第8話 悪癖
「何すかアレ!?」
翌日の昼に俺は先輩達を問いただした。
本当は朝から待っていたのだが、先輩達が起きてきたのが今さっきのことだ。
「何って…そりゃナニよ」
「お前のとこには誰も来なかったのか?」
「来ましたけど?14歳の女の子がね!」
「おー、同い年じゃん。やったな。楽しかったか?」
「手出すわけないじゃないすか!普通に送り返しましたよ!」
この世界は15で成人なので、昨晩来た子も大人の一歩手前くらいの歳である。
だが、日頃の栄養が足りていないのか、彼女は小柄で貧相だった。
前世ならギリ小学生くらいのサイズ感。
手なんか出せるわけがない。
「えー、もったいねー」
「まさかお前、男が好きなのか…?」
「違いますよ!ガキに興味ねえんすよ!」
「ああ、なるほど、年上好きか」
「分かるぜ。俺もお前くらいの歳の頃は大人の女に憧れたもんだ」
「そういうことじゃなくて!」
いや、俺も大人のお姉さんは好きだよ?
でも、今問題にしてるのはそんな話じゃねえんだわ。
「こんなの
「おいおい、人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ」
「そうだぜ。よく考えてみろ。俺達は『女を寄越せ』なんて一言も言ってなかった、そうだろ?」
「あれは村の奴らが俺達の機嫌を取るために勝手にやったことだ。俺達は何も悪いことはしてない。…ただまあ、俺達も鬼じゃないからな。向こうが誠意を示すってんなら、多少の譲歩はしてやってもいい」
「うわあ、汚ねえ大人…」
「馬鹿、『世渡り上手』と言えよな」
「いいか、新入り。世の中綺麗事だけじゃやっていけねえんだ。このくらい他の奴らもやってることだぜ」
「えー」
その後、再び村長との交渉の場が設けられ、今回の報酬は銀貨60枚でまとまった。
追加分の銀貨30枚を受け取って(残りはギルドで正規の報酬として貰う)、俺達は村を後にした。
予定外の収入があったので、俺達は帰りも馬車を使った。
なお、村には馬がいなかったので、今引っ張っているのはロバである。
「結局村側は
「さてね。案外そうでもないんじゃねえか?」
「少なくとも、ギルドへの仲介手数料は多少浮いただろうぜ。依頼料の何割とかそんな感じだろうからよ」
「それって、やっぱりまずいのでは?」
「なあに、俺達が喋らなければ分かりっこねえんだ。問題にならなければ無かったのと同じさ」
「…じゃあギルドには『大鬼は1匹だった』って嘘の報告上げるんですね?」
「どのみち大した額でもない。本当のことを言って騒ぎを大きくする方が誰にとっても迷惑だろう」
「ギルドも手間が少なくなって良し、村も安く済んで良し、俺達もタダで女が抱けて良しってわけだ」
「なんて汚ない三方良し…」
だが結局、俺も何も言わないことにした。
何故なら俺は昇格試験中の身。
万一今回の依頼が無効になれば1番辛いのは俺かもしれないのだ。
「はあ…これで俺も汚い大人の仲間入りか…」
「歓迎するぜ」
「ようこそ、こちら側へ」
「…」
町に戻り、ギルドに虚偽の報告を済ませた後、俺達は2日間の休みを取ることにした。
試験中の俺としては早く次の依頼を受けたかったが、パーティーを組んだ以上自分の都合ばかり優先するわけにもいかない。
俺はジリジリとした気持ちを抱えながら、大人しく休日を過ごした。
そして2日が過ぎ、3日目の朝。
俺は早くからギルドに向かい、2人が来るのを待った。
「次の依頼はどれにしようかなあ」
などと言いながら依頼掲示板を眺めて時間を潰す。
そうこうするうちに昼が来て。
そして、夜が更けた。
その日、2人はギルドに来なかった。
「あれ…?もしかして俺、日にち間違えたか?」
翌日も早朝からギルドで2人のことを待った。
が、ダメ…!
来ない…!
ダックスも来ないし、テリーも来ない。
ずっと1人ぼっち…!
孤独…!
圧倒的孤独…!
(もしや2人に何かあったのか?不正がバレたとか?でもそれならギルドにいる俺が真っ先に捕まるはず…はっ!)
その時、俺の脳に電流走る…!
(まさかあの2人、金が尽きるまで娼館で遊び続けるつもりか!?)
俺はギルドを飛び出した。
裏通りから私娼窟に向かい、2人を探して走った。
だが、途中でセクシーなお姉さんの客引きに遭ってしまい、俺はしどろもどろになってギルドへと逃げ帰った。
危うくミイラ取りがミイラになるところだった。
「パーティーメンバーがどこにもいないんです!どうしたらいいですか!?」
「知らん」
困った俺は受付のバーナードさんに泣きついたが、バーナードさんは冷たかった。
「くそっ!奴らの女癖の悪さを甘く見ていた!バーナードさん、娼館の値段ってどんなもんです!?」
「ピンキリだ」
「全然参考になんねえ!」
14歳の俺はまだ娼館に行ったことがない。
(とりあえず、この前の大鬼退治の報酬は銀貨60枚だった。これを3等分にして1人銀貨20枚ずつ受け取った。仮に銀貨20枚を全額娼館に突っ込んだ場合、一体何日遊べるんだ?)
銀貨20枚は別に大金ではない。
3日も遊んだら無くなりそうな気もするが…。
(ダメだ!相場が分からないから計算もできない!)
何の答えも出せないまま、更に翌日。
例によって早朝にギルドへやって来た俺だが、当然のように2人の姿は無かった。
(もう試験開始から8日…いや、模擬戦からだから9日目だぞ!これ以上待てねえよ!)
いっそパーティーを抜けてソロで依頼を受けようか?
しかし、臨時パーティーが認められない以上、ここでパーティーを抜ければ大鬼討伐分も試験にカウントされなくなるだろう。
結局いつ来るか分からない2人をただ漫然と待っているしかないのか…。
「…待てよ。パーティーを抜けてはいけないなら、パーティーを抜けなければいいのでは?」
俺は掲示板から1枚の依頼書を剥がし、受付に持っていった。
「すいません、この依頼受けたいんですけど」
「他の2人は?」
「どっか行きました。だから、俺1人で受けたいんです」
「何?『黄金の剣』を抜けるってことか?」
「抜けません。ただ、この依頼だけ俺1人で行くってことです。ソロだけどパーティーなんです」
「お前は何を言っているんだ?」
「だって仕方ないでしょう!2人ともどっか行っちゃったんだから!前例ならあるはずですよ!負傷した仲間を外して依頼を受けるとか、ザラにあることじゃないですか!」
今回は3人中2人がどっか行っちゃったから、結果的にソロっぽくなっちゃうだけだ。
え、負傷してないからダメ?
大丈夫、次あいつらに会ったら俺が顔面をグーで殴っておくから。
因果関係がちょっと逆転するけど、たったそれだけのことさ。
「俺何か間違ったこと言ってますか!?もう時間がないんです!」
「お、おう…」
バーナードさんは引き気味だったが、結局ソロでの依頼受注を認めてくれた。
これで俺は「パーティーに加入しながらソロで活動する頭のおかしい冒険者」になった。
だが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。
(あれ?これで依頼失敗したら『黄金の剣』の失敗扱いになるのかな?ま、知ったこっちゃねえや!)
仮にそうなったとしても、悪いのは初めに約束をブッちしたダックス達だと思います。
っしゃあ、行くぞ!
銀級試験再開だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます