第9話 不和
依頼:大牛蛙の駆除
内容:南の沼地を荒らす大牛蛙5体の駆除
期限:1週間
報酬:銀貨50枚
大牛蛙はその名の通り牛並に大きい蛙である。
図体がでかい分、動きは遅く、ちょっかいをかけなければ人に危害を加えることも無い。
だが、体表から油のような粘液を大量に分泌するため、大牛蛙の通った後は酷く汚れてしまう。
そのため発見したら早めに駆除しなくてはならない。
そういうタイプの魔物だ。
町から南西に進み、森の中の小川を一本越えると、そのうち湖沼地帯が見えてくる。
背の高い木が減り、足元はぬかるみ、水生植物が増えていく。
一歩進むごとに足が沈む。
俺は足元に水魔法を展開した。
俺の魔法じゃ水面を歩いたりはできないが、多少泥を弾くだけでも随分歩きやすい。
水魔法は戦闘には不向きだが、普段使いする分には1番便利である。
顔を洗うとか、尻を流すとか、洗濯とかにも使える。
「いたな蛙野郎」
ほどなく1匹目の大牛蛙を見つけた。
こいつらの討伐方法は簡単だ(とギルドで聞いた)。
火をつけてやればいい(らしい)。
元々熱に弱い上、油を分泌しているので火を近づければ勝手に火だるまになってくれる。
遠距離攻撃手段も無いので、離れた場所から火をつければ一方的に倒すことも可能。
…なのだが、この依頼は不人気依頼だ。
理由は色々ある。
沼地での戦いになるからどうしても汚れるとか、油臭いとか、大牛蛙の外見がブツブツだらけでキモいとか。
色々あるのだが、1番大きいのは費用対効果の悪さだそうだ。
遠距離から火をつけるなら火矢が一般的だが、火をつけると矢の回収ができなくなってしまう。
矢も数を揃えると結構金がかかる。
ちゃんとした矢なら1本で大銅貨4枚くらいする。
だから弓使いはなるべく矢を回収したいと思うのだが、この依頼ではまず回収できない。
まあ、魔法が使える俺には関係のない話だ。
「
5mほど離れた場所から魔法を放ったが、見事に命中した。
最近は魔法の命中率が上がってきた気がするぞ!
…的がでかくて動きが遅いだけか。
そうか…。
「GEGOOOO!!」
火球が当たった蛙は派手に炎上した。
だが、ここは沼地。
水気は豊富にあり、蛙は泥の中を転げ回ることで消火に成功した。
「火球!」
「GEGOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
まあ、消されたらまた燃やせばいい。
大牛蛙はもんどりうった後、沼の中に潜って炎から逃れようとした。
しかし、図体がデカ過ぎて底の浅い泥沼には入りきらず、背中が丸見えになっている。
頭隠して背中隠さず、って感じだ。
「火球!」
間抜けな背中に容赦なく火を放つ。
大牛蛙は慌てて泥から飛び出し、今度は走って逃げ出した。
だが、哀れ、こいつらは逃げ足も遅いのである。
「火球!」
4度目の炎上で大牛蛙は動けなくなり、とどめの5発目で完全に息絶えた。
楽勝だ。
相性が良さそうと思って選んだ依頼だったが、本当に何の危な気もなかった。
「でも、一体倒すのに魔法5発か…やっぱ大きい魔物は耐久力が高いよなあ」
火魔法の他に水魔法も使っているから、俺の魔力量だと1日2体を相手にするのが限界か。
連戦もキツい。
辺りを見回したが他の大牛蛙は近場にはいないようだった。
俺は一旦森の方へ引き返し、近くの木の根に座って魔力の回復を待った。
「残り4体か…3日コースだな。結局、楽な依頼なんかねえなあ」
長期戦に備えて食材も色々持ってきたが、料理に回せるほど魔力の余裕は無さそうだ。
「ある程度弱らせたら剣でトドメを刺すか?でも近寄ると反撃のリスクがなあ…」
ダックス達がいれば、誰かが囮をやって注意を引いたりできるんだが…。
いや、無いものねだりしても仕方がない。
魔法で完封できるなら魔法でいいだろう。
変に欲張って死んだら元も子もないからな。
俺は背負い袋から塩辛いだけの干し肉を取り出し、そのまま齧った。
丸3日かけて大牛蛙を駆除した俺だが、ギルドへ戻ると熱烈な歓迎を受けた。
「どこ行ってたんだよ、エドワード!って臭っ!汚っ!何やってたんだお前!?」
「何って、依頼に決まってんでしょ」
「何で俺達を置いて依頼受けたんだ!」
「あんたらがいつまでもギルドに顔出さないからでしょうが!」
ダックスとテリーはカンカンに怒っていた。
想像通り、2人は金が尽きるまで遊んでいたらしい。
金が尽きて依頼を受けようとしたら、俺がいなくて受けられなかったとのことだ。
ざまあねえな。
「パーティーなんだから勝手に動くんじゃねえよ!」
全くもって正論だ。
だが、こちらにも言い分はある。
「先に約束破ったのはそっちじゃないっすか!休みは2日のはずでしょ!」
「そんなこと言ってない!」
「言いましたよ!」
「先輩に逆らおうってのか!」
「全然逆らいますけど?こっちはいい感じに疲れて今ランナーズハイ状態なんすよ!」
「上等だ!ランランルー状態だか何だか知らねえが、先輩に逆らうとどうなるか思い知らせてやる!」
「お前ら!ギルドん中で暴れんじゃねえぞ!」
一触即発だったがバーナードさんに諌められ、かろうじて殴り合いにはならなかった。
しかし、パーティーの空気は最悪だ。
それでも解散という話にはならなかった。
俺は試験中だから、どんなに不満があっても今解散はしたくない。
ダックス達からも解散の話は出なかったが、それはこの間の虚偽報告の件があるからだろう。
実際、パーティー解散で試験に落ちたあかつきには、ギルドに不正を告発して2人を道連れにしてやろうと思った。
(昇格に影響が無いタイミングでパーティーを抜けるとしたら、どのくらい待てばいいんだ?半年か、1年くらいか?)
俺はそんなことを考えていた。
多分2人の方も似たようなことを考えていたに違いない。
そんな最悪の状態のまま、俺達は新たな依頼を受けた。
依頼は『銀狼の毛皮の納品』。
成功報酬は銀貨100枚だ。
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