第14話 恋話
3日目以降も魔物の襲撃は続いた。
「にゃはははは!弱い!弱いにゃあ!」
しかし、前衛に抜擢されたリオンが張り切って無双したので何の問題もなかった。
襲撃の度に馬車は止まるが、馬達も慣れたもので「休憩タイムきたー!」くらいのテンションでその辺の草を食っている。
扱いやすくて助かるよ。
キッドも馬車の御し方を完全にマスターしたので、いよいよ俺は料理番しかやることがなくなった。
暇になった俺はキッドにダル絡みをした。
「そういえば、キッド君はさあ…」
「え、何だよ『キッド君』って、気持ち悪い」
御者台には男2人。
女子達は幌の向こうで休んでいる。
俺は声を小さくして聞いた。
「ぶっちゃけ、エルとリオンどっちが好きなの?」
「はあ?」
エルもリオンも美少女だ。
エルの方は金髪ロングが美しいスレンダーガール。
知的で教養があり、ぺったんこな点に目を瞑れば完璧な美少女だ。
リオンの方は頭は弱いが、明るく楽しい元気っ子。
そして発育が良い。
15歳前後のまだ幼さの残る顔に、わがままボディがくっ付いているので、何か凄いぞ。
「どっちが好きって…どっちも好きだけど?」
「…それは、仲間として?」
「そうだけど?」
「そういう話じゃねえんだよなあ!俺がしてんのは『どっちを嫁に貰うのか?』って話よ」
「はあ!?急に何の話だよ!?」
「馬鹿!声がでけえよ!」
俺はキッドにヘッドロックを決めて静かにさせた。
「うわあ!兄貴、危ねえって!」
「いいか、お前ももう14だ。そろそろ彼女が欲しくなってくる頃だろう?」
かく言う俺ももう16。
彼女は絶賛募集中です。
「いや別に…」
「嘘つけ!大丈夫、今なら女子2人は聞いてねえから。俺にだけコッソリ教えてみろって」
「だから、どっちとも付き合う気なんかねえよ」
「え、マジ?じゃあ、受付のバーニーちゃんか?」
「何でそこでバーニーが出てくるんだよ!バーニーでもねえよ!まだ誰とも付き合うつもりないって」
「マジ!?」
嘘だろ!?
こんだけ美少女に囲まれておいて意中の相手がいないだと!?
お前ち⚪︎こ付いてねえのかよ!
「朴念仁系主人公かよ…」
「何言ってんだ兄貴?大体さあ、パーティーの仲間に手出すわけないだろ」
この意見は、一理ある。
実際パーティー内恋愛は面倒なことも多い。
恋愛きっかけで人間関係がぐちゃぐちゃになりパーティー解散した、なんて話は普通にある。
男女比が一緒のパーティーならまだ何とかなるかもしれないが、『灼剣』は男1対女2。
バーニーちゃんを含めれば1対3だ。
問題が起こる可能性は大いにある。
だが、あえて言おう。
カスであると!
「いや、手出せよ!」
「ええ!?」
「いいか、キッド。今からするのは真面目な話だ」
「今までの話は何だったんだよ…」
そりゃ暇潰しよ。
「お前は今から土竜を討伐しに行こうとしている」
「それ、今までの話と関係ある?」
「大ありだ。だって竜だぞ?竜を倒したらどうなると思う?」
「どうって?」
「めちゃめちゃモテる」
「ええ…」
ドラゴン退治は偉業である。
これは冒険者的にもそうだし、一般大衆にとってもそうだ。
吟遊詩人はこぞって
そうなったらもうただの冒険者ではいられない。
お前達は土竜討伐後、英雄になるのだ。
「英雄になったらどうなる?当然モテる。お前は若くて、顔も良いから、めちゃくちゃモテる」
「嘘だあ」
「嘘じゃねえよ!何ならこれはまだ序の口だぜ?もっと大変なことになる可能性もある。つまり、貴族が
「貴族がぁ?」
ドラゴンスレイヤーなんて世界に何人もいない。
もしかしたら、キッドだけ、『灼剣』だけの可能性すらある。
そんな人材を貴族が見逃すだろうか?
「でも俺、捨て子の貧民上がりだぜ?」
「それもなあ…」
俺にはずっと疑っていたことがある。
つまり「キッドはどこかの貴族の落とし子なんじゃないか?」ってことだ。
だって、ただの捨て子にしてはキッドは魔法の才能がありすぎる。
一般人代表の俺と比べてみたらその差は歴然だ。
魔法は貴族が独占しているから、当然貴族の子供は魔法の適正は高いはず。
「俺が…貴族の子供…?」
「まあ、実際どうかは知らんけど。本当にただの突然変異才能モリモリ野郎かもしれん」
「突然変異才能モリモリ野郎…」
「だが、魔法の才能があるってだけで自分が親だと主張する貴族も出てくるかもしれん」
「本当に?」
「いや、分かんねえけど。でも、そうなったら大変だぜ。貴族がお前を取り込んで何するかって言ったら、まあ子供を産ませようとするだろうからな」
貴族の身内で未婚の適齢期の女性を当てがわれることだろう。
それを平民が断るのは難しい。
何か正当な理由が無ければ…。
で、やっと話は恋愛に戻ってくるってわけ。
「お前、早いとこ身を固めておかないと危ないぞ。具体的には、この依頼が終わるまでだ」
「この依頼が終わるまでに身を固めるなんて無理じゃん…」
「だから、エルかリオンか、もしくはバーニーちゃんから選べって話よ」
「そんなこと急に言われてもなあ…」
まあ、3人とも美少女だもんな。
それぞれに良いところがあり、欠点もあり。
悩みどころね…。
「じゃあ、もういっそ3人とも貰っちまえば?」
「はあ!?ダメだろそんなの!」
「大丈夫。この国において重婚は合法だ」
宗教的にも問題はない。
聖典にもそう書かれている。
この世界の主神も性に奔放だったから、その辺の縛りは緩いんだ。
まあ、平民だと経済力的に難しくて中々出来ないのだが、キッドの場合はその辺の貴族より金持ってるはずである。
何の問題もない。
「いや、浮気じゃん!」
「いや、全員嫁にすれば浮気じゃない!」
「ええ…」
「いいか、キッド。問題はお前だけじゃないんだ。エルもリオンも同じ問題に直面する可能性がある」
一緒に旅をしていて思った。
『
条件的にはエルもリオンも似たようなものなのだ。
「お前、エルとリオンが他の男に持っていかれてもいいのか?」
「まあ、本人が良いなら…」
「馬鹿野郎!良いわけないだろ!」
「ええ!?」
「2人の気持ちも考えろ!あいつら絶対お前のこと好きだぞ!」
「そうかぁ?」
「気付いてないのはお前だけだ!ついでに言えば、バーニーちゃんもお前のこと好きだぞ」
「ええ…?」
「お前はエルとリオンとバーニーちゃんと、あと俺達非モテ男冒険者連合の気持ちを踏み躙るつもりか?」
「いや、何で兄貴達まで混ざってんだよ…」
「馬鹿野郎!!!」
俺達がどんな気持ちでバーニーちゃんを諦めたと思っていやがる…!
皆んな血の涙を流しながら「それでもキッドなら仕方ない」って諦めたんだぞ!
それを他の男に持っていかれていいなんて言ったらぶん殴るぞ!
「はあ…はあ…。まあ、まだ何日かある。じっくり考えてみるんだな…」
「何で兄貴が疲れてんだよ…」
「俺も知らねえよ…」
何で俺は他人の色恋のためにこんな叫んでんだ…。
(いやまあ、理由なんか一個しかないけど…)
結局俺も、キッドのことは気に入っているんだ。
できることなら幸せになってほしいと思ってる。
冒険者ランクはとっくに抜かれたけど、可愛い後輩であることに変わりはないんだ。
「…身を固めれば貴族は寄ってこなくなるのか?」
「知らねえ」
「ええー…」
「知らんけど、まあ独り身でいるよりはマシじゃねえかな?」
「そっかあ…」
4日目の夜に山村に到着した。
ここで馬車とはお別れだ。
「じゃあ、俺は馬車預けてくるよ」
「よろしく、兄貴」
「よろしくお願いします」
「よろしくにゃ!」
「おー…」
…ん?
今、女子2人からもよろしくって言われたような?
振り返ったら、キッド達は3人仲良く宿を探しに行くところだった。
「は…!分かったぞ…!しかも2つ分かった…!」
あいつら、俺達の
よく考えたら、獣人族も長耳族も耳の良い種族であった。
もしもあの話が筒抜けだったとしたら、どうなる?
今まで俺が女子2人から嫌われていたのは「ある種の恋敵」として敵対視されていたからだ。
だが、その俺が「鈍感系主人公」みたいなキッドの尻を叩いたことで、好感度に変化が生じたのだ。
そしてもう1つ分かったことは、今晩キッドは大変かもしれないということだ。
(すまん、キッド)
せめて声を聞かないよう、俺だけ離れた部屋に泊まることにするよ…。
俺はまたしても何も知らないキッドさんの去って行く背中に合掌した。
夜空には沢山の星が輝いていた。
翌日は徒歩で山道を進んだ。
徒歩移動になってからが荷運人の出番である。
持てる荷物は全部俺が持つ。
まあ、帰りは皆んなで手分けして竜の素材を持ち帰ることになるだろうが、竜の巣に辿り着くまでは3人に余計な負担はかけない。
竜の素材を持ち帰るための背嚢は全部で20個持ってきた。
頑張れば1人5個くらい持てるだろうと言う計算だ。
今は畳んで袋に入れてあるが、結構嵩張る。
野営用の鍋や毛布も背負っており、その状態で山道を行くのは中々の重労働だった。
「
「うおおおお!!」
とはいえ、戦闘は全て3人に任せているから、文句も弱音も吐けない。
どっちが大変かと言ったら3人の方が大変に決まっている。
そうして山道を黙々と歩いて1日。
「いたぞ」
俺達は土竜の巣にたどり着いた。
山頂へと続く登り坂の真ん中だ。
巣と言ったが、ここには屋根も壁も無い。
そんな場所で土竜は堂々と寝ていた。
初めはただの岩山かとさえ思ったが、時々寝息のような音が響いている。
「GURURU…GURURU…」
「…もうじき夜だし、一旦引き返すか?」
「…俺はいけるよ」
「…私も問題ありません」
「ぶっ飛ばすにゃ!」
多数決の結果、1対3で即時交戦に決まった。
全く頼もしいことである。
「戦闘中は兄貴はここで待っててくれ」
「もちろんだ。ただ一応、閃光弾とか持ってきたから、初めにこいつを投げて目眩しくらいは出来るけど…」
「流石兄貴!用意周到だな!」
「閃光弾は1つだけですか?」
「ああ。他には音響弾と臭い玉が1つずつだ」
「音響弾?」
「音響弾は地面に叩きつけると凄い音が出る。臭い玉は同じように悪臭が出る」
「へー、魔道具かあ。俺あんまり使ったことないや」
『灼剣』レベルになると、まあいらんやろなあ…。
「魔法で音を響かせる感じか…風魔法かな。兄貴、音響弾貰っていい?」
「いいけど、何に使うんだ?」
「切り札にしようと思って」
「え?音が出るだけだぞ?」
「まあ、見ててよ」
それ以上説明する気も無さそうだったので、俺は大人しく音響弾を渡した。
「全員準備は良いか?」
「おう!」
「ええ!」
「いつでもこいにゃ!」
「じゃあエル、最初の1発はよろしく」
「いくわ、
エルは寝ている土竜に魔法をお見舞いした。
「GURURUAA…!」
「っしゃ!行けオラァ!」
起きたところへ閃光弾を投げ付ける。
夕暮れ時の赤色の空が一瞬白く染まった。
「GURA!?」
「よし、皆んな行くぞ!!」
『灼剣』の3人が一斉に土竜の方へ駆け出して行く。
俺は俺で巻き込まれないように背後の岩陰へと退がった。
あとは3人が勝つのを祈るのみだ。
(さて…やることは終わった。あとは…)
…実況でもするか。
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