第3章 金級冒険者の荷運人

第11話 金級冒険者

銀級昇格から2年が経って、16歳になった。

俺は相変わらず冒険者を続けている。

この2年間も、まあ色々あった。




まず、俺は『黄金の剣』を抜けた。

やっぱダメだあいつら。

女癖の悪さはもう仕方ないと思っていたが、丁度1年ほど前に金銭問題まで発生したのだ。

俺が再び蓄えた銀貨100枚分の貯金が、ある日突然消えてしまったのである。

金は当時泊まっていた宿のベッドの下に隠していたので、初めは空き巣の犯行を疑ったが、それにしては部屋が荒らされていなかった。

金の入った袋だけが消えていたのだ。


(これは最初から俺のヘソクリをピンポイントで狙った犯行ではないか?)


となると、犯人はヘソクリの存在を知っている者に限られる。

俺のヘソクリの存在を知っている者は少ない。

俺には犯人の心当たりが2人いた。


「え、ヘソクリ?知らんなあ」


ダックスとテリーは初めはそう供述していた。

しかし、俺が私娼窟で聞き込みを行うと、最近2人の羽振りがやたら良いという噂をすぐに入手できた。

で、また2人に詰め寄ったところ…。


「盗んだんじゃない。落ちてたから拾ったんだ」


これが奴らの主張だった。

俺は2人を衛兵に突き出そうとした。

だが、それだけはやめてくれと2人から懇願され、働いて返すと言われた。


(確かに衛兵に突き出しても金は返って来ないか…)


そう思い見逃してやったのだが、その後特に返済は無い。

ちなみに、上級魔法薬代の銀貨150枚も未だ返ってきてない。

もう諦めている。

そういうことがあって、俺はパーティーを抜けた。

以来ソロの銀級冒険者だ。

ダックス達も2人に戻って元気に冒険者を続けている。

やっぱり素行の悪い奴らとは付き合うもんじゃねえなと俺は思いました。




大きな変化はあと2つ。

良いニュースと凄いニュースがあるが、先に良いニュースから話そう。

何と、我が冒険者ギルドに女の受付嬢が入ったのだ!

しかも可愛い!

歳は16!

しかも独身!

ギルドの男共は狂喜乱舞した!

名前はバーニー。

あのバーナードさんの娘さんである。

ギルドにいる間は常にバーナードさんの目が光っているので、話しかけに行くこともままならないのだが、ギルドの独身野郎共は全員バーニーちゃんを狙っていたと言って過言ではない。

15歳で成人のこの世界において、16歳は完全に合法。

かく言う俺もバーニーちゃんを狙っていた男の1人だ。

だって、同い年だぜ?

これ絶対ヒロイン枠だろ!と心の中で叫んだほどだ。

転生したのに女っ気無さ過ぎだろと常々思っていたので、絶対そうだと思ったのだ。

まあオチから言うと、バーニーちゃんは俺のヒロインとかでは全然なかったんだけどさ…。




最後にして最大のニュースについて話そう。

何と、我が冒険者ギルドに金級冒険者パーティーが誕生したのだ!

パーティー名は『灼剣』。

シンプルで良い名前だ…。

そして金級冒険者の名はキッド。

何を隠そう、俺が以前に魔法を教えてやったあのガキである。

ちなみにパーティー名は俺が考えた。

良い名前だ…センスがほとばしっているぜ…。




「エドの兄貴!」

「お、キッドじゃねえか。帰ってたのか」


キッドは今年で14歳になった。

2年前は貧民上がりの薄汚れたガキだったのに、今では背も伸び、装備も俺より良いものを身に付けている。


「夏以来だから、数ヶ月ぶりか?王都の方に行ってたんだっけ?」

「おうよ!」

「お前…また背が伸びたんじゃないか?」

「そうか?そういえば、最近は兄貴のことを見上げることがなくなったかも?」


一応断っておくが、背はまだ俺の方が高い。

俺が大体170〜175cmくらいで、キッドは170手前くらいである。


「兄貴の言い付け通りちゃんと野菜食べてるからな!」

「そうか」


こいつは俺のことを兄貴と呼ぶ。

冒険者ランクはとっくの昔に越されてしまったのだが、呼び方はずっと変わらない。

昔ちょろっと魔法や読み書きを教えただけなんだが、何だかやたら懐かれてしまった。


「あれ、今日はお前1人か?パーティーメンバーは?」

「1人だ。あいつらはうるさいから置いてきた。今日は別に依頼を受けに来たわけじゃないしな」


『灼剣』は3人組のパーティーで、キッド以外の2人はどちらも女の子だ。

ちなみに、2人とも可愛い。

ハーレム系作品の主人公かお前は…。


「じゃあ何しに来たんだよ」

「実は、兄貴に頼みがあってさ…」

「俺に頼み?」


何だろう?

恋愛相談とかかな?

色んな女の子から告白されて困ってます!みたいな話なら全然ぶん殴るんだけどな…。


「嫌だったら断ってくれて構わないんだけど…」

「何だか歯切れが悪いな。身構えちまうぜ」

「…兄貴ってさ、今暇か?」

「まあ、暇っちゃ暇だな。丁度新しい依頼を受けに来たところだし。時間はあるぜ」

「じゃあ…俺達と一緒に依頼受けてくれたりしないか?」

「俺が?お前らと?…何で?」


頼み事は臨時のパーティー勧誘だった。

完全に予想外である。

だって、キッド達は金級冒険者だ。

金級って亜竜ワイバーンとか大鶏蛇コカトリスとかを普通に倒すレベルだぞ。

ザ・銀級冒険者みたいな俺とは実力において明確な差がある。

なのに何故?


「理由は…これが失礼な話なのは重々承知の上なんだけど…ちょっと荷運人ポーターが見つかんなくて…」

「あー…」


なるほどね…完全に理解した。

つまり、俺に荷運人をやれってことね。


「それは確かに、銀級冒険者に持ちかけるには若干失礼な話だな…」

「う、ごめん…」


採取系の依頼や大型の魔物の討伐依頼時に、荷運人を連れて行くことがある。

大量のドロップアイテムが出ると予想される場合、それを運ぶ人間が必要になるのだ。

この荷運人だが、大抵はバイトで、無職で暇してるオッサンとかを雇う。

高名な冒険者パーティーだと専属の荷運人がいることもあるらしいが、まあ稀な話だ。

そういう例外を除けば、冒険者ギルド内のヒエラルキーで最下層に位置付けられているのが荷運人である。


「その辺の奴らじゃダメなのか?」

「断られたんだ」

「全員?」

「全員。依頼の内容聞いたら、みんな絶対嫌だって」

「…依頼の内容を聞いても?」

「兄貴、一緒に土竜退治に行かないか?」

「ああ、土竜かあ…」


土竜ってモグラのこと?

というジョークはこっちの世界では通じないので心の中にしまっておく。


「地竜じゃなくて、土竜?飛ばない地竜じゃなくて、飛ぶし、土魔法ぶっ放してくる方?」

「飛ぶし、土魔法ぶっ放してくる方の竜」


そっか…。

竜種で1番上のやつね…。

そりゃあ誰も行かねえわ。


「せっかく竜退治に行くんだから、素材はいっぱい持って帰りたいだろ?なのに誰も来てくれなくてさ…」

「猫の手も借りたいってわけね」

「猫の手は別にいらねえけど…」


前世の慣用句は中々通じないことも多い。


「まあ、いいぜ。そういう事情なら」

「本当か!」

「言っておくが、戦闘には絶対に参加しないからな?」


竜の相手なんて死んでも嫌だぞ。

だって死ぬから。


「もちろん!」

「荷運びと、道中の飯作りと、あとは御者役くらいしかできないけど、それでもいいか?」

「兄貴、御者もできるの!?」

「おお、暇な時に覚えた」


俺もこの2年、ただ遊んでいたわけじゃあないんだよね。

え、冒険者としての実力?

それは…まあ…そんなに変わってないけど…。


「すげー!今度俺にも教えてくれよ!」

「いいぞ」


キッドは教えたら何でも1日で修得するので、俺はいつも安請け合いをしている。

馬の扱いは道中適当に教えてれば覚えるだろう。


「そんなことより、依頼の詳細を教えてくれよ」

「分かった!受付で話そうぜ!何かいつもバーニーのとこ空いてるからさ!」


お前のために空けてんだよ…。

バーニーちゃんはキッド達『灼剣』の専属受付嬢である。

専属と言っても、キッドがいない時は普通に俺達一般冒険者の対応もしてくれる。

だが、キッドがいる間はキッドの相手が最優先だ。

ギルド唯一の金級冒険者だからな。

ギルド側の対応も露骨に違う。

バーニーちゃんの態度も結構違う。

明らかに好きだよね…キッドのこと…。

それに気付いた時の独身冒険者おれ達の哀しみ様は筆舌に尽くし難いものであった。

皆んな泣いたよね…俺もね…。

しかし、相手が金級冒険者では文句も言えない。

冒険者の世界は実力が全て。

文句があったらお前も金級になってみろ、とこういうわけである。

まあ、普通に無理っすね…。

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