第15話 実況!灼剣VS土竜

さあ、始まりました。

金級冒険者パーティー『灼剣』VS土竜。

実況は私、エドワードでお送り致します。


「うにゃあああ!!」


さあ、叫び声と共にリオンが突っ込んで行く!

土竜はまだ閃光弾から回復できていないぞ!

これは開始早々ビッグチャンス!

入った!

オープニングヒットはリオンの右ストレートだ!


「硬あっ!?」


しかし、悲鳴を上げたのはリオンの方だ!

右拳から血が出ているぞ!

王牛魔人オークキングを一撃で屠ったリオンの拳を返り打ち!

硬すぎるぞ土竜!


「ううう、あいつ硬いにゃ!」

「任せろ!石弾ストーンバレッド!」


入れ替わるようにキッドが魔法攻撃を仕掛ける!

だが、放ったのは初級の土魔法だ!

そんな魔法では鎧のような土竜の外皮を貫くことなど…。


「GYAAAA!!?」

「効いてるにゃ!」


何だって!?

初級魔法で土竜にダメージを!?


「そうか、関節を狙ったんだわ!」


関節を?

一体どういう意味でしょうか、解説のエルさん?


「関節まで硬くしたら、動くこともままならなくなる!」


なるほど!

生物である以上必ず存在する弱点ウィークポイント

そこを突いた見事な攻撃だ!

しかも、今ダメージを与えたのは初級の土魔法!

土の名を冠する竜からしたら、とんでもない煽り行為だ!


「GURURURURU…!!」


土竜が悔しそうに唸り声を上げる!


「リオンは陽動!エルは右前足の関節を狙ってくれ!」

「分かったにゃ!」

「了解!」


体勢を崩した土竜を見て『灼剣』が総攻撃に出る!

土竜もそろそろ視力が戻る頃合いだが、今度は右足を潰されたために満足に動けないようだ!


「GYAOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


何い!?

ノーモーションの土ブレス攻撃!?

極太のビーム砲のような土石流が飛んでくる!

これは反則だ!

回避不能の一撃!


「当たらんにゃ!」


普通に避けたああ!!

あのタイミングで今の広範囲ブレスを避ける!?

獣人の反射神経はどうなってんだ!


「うおおおおおおお!!」


そしてブレスの隙を突いてキッドが左前足の関節へ斬りかかる!


「炎魔!!」

嵐槍撃ストームランス!!」


入った!

同時にエルの魔法も右前足の関節に直撃!


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


土竜は悲鳴を上げて地面に突っ伏した!

前足の踏ん張りが効かなくなっている!

これは絶好のチャンス!


「今だ!」

「くたばるにゃ!」

「待って!魔力反応あり!ブレスが来るわ!!」


何だって!?

地面に顔を付けたままブレス攻撃を!?


「GIIIIIIIIIIIIGAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


と、とんでもない爆発音!

地面が消し飛んでいく!

地割れが起き、無数の岩石が散弾のようにばら撒かれる!

下は地割れ、上は岩石弾の全方位攻撃だ!


「って、うおわああ!?」


実況している場合じゃねえ!

後方で隠れていた俺のところまで岩石弾が飛んでくる。

俺は大岩の後ろに隠れて、岩石の嵐をやり過ごした。

横を見れば、エルも同様にして岩石嵐から逃れている。

しかし、前線の2人は隠れる場所なんか無かったぞ!?

大丈夫か!?

岩石嵐が収まってから、俺は状況を確認した。


「ううう…い、痛いにゃ…」


リオンは左側の崖っぷちで血塗れになっていた。

流石のリオンでも避けきれなかったようだが、今のを受けて死ななかっただけでも凄いことだ。


「リオン!魔法薬ポーションだ!」


俺の投げた魔法薬は若干コースを外れていた。


「風よ!」


だがエルが魔法で調整してくれたので、何とかパスは成功した。


「ゴクゴク…プハー!助かったにゃ!」


中級魔法薬は欠損レベルの怪我は治せないが、裂傷や打ち身くらいなら瞬時に治る。

驚くべきは、先ほどの全方位攻撃を裂傷レベルに抑えたリオンの反射神経である。


「キッドは!?キッドはどこ!?」


エルの悲鳴ではっとする。

キッドの姿がどこにもない。

嫌な想像が脳裏を過った。

リオンですら避けきれない全方位攻撃だ。

まさか、キッドは岩石弾に当たって木っ端微塵に死ん…。


「だらああああああ!!」


…でなかった!

キッドは何と、割れた地の底から飛び出てきた。

空中散歩エアウォークだ!

キッドは飛び出す勢いのまま、土竜の右目を剣で斬り裂いた!


「GYAOOOOOOOOOOOOO!!!」


土竜はたまらず翼を広げ、空へと逃がれた。

それを見上げるキッドは、何と無傷!

一体どうやって先ほどの地割れ岩石嵐から生還したのか?

それも無傷で?


「まさか…上は無理と見て、下へ逃れた?」


何だって?

一体どういうことでしょうか、解説のエルさん!


「自分から地割れに飛び込むことで、飛来する岩石弾の方向を限定したんだわ!」


なるほど!

空を飛べることが前提になるが、あの全方位攻撃は下へ逃れるのが正解だったらしい。

しかし、初見殺しみたいな全方位攻撃を初見でメタるのはヤバすぎだろ!

戦闘センスか?

はたまた超直感か?

とにかくこれが金級冒険者『灼剣』のキッドだ!


「嵐槍撃!」


上空の土竜へ向けて、エルが魔法攻撃を試みる!

が、ダメ!

土竜はこれを尻尾で迎撃!

距離が遠過ぎる!

これでは関節も狙えないぞ!


「まずい!ブレスを撃つ気だわ!」


三度みたび、土竜のブレス攻撃がくる!


「それを待ってた!」


同時にキッドが何かを投げた!

あれは…音響弾だ!

空中でブレスと音響弾が衝突!

爆音が響く!

しかし、音響弾なんかでブレスは止まらないぞ!

降り注ぐブレスをキッドはかろうじて避ける!


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!?」


何だあ!?

空中で土竜が悶えているぞ!

一体何が起こったんだ!?


「音響弾に使われているのは風魔法…そうか、土竜は風を集めて飛んでいるから、音響弾の爆音も集めてしまったんだわ!」


な、なるほど!

本来なら一瞬で終わるはずの爆音が、土竜の周囲でずっと響き続けているのか!

よく見れば、土竜は身体に対して翼が小さい!

完全に風魔法に頼り切りの飛行だ!

あー!!

土竜が空から落ちてきた!

親方!

空から土竜が!


「音を止めるには風魔法を止めるしかないから飛んでいられないんだわ!」


なるほど!

解説のエルさんの素晴らしい解説に謝謝シェイシェイ

そして、落ちる土竜に向かってキッドが大ジャンプ!


「うおおおおおおお!!!」


燃え盛る灼熱の剣が土竜の硬い首を切り裂いた!

決まったあああああ!!!

落下エネルギーすら利用した一刀両断!

戦闘終了!

勝者、『灼剣』!!!




そんな感じで土竜退治は終わった。

戦闘後は全員で土竜の解体作業だ。

頑丈さが売りの土竜であるから、解体するのも一苦労だった。

主に、腕力の強いキッドとリオンが外装を引っ剥がし、俺とエルで柔い中身を切り分けた。

4人がかりで丸一日以上かかった。


「肝に牙に爪に…こんなもん?」

「こっちは肉でいっぱいにゃ!」

「魔石は回収できましたが、大きくて袋に入りません」

「手で持っていくしかないな。俺がやるよ。俺の袋、誰か持てそう?」

「エドの袋は何が入ってるにゃ?」

「土竜の左目と舌と骨」

「き、キモいにゃ…」


皆んなで手分けして袋をかつぎ、土竜の素材を持ち帰る。

一番非力なエルは荷物が少ない代わりに、戦闘を担当した。

もちろん、エルにだけ戦わせるわけではない。

一瞬でも時間を稼げば、荷物を下ろしたキッドとリオンが加勢に入るって寸法だ。

俺?

俺は荷物を集めて安全な場所に隠れる役だよ。

帰り道は2倍の時間がかかったが、無事に山村までたどり着いた。

そこで一泊した後、馬車に土竜の素材を積み込み、俺達は山村を離れたのだった。




「兄貴、このまま俺達のパーティーに入らない?」


帰り道の馬車の上で、俺はキッドから勧誘を受けた。

俺の答えは決まっていた。


「やだね」

「駄目かあ。やっぱりなあ」


俺がこのパーティーでできることはほとんどない。

今は俺が手綱を握っているが、馬車の扱いも既にキッドの方が上手くなっている。

やるとしたら専属の荷運人ポーターにでもなるしかないが、俺は冒険者だ。

やっぱり自分で剣を振るわなきゃ、何のためにこの世界に転生したんだか分からなくなってしまうぜ。


「俺なんか放っておいて、女子達を構ってやれよ」


キッドは結局、エルもリオンも嫁に迎えることにしたらしい。

女子2人の方も事前に心は決めていたようで、修羅場じみた展開にはならなかった。

なお、バーニーちゃんに関しては要協議とのことである。


「嫌だね。だって俺、兄貴とパーティー組むのずっと楽しみにしてたんだぜ」

「む…」

「初めて会ってからだから、2年越しの夢だ。それがやっと叶ったんだぜ?」

「…大袈裟だなあ」

「そんなことないって!兄貴と一緒の旅は、思っていた通り、めちゃくちゃ楽しかったぜ!」

「…大袈裟だなあ」


俺は頭をかいて、ソッポを向いた。

ついニヤけそうになる顔をキッドに見られないようにするためだった。


「パーティー組むのは諦めるけどさ、また荷運人が見つからなかったら、その時は誘ってもいいよな?」

「やだね」

「えー!?」

「お前らと一緒に旅してたら命がいくつあっても足らねーよ」

「そんなこと言うなよ、兄貴ー!」

「うわ、運転中の腕を引っ張るんじゃねえ!」


ここまできて事故ったらどうする!

死んだらどうする!


「何の騒ぎですか!?」

「魔物かにゃ!?」


ほら見ろ。

女子達が勘違いして出てきちゃっただろうが。




「結構寒くなってきたな」

「もうじき冬だしね。王都に着く頃には雪が舞い始めるかもしれないなあ」

「あ、俺は町で別れるからな」

「えー!一緒に王都まで行こうよ!」

「やだよ」

「何でさ!」

「寒いから」

「えー、素材代はどうすんのさ?」

「3人で分けろよ。俺は討伐には参加しなかったしな」

「えー!」

「マジレスすると、お前と王都に行くと貴族絡みのイベントに巻き込まれそうだから嫌なんだよな」

「マジレスって何?」

「はは、分かんねえならいいや」


今のはな、お前を試したのだ。

もしかしてお前も転生者じゃないかと思ったんだけど、どうやら違ったようだ。

まあ、別にどっちでも良かったんだけどさ。


「何だよー!教えてくれよー!」

「おい、だから腕を引くんじゃねえ!」

「ヒヒーン!」

「エド!馬車が揺れてるにゃ!」

「全く、御者ぐらいちゃんとやってください!」

「いや、俺のせいじゃねえって!」

「兄貴ー!ねえってばー!」

「うるせー!」

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