2章 銀級試験

第5話 一次試験・模擬戦

「すいません、銀級昇格試験受けたいんですけど」

「何?お前が?」


受付に話を持っていくと、バーナードさんは眉間に皺を寄せて言った。


「正気か?」

「…まあ、多分」


キッドに煽られ、勢いで来ちゃったところはあるので、若干自信が無い。

でも、前々から考えていたことではあったし?

何とでもなるはずさ、多分。


「実績は…まあ足りてるか」


バーナードさんは帳簿らしき巻物を取り出した。

そして、ちょっと考え込んでいる。

銀級昇格試験を受けるには銅級の討伐以来を10回クリアしなくてはならない。

しかし俺も銅級冒険者やって長いので、その程度は余裕でクリア済みだ。

ちなみに、ものすごく強い人ならギルド職員の推薦だけで試験資格を得られるらしい。

まあ、凡才の俺には縁の無い話だ。


「銀級試験は来月の1週の火の日だ」

「はい」


銀級試験は2ヶ月ごとに奇数月で開催される。

もっとも受験希望者がいなければ試験も無いので、実質的には年に数回行われる程度だ。


「試験内容の説明は?」

「いりません」


銀級試験は2段階に分かれる。

まずはギルド内での模擬戦で実力を示さなくてはならない。

模擬戦の相手は現役の銀級冒険者か元銀級冒険者のギルド職員が務める。

模擬戦で合格したら仮免が与えられ、銀級の依頼を受けられるようになる。

そして銀級依頼を3件クリアすると晴れて銀級冒険者の仲間入りとなる。


「よし、それなら今から特例で模擬戦を行う」

「え!?」

「相手はこの俺だ」

「ええー!?」




バーナードさんは元銀級冒険者で、年齢は30後半ってところだ。

角刈り頭のイカツイおっさんで、年中不機嫌そう。

そんなバーナードさんに連れられて、俺はギルドの裏庭にやってきた。

裏庭は広く、模擬戦程度なら問題なく行える。

俺達は練習用の木剣を握り、5メートルくらい離れて向き合った。


「勝手に試験しちゃっていいんですか?」

「問題無い。今のところお前以外に試験希望者いないからな」

「はあ」


しかしなあ…。

まだ先だと思ってたから心の準備が出来ていないんだよなあ。

…いやでも、これは好機だろう。

キッドは明日にも銅級へ上がってくる。

俺にも先輩冒険者としてのプライドがあるので、早く昇格出来るならその方が良い。


「どちらかが降参するか気絶したら終了だ。始め!」

「うぇ!?」


バーナードさんは開始の合図とともに突進してきた。

俺は何の準備も出来ていない!

とにかく木剣を構えてガードしようとしたが、これが悪手だった。

14の俺と30後半のバーナードさんでは体格もパワーも向こうが上。

正面からぶちかましを受けた俺は派手に飛ばされて床を転がった。


「ぐぇっ!」

「うおおおおおおおおお!!!」


体勢を崩した俺に容赦無い木剣の追撃がくる。

痛え!


「ま、参った!」


俺はたまらず降参した。

試験開始からわずか5秒ほどの出来事だった。




「あんなんズルですよ!!」


その後、酒場に直行した俺はエールをしこたま飲んで愚痴を垂れた。

一応、カウンターの向こうにいる酒場の主人に話しているつもりだが、さっきから返事がない。

聞いてる俺の話?


「急に試験やりますって言われてさあ、開始の合図も急だし、大体初手ぶちかましって何だよ!それで一体俺の何が測れるんだっつーの!」

「まあ、咄嗟の判断力とかそういうのじゃねえの?」

「それは…」


あるかもしれないけど…。

でも今俺が欲しいのはそういう正論じゃないんだよね。

優しい慰めの言葉なんだよね。


「面倒くせえ女かよ…だからモテないんだお前は」

「う…」


あのぉ、傷口に塩塗るのやめてもらっていいですか?

泣いちゃうよ俺?


「お前14だろ?単純に銀級冒険者はまだ早かったってことなんじゃねーか?」

「いいや、そんなことない。次やれば絶対勝つ」


あんなものは初見殺しだ。

来ると分かっていればどうとでも対処出来る。

自信はある。

既に再試験の申し込みも済んでいる。

今度はちゃんと正規の試験日程でやるぞ。

まだ10日もあるから、対策を練る時間は十分だ。


「覚えてろよ、バーナード…!例えどんな手を使おうとも必ずボコボコにしてやるからな…!」




そして10日後。


「よう、エドワード!今日の試験官は俺様だ!」


俺の眼前には銀級冒険者のテリーがいた。

ピンクのモヒカンが特徴の大男だ。


「バーナードさんじゃねえのかよ!」


バーナードさんはその日非番だった。


「聞いたぜ、バーナードのおっさんにボコボコにされたんだってな。引退済みのおっさんに勝てない奴が、この俺様に勝てるかな?」


うるせえ!今こっちはイライラしてんだ!さっさと始めろよボケカスぅ!

と、俺は心の中で思った。

ちなみに、試験官を倒せなくても銀級相当の実力を示せば合格のはずだ。

このピンク頭、試験のことちゃんと理解してんのか?


「先手は譲ってやるぜ。こいよ!」

火球ファイヤーボール!」

「うわぁ!?」


先手を貰ったので、俺は遠慮なく魔法をぶっ放した。


火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール!」

「魔法連打は反則だろ!」


全然反則ではない。

これは銀級冒険者に相応しい実力があるかを測る試験であって、剣術の試験ではないからだ。

魔法使い相手に距離を詰めなきゃ当然こうなるよなあ?


火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール!」


しかも今日は事前に魔力を練って万全の状態で来たからな。

普段なら魔法を10発も撃てば息切れするが、今日は20発撃てるはずだ。

相変わらず全然当たらないが、まだ12発も残っているのでそのうち当たるだろう。

下手な鉄砲数撃ちゃ当たる理論だ。

テリーは剣士で遠距離攻撃手段も無いし、木剣だから剣で火球を払うことも出来ない。

詰みだ。


「ちくしょー!なめんなオラァ!」


テリーは木剣を投擲してきた。

俺はそれをギリギリで避けたが、魔法の切れ目を狙ってテリーが突っ込んできた。

武器を捨ててでも距離を詰めることを選択したのだ。

今思うと、バーナードさんの初手ぶちかましは理に適っていたんだなあ。

だが、突進対策は既に打ってある。


「うおっ!?」


勢い良く突っ込んできたテリーだったが、途中でに足を取られてすっ転んだ。

当然俺の仕込みである。

試合開始前に土魔法で盛り上げておいた。


「き、きたねえ!」


全くもってその通りだが、余裕ぶっこいて地面の隆起に気付けなかったテリーにも落ち度はある。

よって合法。

大人しくくたばるヨロシ。


「死ねええええええええええ!!!」

「うわああ!?」


地面に伏したテリーの頭上で木剣を振りかぶると、

テリーはたまらず降参したのであった。

YOU WIN.




「あんなんずるだろ!」


その後テリーから物言いが入ったが聞き入れられず、俺は一次試験合格となった。

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