第12話 土竜の緊急討伐依頼

依頼:土竜の緊急討伐及び土竜素材の納品依頼

内容:エンドラ山脈上空にて竜種1体の飛行を確認。当該山脈には無数の魔物が生息しており、竜種によって周辺環境に影響がもたらされた場合、魔物暴走スタンピードが起こる危険性極めて大。至急討伐を要す。事前調査により土魔法を確認。当該竜種は土竜であるものと推定。可能であれば『土竜の背骨』、『土竜の肝』、『土竜の牙』、その他土竜の素材の回収・納品希望。なお納品希望素材の優先順位は上記記載順とする。納品された土竜素材については状態確認の上、別途追加報酬が発生するものとする。討伐完了後は速やかな報告求む。問題が生じた際は近隣の冒険者ギルド又は各地の領主等に報告の上、現場にて待機。本件責任者の判断を待つこと。近隣の冒険者ギルド又は各地の領主等は本件の速やかな完了に全面的に協力すること。なお、本件はフライシュルク伯爵領領主、ギルベルト・フォン・フライシュルク伯爵に全権を委任する。以上。ランドバルド・エーミール・フォン・スネイプ・バルバロッサ

期限:1ヶ月

報酬:金貨2000枚


なっげえ…。

依頼文が長過ぎる…。

文盲用の超簡素依頼文に慣れてる俺には、最早読めないかもしれん…。

何か最後ケツに貴族様の署名入ってるし…。

報酬は…もうこれだけで一生暮らせるし…。

至急依頼で1ヶ月…。

まあ、スケール的にそうか…。

俺達だと3日以内には来いって言われんのにな…。

そもそも依頼書が羊皮紙だ…。

封蝋とか初めて見たかもしれん…。

紙から柑橘系の香りが…。

何でや…。

金級ってすげえや…。


「あのさ、『土竜の背骨』が納品希望の1番上なんだけど…」

「無理無理。4人じゃ運べないって。依頼主も無理なの分かってて書いてるから大丈夫。土竜って人間50人分くらいの大きさらしいからさ」

「そうなんだ…人間50人分かあ…」




依頼内容を確認した俺は準備の時間を1日貰った。

なお、馬車や食料は既に手配済み。

毛布や素材回収用の背嚢なんかも馬車に積んでおいてくれるらしい。


(あとは個人的な装備を整えるくらいか)


1日では武器や防具の変更は利かないが、金で小道具を用意することくらいはできる。

まずは鍛冶屋に行って、剣の研ぎの依頼を出す。

その後、魔道具屋に行き、音響弾と閃光弾と臭い玉を1つずつ買った。

戦闘に参加する気は無いが、後ろから閃光弾を投げてサポートするくらいは出来るかもしれない。

ちなみに3つとも銀貨10枚前後の値段だった。

魔道具は使い切りの割りに高価なのが欠点だ。

致命的過ぎるな…。

臭い玉を買うかどうかはかなり迷ったが、竜種は五感が鋭いと聞くので、一応買っておいた。


魔法薬ポーションも買っておこう」


銅級の頃は下級魔法薬で精一杯だったが、銀級の今は奮発すれば中級魔法薬にも手が出せる。

中級魔法薬は金貨2枚、銀貨なら70枚弱だ。

あまり嵩張かさばっても良くないから、中級を2本だけ買った。

魔道具屋の後は服屋に行った。

外套が随分古くなっていたので、これを機に買い替える。


(キッドの奴、結構良い服着てたな…)


金級冒険者達と並んだところを想像する。

俺は奮発して銀貨10枚の品を購入することにした。

飾り気は無いが、厚手の上等な生地でできている。

耐寒性が高く、これからの時季には重宝するはずだ。

すぐ隣に毛皮のモコモコした外套もあったが、2秒くらい悩んで無難な方にした。

無難が1番だ。


(火や水は魔法でどうにかして、台座が必要な時も土魔法でいいか。まあ、こんなもんか)


最後に研ぎに出していた剣を回収して、帰宅。

ちなみに研ぎ代は大銅貨数枚程度だ。

今日だけで銀貨180枚の出費だが、土竜退治に成功したあかつきには依頼料の5%である金貨100枚を受け取ることになっている。

お釣りが出るどころの騒ぎじゃない。

ただの荷運人には破格の報酬だ。

しばらく遊んで暮らせるぜ…。

金のために引き受けたわけではないが、まあ、報酬が美味い方がやる気は出るよな。




翌朝早くに西門前で落ち合う。

秋も深まって、早朝の風がかなり冷たい。

新調した外套が早速活躍してくれた。


「エドの兄貴!おはよう!」

「おはよう」


俺も結構早めに出たのだが『灼剣』の方が早かった。

流石は金級冒険者パーティー、意識が高い。


「えー、今回、荷運人ポーターとして雇われました銀級冒険者のエドワードです。よろしく」


『灼剣』の3人とは顔見知りだが、改めて挨拶をしておく。


「よろしく、兄貴!何か気付いたことがあったら遠慮なく言ってくれよな。荷運人としてだけじゃなく、先輩冒険者としてでも良いからさ!」

「いやあ…金級パーティーに言うことなんか無いだろ」

「またまた〜」


いや本当に。

キッドはちょっと俺を過信し過ぎている。

ガキの頃に世話焼いただけの男だぞ、俺は。


「2人もよろしくな」

「…気安く話しかけないで頂けますか?」

「…フンにゃ!」


うーん、この塩対応。

『灼剣』の女子2人はぶっちゃけ俺のこと嫌いだよな…。


「こら!エル!リオン!無理言って来てもらった兄貴に対して、何だその態度は!」

「も、申し訳ありません…」

「ごめんにゃ…」


エルは金髪の長耳族エルフで、リオンは黒髪の獣人族だ。

2人とも外見的にはキッドと同い年くらいに見える(実年齢は知らん)。

まだ幼さの残る顔立ちだが、美人であることは間違いない。

何だこの『オタクの夢』みたいなパーティーは…。


「ごめんよ兄貴!普段はもっと愛想良い奴らなんだけど、兄貴の前だと何故かいつもこうなってさあ」

「いや、良いよ。気にしてない」

「流石兄貴!器が大きいぜ!」


…お前のそういう言動がさあ…。

エルもリオンも命の危機をキッドに救われて仲間になったらしい。

だから、2人にとってキッドは英雄ヒーロー

そのキッドが何か知らんけどやたら懐いている相手が俺だ。

要するに、俺は2人から嫉妬されているのだ。

誰か「女の子に嫉妬されている場合の対処法」を教えてくれ。


「今回は御者を雇ってないから、兄貴に御者役もやってもらうよ」

「ああ、任せてくれ」

「馬車はアレね」


キッドの指差した先には2頭立ての幌付き馬車があった。


「何か…デカくね?」

「そうか?いつもこんなもんだけど?」


俺が想定していたのは1頭立ての安馬車だったので、少々面くらった。

まあ、金級冒険者がそんなもんに乗るわけないか…。

馬も大きくて毛艶が良い。

これ事故って怪我させたら俺の責任か…。

御者やるの不安になってきたな…。


「ついでに兄貴から馬の扱いを教えてもらうことになってるから、俺は兄貴の隣に座るぜ!」

「な、何ですって!?(御者席は狭くて2人くらいしか座れない。ということは馬車移動の間中キッドと話す機会がない!?)」

「(キッドを独占するなんて)ずるいにゃ!」

「へへ、(兄貴に教えてもらえて)良いだろ〜!」


すれ違いコントやめろ。

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