第10話 魔力草の納品依頼
依頼:銀狼の毛皮の納品
内容:銀狼1体の討伐、および毛皮の納品
期限:2週間
報酬:銀貨100枚
「そっちへ行ったぞ!」
「
「何やってんだ下手糞!」
「2人がちゃんと足止めしてくれないから!」
「やってんだろうが!うおおお!くらえええ!」
「危ない!ダックス!」
「ぐああああ!!く、食われる!!」
銀狼は強かった。
前衛の2人よりも素早く、俺の魔法なんか掠りもしなかった。
結局、一撃も当てられないうちにダックスが脚を負傷。
俺達はほとんど逃げ出すようにして町へと帰った。
この世界の医者はボンクラだ。
よって、魔法薬で治らない怪我は諦めるしかない。
回復系の魔法も存在するが、魔法使いの医者は全員貴族のお抱えになるので、平民を診てくれることはない。
「これは切断するしかないな」
「そ、そんな!」
ダックスを町医者に連れて行ったらそう言われた。
「肉をゴッソリ持っていかれて骨まで見えてる。筋も切れてるし、どうにもならん。とりあえず、冒険者は諦めるんだな」
「何とかならねえのかよ。何かこう、凄い魔法薬とかでさあ」
「これを治すとしたら上級魔法薬しかないが…」
俺の持っていた下級魔法薬は既に飲ませていた。
だが、出血が弱まったくらいでほとんど効果はなかった。
「じゃあその上級魔法薬をくれよ!」
「テリー、上級魔法薬って確か金貨5枚とかしますよ。金あるんですか」
「金なんか俺が何とかする!頼むよ、こいつはガキの頃からの付き合いなんだ!」
「そう言われてもな…心苦しいが、今うちに上級魔法薬は置いてないんだ」
「そんな!」
「今は深刻な魔法薬不足でな。下級や中級までなら一応出回っているが、上級魔法薬は多分どこに行っても置いてないだろう」
そういえば、冒険者ギルドにも魔法草の納品依頼が来ていた。
魔法草の採取も普通は専門の業者がやるものなので、珍しい依頼だなとは思っていた。
「素材があれば作れますか?ギルドに依頼が出てたので、俺達で採ってこれれば…」
「やめておけ。素人にはニョグダ草とその辺の雑草の見分けはつかないだろう」
ニョグダ草は魔法薬の素材になる植物だ。
魔力を豊富に含んでいる植物だが、外見上はただの草にしか見えないらしい。
専門家であれば見分けもつくそうだが…。
「何か分かりやすい目印とかないのかよ。臭いが変わってるとか、味が変わってるとかさあ」
「臭いは無いが、味は変わっているな。何と言っても毒があるからな」
「…毒?」
「そうだ。薄い葉に大量の魔力が詰まっているから、そのまま食べると魔力の過剰摂取で昏倒するんだ。特に魔力耐性の無い人は最悪死…」
「テリー、行こう!ニョグダ草の採取に!」
「ええ!?」
「おい、お前、話聞いてたか!?」
毒があるって?
耐性が無いと昏倒?
あるぜ、俺には!
神様から貰った『毒耐性』とかいう全然使ってない能力がなあ!
「正気か?第一素材を持ってきても金が無ければ作ってやれんぞ」
「テリー、今いくら持ってますか」
「う…すまん。この前使っちまって、多分銀貨5枚分くらいしかない」
「俺の方は銀貨150枚分くらいです」
「150!?随分貯めてんな!?」
万一に備えて銀貨100枚分くらいは常に取っておいてある。
そこに大牛蛙の討伐報酬を合わせて、150だ。
「でも未だ少し足りないんだよな…ダックス、辛いところを悪いけど、お金どれくらいあります?」
「か、金は…銀貨で…2枚」
「お前が1番少ねえじゃねえか!」
「助け
「うぅ…頼むよぉ…見捨てないでくれぇ…」
ダックスのことは医者に任せて俺達はギルドへ向かった。
依頼:魔法草の納品
内容:ニョグダ草の納品。数は多いほど良い
期限:半年
報酬:ニョグダ草10束につき金貨1枚
成功報酬を合わせれば上級魔法薬の代金はどうにかなりそうだった。
ただ、問題は内容の方にあって…。
「
受付でバーナードさんに詳細を聞いたところ、ニョグダ草の採取場所が最悪だった。
大鶏蛇は鶏の頭に蛇の尾を持つ上級の魔物だ。
この前行った南の沼地の更に奥に巣があるらしい。
大鶏蛇には「声を聞くと身体が石になってしまう」という伝説がある。
実際には身体が硬直する程度らしいが、戦闘中に身体が硬直したら死ぬので、どのみちヤバい。
なお、耳栓も意味はないらしい。
運良く生還した冒険者の話では「魔力を含んだ声で全身を打たれる感じになる」とのことだ。
「もっと他の場所はないのかよ」
「安全な場所の採取依頼が冒険者ギルドに来るわけないだろ」
「テリー、どうしますか」
「くそっ…それでも行くしかねえだろ!」
「じゃあ大鶏蛇の対処はよろしくお願いします」
「な、何い!?」
だって、ニョグダ草の採取は俺じゃなきゃできないもんよ。
そんなわけで俺達は沼地にやってきた。
俺にとっては数日振り2回目の沼地の依頼だ。
「げ、雨が降ってきやがった」
急に降ってきた雨のせいで、元々悪い足場が更に酷くなった。
時間も既に夕暮れ時で、日差しが無くなってほぼ夜だ。
俺は水魔法があるからいいが、テリーの方は歩くだけで大変そうだった。
こんな状況で上級の魔物から逃げられるのか?
「あれじゃねえか?」
沼地を更に進んだところに地面が隆起している場所があった。
中央には大穴が空いている。
大鶏蛇の巣だ。
「じゃあ俺はここで隠れてるんで、テリーは大鶏蛇を誘い出してください」
「ぐっ…お前本当に薬草採取できるんだろうな?」
「テリーがちゃんと時間稼ぎしてくれればね」
「…や、やってやるよ!やればいいんだろ!」
テリーは気合を入れるために自分の顔を両手で叩いた。
「テリー、危なくなったらこれを使ってください」
「ん、何だこれ?」
「音響弾です。地面に叩きつけると凄い音が出ます。上手くすれば1回は大鶏蛇の石化攻撃を防げるかもしれません」
「おお。ありがたく貰っとくぜ」
「では、ご武運を」
「…おお」
テリーは泥沼をザブザブ音を立てて歩き、巣の前に立って中を覗いた。
こっちに向かって右手を上げた。
合図だ。
どうやら中にいるらしい。
「…おい!鶏野郎!巣に閉じこもってないで出てきやがれ!てめえなんかなあ、全然怖くねえぞ!焼き鳥にして食ってやる!ボケ!カス!うんこ!お前の尻尾トグロを巻いたうんこみてえだな!」
小学生並みの語彙力だったが、大鶏蛇はめちゃくちゃ怒った様子で飛び出してきた。
「ひぃ!怖ええええ!!」
テリーは反転して全力ダッシュで逃げ出した。
全然怖くないとは何だったのか。
上級の魔物だから仕方ないけど…。
大鶏蛇が釣られて走っていくのを見て、俺は巣穴の中へと入っていった。
巣穴の中も泥水でビチャビチャだったが、奥に一段高くなっている場所があり、そこだけは浸水していなかった。
そして、その部分に大量の草がびっしりと生えていた。
「この中にニョグダ草があるのか。全部ニョグダ草だったら楽なんだけど」
俺は近付いて手前の草を食べてみた。
毒があれば分かるはずだが…。
「うーん、不味い。普通の草っぽいな。ぺっぺっ!」
続けて2本目の草も確認したが、これもハズレ。
もしかしてニョグダ草なんて無いのでは、と不安が過った。
「どうだ。見つかりそうか?」
「ダメですね。今のとこ…って、テリー!?」
声に驚いて振り返ったら、テリーがいた。
「大鶏蛇はどうしたんですか!?」
「へへ…やっぱ怖くなってよ。音響弾を遠くに放り投げたらそっちに走っていったから、コッソリ戻ってきた」
へへ…じゃねえよ!
大鶏蛇が戻ってきたらどうすんだ!
「…はあ。ならせめて大鶏蛇が戻ってこないか見張りだけでもしといてくださいよ…」
「任せてくれ。ところで、結局どうやって魔法草かどうか見分けるんだよ」
「それはこうやって口に含んで…ゲホッ!」
何の気なしに3本目を食べたら口中に激痛が走って慌てて吐き出した。
明らかに前2本とは反応が違う。
これだ!
これがニョグダ草だ!
「お、おい、大丈夫かよ!?」
「ゲホッ、ゲホッ!だ、大丈夫っす…」
酷く
「とりあえず、当たり1本目です。良かった。ここまできて無駄骨ってパターンは無さそうだ」
俺は袋に薬草をしまい、ついでに革の水袋を取り出して口を
さて4本目。
「本当に大丈夫なのか…?」
テリーは未だに心配そうにしていた。
まあ、『毒耐性』のことを知らなければ誰だってそうなるよな。
でも「神様から『毒耐性』貰ったので大丈夫です」なんて言えねえしなあ。
「まあ、そんなに心配しないでくださいよ」
「でもよお…」
「俺は
皆んなとは食ってきた草の数が違うんで。
毒草なんか朝飯前ってわけよ。
「驚いたな!本当に全部ニョグダ草じゃないか。しかも1日で。どうやったんだ?」
町に戻った俺達はまず医者のところに薬草を持って行った。
上級魔法薬を作るのに必要な薬草は10本だ。
「これで魔法薬作れますか?」
「ああ、任せてくれ。私は魔法薬を作るのだけは得意なんだ」
「この後、残りの分をギルドに納品してくるので、金は後払いでいいですか?」
「構わないよ」
「ちなみにお代は…?」
上級魔法薬の相場は金貨5枚だが、品薄なら値段の高騰はありうる。
「そうだな、ダックス君の入院費込みで金貨5枚でいいよ」
「いいんですか?相場より安いような…」
「その代わり、余剰があればもう少し回してほしいんだが…」
「あ…申し訳ありませんが、あとはギルドへの納品分しかなくて…」
大鶏蛇の巣にはまだ沢山のニョグダ草が生えてそうだったが、いつ大鶏蛇が戻ってくるか分からなかったので、20本採取した時点で急いで帰って来た。
よって、余剰は0である。
「そうか…まあ、仕方ないな」
それでも医者は金貨5枚で請け負ってくれた。
良い医者である。
上級魔法薬の効果は凄まじく、ダックスの脚は1日ほどで完治した。
昨日の今日でもう普通に歩いている。
「すまねえ、エドワード!随分金を払って貰って」
復帰早々、ダックスから感謝された。
「まあいいですよ。別にあげたわけじゃないんで。ちゃんと返してくださいよ?」
「もちろんだ!本当に助かった。テリーから聞いたけど、毒草を齧って確かめてくれたんだろ?そんな危ないことをしてまで助けてくれるなんて、何て良い奴なんだ…!」
めちゃめちゃ感謝されたが、チートに頼った俺としては何とも言えないところだった。
「いや本当に大丈夫なんで。危なさで言ったら、テリーの方が危なかったですよ。大鶏蛇の前に出て囮役をやってもらいましたからね」
すぐ逃げ帰ってきたけどな…とは言わないでおこう。
「うおおおおテリーーーー!!!」
「うわぁっ!引っ付くな!気色悪い!」
「心の友よおおおおお!!!」
「離れろ馬鹿!薬臭えよ!」
男同士の熱い抱擁シーンなんか見てても気持ち悪いだけなので、俺は1人で受付に向かった。
「バーナードさん、昇格の手続きって終わりましたか?」
「ほらよ」
バーナードさんから投げ渡された物は、銀級冒険者の証である銀のネームプレートだった。
銀板には冒険者ギルドの支部名と、冒険者ギルドのマークである竜と、そして俺の名前が彫られていた。
「おお!」
「一応規則だから言っておくぞ。昇格おめでとう」
「ありがとうございます!」
べ、別に規則だから言ってるだけなんだから、勘違いしないでよね!
みたいなことをバーナードさんに言われて「おっさんのくせにツンデレかよ!」ってツッコミたくなったが絶対伝わらないのでやめておいた。
「昇格したのか、エドワード!」
「やったな!」
「ありがとうございます!いやあ、2人のおかげで一時はどうなることかと思いましたけどね!」
「言ったなてめえ!」
3人でワハハと笑い合う。
雨降って地固まるというか、銀狼に足を食われたり、大鶏蛇の巣に侵入したり、俺が毒草を食ったりと色々あったせいで以前の確執は忘れ去られた。
まあ、冒険者なんて大体そんなもんである。
「よし!俺の快気祝いとエドワードの銀級昇格を祝して飲みに行くぞ!」
「馬鹿、金が無えんだよ」
「ダックスの治療費と銀狼討伐失敗の違約金で全額消えたんですよ」
「そ、そうだった…じゃあ、依頼受けるぞ!」
「次はどれ行きましょうかね?」
「もう沼地は嫌だぜ。大鶏蛇になんか二度と会いたくないからよ」
「俺は銀狼以外なら何でもいい。銀狼には二度と会いたくない」
「じゃあ東かなあ。『
「淫魔かあ…」
「これあれだろ?生捕りにした淫魔の精子から精力剤作ろうってやつだろ。何だかな…」
「せめて
「女淫魔は無理でしょ…俺達に勝ち目ないっすよ」
「「それもそうだな!!」」
「「「ワハハ!」」」
こうして俺は銀級冒険者になったのだった。
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