第6話 悪い先輩冒険者と大鬼狩り

一次試験に受かった俺は早速次の試験に取りかか…ろうとした。

二次にして最終試験。

銀級依頼への挑戦である。


(やるぜやるぜ俺はやるぜ!)


そんな感じで意気揚々と依頼掲示板を見に行ったのだが、掲示板はスカスカだった。

まあ、こんな時間に良い依頼なんか残ってるわけもない。


「今日は大人しく帰るか…」


俺はギルドを出て、とりあえず一次試験には合格したので、お祝いとして高い飯でも食べに行くことにした。




開けて翌日。


「おい、聞いたぜエドワード!お前テリーの奴をボコボコにしたんだってなあ!やるじゃねえか!」


ギルドへ入った途端、スキンヘッドのダックスに絡まれた。


「どうも」

「テリーに勝てるんなら銀級昇格なんか楽勝だぜ!なあテリー?」

「うるせえ!あんなもん実力じゃあねえ!」


少し離れた机に不機嫌そうなテリーが座っていた。

テリーとダックスはパーティーを組んでいて、パーティー名は『黄金の剣』だ。

2人とも剣士だから『剣』は良いとして、どうして『黄金』なのかは誰も知らない。

多分本人達も知らない。

なお、2人とも女癖が最悪なので年中金欠のはずだ。


「次は銀級依頼か。何の依頼を受けるか決めたのかよ」

「それを今から決めに行くところです」

「困ったことがあれば聞けよな。先輩が教えてやるぜ!」


何か…いやに親身だな。

相方イジリのために話しかけてきたのだと思っていたが、他に用でもあるのだろうか?


「おい、何でそんな奴に良い顔してんだよ!」

「まあまあ、そんなにヘソを曲げるなよ。あいつは結構出来る後輩だぜ」

「何、どういうことだよ?」

「実はな…この間ついにマリリンとヤッたんだよ」

「何い!?お酌はしてくれるけどヤらせてはくれないで有名なあのマリリンと!?」

「そう。でな、その日の昼に俺達はエドワードとすれ違ってたんだよ」

「何だって!?ガキの分際で娼館通ってんのかお前…」

「いや通ってないですよ!」

「違えよバカ、その辺の道端で会ったんだよ」


話をまとめると、俺をダシにして女の人とよろしくやれたから今後も仲良くしようってことらしい。


「『後輩に慕われてる先輩』は女ウケが良い…?」

「警戒はだいぶ解けると見たね…!」

「なるほど…!」




俺は途中から「この話別に聞かなくていいな?」と気付いたので、依頼掲示板の方へと移動した。


「さて、銀級の依頼は…」


大鬼オーガの討伐

・大牛蛙の駆除

淫魔インキュバスの捕獲

・銀狼の毛皮の納品

・魔力草の納品

亜竜ワイバーンの卵の納品

・海上護衛

・北西山脈の探索

・街道警備

・男爵家嫡男への剣術指導

etc.


流石に銀級クエストとなると簡単な仕事は1つもない。

だが、これらの中から3つの依頼を成功させなければ銀級には上がれないのだ。


「明らかにヤバそうな依頼もいくつかあるな…」


1番ヤバいのは「亜竜の卵の納品」だろう。

何故なら亜竜は上級の魔物で、冒険者で言ったら金級並みの実力がなければ太刀打ちできないからだ。

それがどうして銀級クエストになっているかといえば、亜竜に見つからなければ卵を持って帰るだけだからだ。

ただし見つかれば高確率で死ぬ。


「流石に昇格試験で受ける依頼じゃないな…」


2番目にヤバそうなのは「男爵家嫡男への剣術指導」だろう。

まず、この依頼だけ明らかに依頼書が古い。

長い間塩漬けになっているのだ。

そもそもこんな依頼が冒険者に下りてきてる時点で臭い。

お貴族様案件だぞ。

普通なら兵士や騎士等、もっと身元の確かな相手に頼むんじゃなかろうか。

「冒険者」なんて「チンピラ」の別称と言っても過言ではないのに。

仮に冒険者へ依頼するとしても指名依頼の形式をとるはずだ。

こいつはくせぇー!

厄介ごとの臭いがプンプンするぜぇー!

他の見よ。


「『山脈探索』って俺受けれるのかな?『街道警備』は内容的には盗賊狩りらしいし、ちょっとな…」


人間狩マンハントで昇格は何となく嫌だ。

となると、残りは討伐系になるが…。


「おい、エドワード!勝手にどっか行くんじゃねえよ!」

「何だ、依頼見てんのかよ。真面目か?」


俺がいないことに気付いてダックス達が寄ってきた。

邪魔臭えなあ…。


「いや俺、昇格試験中なんですよ!真面目にやるに決まってんじゃないっすか!」

「ワハハ、そうだったな!」

「どれどれ…おっ!大鬼オーガ討伐があるじゃねえか。ダックス、これ受けようぜ」

「そうだなあ。マリリンにも金使ったし、ここらで一稼ぎしとくか!エドワード、お前も一緒に来いよ」

「ええ!?」


この申し出には驚いた。

何故なら俺は昇格試験中の身。

パーティーで依頼を受けることは、試験上何の問題も無い。

冒険者はパーティーを組んで行動するのが基本だからだ。

ただし、臨時のパーティーではダメだ。

試験期間中だけ臨時パーティーを組んで昇格後即解散では、流石に試験の意味が無い。


「つまり、本気で勧誘してるってこと?」

「何だ?俺達じゃ不満か?」

「テリーを倒せるなら実力は十分だろうしよお」

「いや、あれは実力じゃねえって!」

「うーん…パーティーかあ…」


正直な気持ちを言わせてもらえば、微妙なラインだと思う。

何と言ってもこの2人は素行が悪い。

女癖は悪いし金遣いも荒い。

しかし、1人で銀級依頼を受けるのに不安があるのも事実だ。


(どうしようかな…)


俺は悩みに悩んだ。

そして答えを出した時には、既に2人の姿は無かった。


「依頼受けてきたぞー」

「ええ!?俺まだ何も言ってないんですけど!?」

「うるせえ!チンタラ悩んでるお前が悪い!」

「ええ!?」

「ぐちゃぐちゃ言うな!そんなんじゃ女にモテねえぞ!」

「う…」


それを持ち出されると弱い。

俺とこの2人、どっちがモテるかと言えば後者だ。

世界って不条理だ…。


「お前って剣も使うんだよな?ならパーティー名は変えなくていいよな」

「よっしゃ!新生『黄金の剣』の初仕事だ!」

「行くぞー!」

「おー!」

「うーん…」


俺はとっても不安な気持ちを抱えながら、悪い先輩達に引きずられて行ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る