まだ酔っ払うには早い時間である。

しかも、ここは冒険者ギルドの中だ。


「何で2人ともベロンベロンなんですか」

「ワハハ、越冬用の酒が余ってたからよ!」

「俺達で消費に協力してたのさ!」

「はあ、そっすか…」


俺は雑に2人をいなして、受付に向かった。

酔っ払いに付き合っていても何の益も無い。


(バーニーちゃんのとこは…埋まってるか…)


仕方がないので、今日も俺はバーナードさんの受付に行った。


「大牛蛙の討伐終わりました」

「討伐証明は?」

「はい」


受付カウンターに蛙の舌の詰まった袋を置く。


「うむ」


バーナードさんは袋をチラッと見ただけで、中身の確認もせずに金を放ってきた。

まあ、いつものことだ。


「何の依頼だー?」

「肉は無えのか肉は!」

「大牛蛙の肉は油臭くて食えないらしいっすよ。あ、油は取ってきました」

「油で酒が飲めるかバカヤロー!」

「お前よく蛙の依頼受けてるよな。可愛い女蛙でもいたのか?ワハハ!」

「うぜえ…そんなことより、2人は早く金返して下さいよ」

「嫌だ!」

「断る!」

「言い切ったなあ!?」


…まあ、俺も今更金が返ってくるとは思ってない。

あれは勉強代だったのだ。

誰であろうと他人に金を貸すべからず、という人生の教訓を学んだのだ。

そう思うことにしよう。


(はあ…うるさいし、臭いし、鬱陶しいから、今日はとっとと帰ろう)


そう思って出口を見たら、丁度誰かがギルドに入ってくるところだった。




「ああん?誰だありゃあ?」

「誰だろ、見覚えないっすね…」


顔はフードに隠れていてよく見えない。

着ているものは一見して上等と分かる仕立てだ。

フードから覗く髪は赤く、長く、よく手入れがされていた。

身長は160cmもないくらい。

女か?


「ぐへへ…お嬢さん、1人でどうしたんだい?」


気付いた時にはダックス達が絡みに行っていた。

女と見るやこのフットワーク。

判断が早い!


「…ここは冒険者ギルドであっているか?」

「ワハハ!もしそれ以外に見えたんなら、目か頭の病気だぜ!」

「そう…」


フードを脱ぐと、案の定、女の顔が現れた。


「ヒュー!」


テリーが思わず口笛を吹く。

中々お目にかかれないレベルの美人だったからだ。

俺もちょっと見惚れてしまい、そしてすぐに嫌な予感を覚えた。

美人で、手入れされた長髪で、服も高そう。

…貴族じゃね?


「受付はどこ?」

「ぐへへ…受付なんかより、俺らと遊ぼうぜ…!」

「おいおいおい!」


あいつら死んだわ。

平民が貴族に手を出すのは、やばい。

冗談でなく、ガチで物理的に首が飛ぶ。

「平民は貴族と関わってはならない」というルールはこの世界に生きる全ての人間が知っていることだ。

しかし、酒と美人に酔っ払っているダックス達には正常な判断能力など無かった!


「邪魔よ。どいて」

「ぐへへ…嫌だと言ったらどうなるんだ?一緒に踊ってくれるのか?」

「…消えろ」

「い・や・で〜〜〜〜す!うげっ!?」


死ぬほどウザい絡み方をしていたダックスだったが、突然悲鳴を上げた。


「はうっ!?」


続けてテリーも。

後ろで見ていた俺には、何が起こったのか分からなかった。

硬直するダックスとテリーの間を女は悠々と歩いていく。


「ま、待て…!」


ゆっくりと向きを変えるダックス達。

その股間は大きな氷でカチカチに固められていた。


(うお、無詠唱魔法だ!)


この時点で、彼女が貴族関係者であることが確定した。

ちゃんとした魔法のレクチャーを受けなければ無詠唱魔法なんて使えないからだ。

ソースは俺。

※なお、キッドのことは考えないものとする。


(歳は20手前くらいか)


俺と同じか、少し上くらいに見える。

若いが、やや陰のある顔つきで、「美少女」と言うよりは「美人」の方がしっくりくる。

そして、強い。

ダックス達は女癖は最悪だが、実力はある。

酔っ払っているとはいえ2人を完封したとなると、銀級並みの戦闘力はありそうだった。


「お前もこいつらの仲間か?」


女が俺を見て言った。

その目は氷魔法のように冷たい目だった。


「いえ、全く知らない人達です」

「「おい!!」」


すまん、ダックス、テリー。

貴族様とは関わるなって実家のお爺ちゃんから言われてんだ。

まあ、言われたの10年くらい前だけど。


「エドワードおおお!!」

「助けてくれよおお!!」


や、やめろ!

俺の名前を呼ぶな!

仲間だと思われたらどうする!


「あ、受付はそっちですよ」

「…そう」


よし、神回避!

俺の機転で、女はバーナードさんのいる受付へと歩いて行った。

これで巻き込まれ事故は無くなった(はずだ)。

あとは早く彼女の用が終わって、貴族達の世界へと帰ってくれれば…。


「…何の用で?」

「冒険者登録がしたいのだけど」


何………………だと………………?




女はライサと名乗った。

俺は記憶を探ってみたが、特に思い当たる人物は無かった。

彼女は冒険者登録を済ませると、今度は依頼を受けたいと言った。


「今日はもう遅いから明日にするといい」

「…それもそうね」


女はきびすを返して帰っていった。

ちょっかいを出そうとする者は、もういなかった。


(貴族関係者が冒険者?一体何のために?)


分からない。

だが、とにかく貴族には関わらないのが吉である。

俺はしばらくこの町を離れようかと本気で悩んだ。


「エドワードぉ!お前も魔法使いだろ!?俺のコレ、何とかしてくれぇ!」


ダックスとテリーが己の凍った股間を指差しながら叫んだ。

俺はそれを見て、一瞬悩んで、こう言った。


「…残念ながら、もう手遅れです」

「「そんなあああああ!!?」」

「そうなっては、もう、切り落とすしか…」

「「うわああああああ!!!」」


実際には外側を凍らされただけなので、大した問題はないはずだ。

魔法の氷なので、放っておけば時間経過で勝手に魔力に戻るだろう。


(まあ、自業自得だし、教えなくていいよな…)


精々怖い思いをするといいよ。

前々から思っていたが、2人の女癖の悪さは目に余るものがある。

これに懲りたら少しは日頃の行いを改めるんだな。

あと、金も返せ。

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