第3話 VS盗賊

「前方に盗賊10!ミレイナ!聞こえるか!」

「聞こえるよ!」

「前に来て援護してくれ!エドワードは裏に伏兵がいないか警戒してくれ!」

「了解!」


カイルさんの指示で、俺とミレイナさんはポジションを入れ替える。

馬車は既に止まり、商人は荷車の中に逃げ込んでいる。


「荒らせー!」

「「「うおおおおおお!」」」


怒鳴り声を上げて突っ込んでくる盗賊達。

そのうちの1人にミレイナさんの矢が突き刺さった。


「ぐあっ…!」


矢は盗賊の肩を射抜いた。

それでとりあえず戦闘不能だし、他の奴を狙うだろうと思ったが、ミレイナさんは2射目も同じ奴を狙った。

手負いでほとんど動けなかった盗賊は首を射抜かれて血を噴いて死んだ。


「え、えげつねえ…」


多分、威嚇効果を狙ったのだろう。

1発でも当たったら容赦なく殺すぞ、っていう。

理屈は分かるけどおっかねえ…。

普段はポワポワした感じのミレイナさんだが、流石に銀級の冒険者である。

人を殺す覚悟が決まっている。


「上の女だ!」

「厄介だ!先に落とせ!」

「させるか!!!」


手持ちの武器を投げつけようとする盗賊達にカイルさんが斬り掛かる。

カイルさんは瞬く間に1人を斬り伏せ、もう1人に手傷を負わせた。

傷を負った哀れな盗賊はミレイナさんに射抜かれて死んだ。

これで3人の盗賊が倒れた。

しかし、まだ7人もいる。


「ちょっと危ないか」


実力的には銀級のカイルさん達が圧倒しているが、対人戦において人数差の影響は大きい。

特に敵の真っ只中にいるカイルさんが危ない。

英雄だって背後から刺されれば死ぬのだ。

俺は周囲を見回したが、伏兵の気配はなかった。

よし、俺も援護に回ろう。

右手に持っていた剣を左手に持ち替え、空いた手を盗賊達に向けた。


火球ファイヤーボール!」


魔法で作った火の球が盗賊達の間を通り抜けていった。


「うおっ!?何だ!?」

「くそっ!魔法使いもいやがるのか!」


外した。

この距離だと中々当たらない。

でも、火の球が飛んでくるってめちゃくちゃ怖いからな。

敵の注意は引けるだろう。


「俺も援護します!」

「エドか!助かる!」


俺は2発目の火球を放ったが、また外した。

しかし、ビビって転んだ盗賊がいて、そいつをミレイナさんが仕留めた。

カイルさんがもう1人倒して盗賊の数が半分まで減ると、敵の勢いは目に見えて弱まった。


「火球!」

「うあっつううううっ!!」

「お、当たった」


3発目は運良く当たった。

しかも、炎上した盗賊はパニックになったのか大袈裟に叫んで転げ回った。

それを見た他の盗賊達は戦意喪失して逃げ出した。


「追う?」

「いや、深追いはしない。もう町まで近いから、護衛を優先しよう」


最後に火だるまの盗賊をミレイナさんが射殺して、俺達は馬車を進めたのだった。

ちなみに、俺は生捕りにして東町の兵隊に突き出したりするんじゃないかと思っていたが別にそんなことはなかったぜ!




それから30分ほどで東の町に着いた。

その間は襲撃も無く、全員無事で依頼を終えることができた。


「ここまでで良い。約束の報酬だ。ちゃんと追加分も入っとる。確認してくれ」

「やけに素直だな」

「ケチなジジイのくせに、ってか?なあに、盗賊10人に襲われて馬も荷も無事なら、誰だって優しくなる。ありがとさん。用があったらまた頼むよ」


がめつい依頼主とも最後は笑顔で別れた。


「さて、どうする?さっさと帰りたければ帰りの馬車を探してもいいが」

「え〜、せっかくだし1日泊まって行こう?」

「大きい町ですしね。俺、その辺ぶらついて時間潰しますから、明日の朝ここに集合でいいんじゃないですか?」

「え〜、エド君も一緒に行こうよ」

「いやあ、遠慮しておきます…」


流石に、仕事でも無い時に、仲良し夫婦の間に挟まるのはちょっとね。

あと、今少しだけミレイナさんが怖い。

盗賊4人射殺してぶっちぎりのキルスコア叩き出した直後に、そんなゆるふわな感じでこられても反応に困る。

ギャップが凄い。

結局俺は1人で観光を楽しみ、宿も全然別のところを取った。

隣の部屋からギシギシ聞こえてきたら気まずいからね…。

この世界の宿の壁は総じて薄い。




翌朝予定通りに集合し、朝一の馬車で帰路に着いた。


「ギルドで帰りながら受けられる依頼を探してみたけど、何も無かったよ」

「ギルド寄ったんですね。なるほど、帰り道か」

「片道護衛の帰りに別の依頼拾って行くのは基本だよ〜」

「勉強になります」

「そうか、エドワードは銅級だから護衛依頼初めてか」

「初めてで盗賊に遭っちゃうのは運が悪かったね。大丈夫だった?」

「はい。まあ、俺お二人の後ろで魔法撃ってただけなんで…」

「いや、かなり助かったよ。あれが無かったら最悪死んでたかもしれない」

「うんうん、良い仕事だったよ〜」


銀級の先輩達に褒められるのは素直に嬉しかった。


「どうだ、本気でパーティー加入の件考えてくれないか?」

「パーティー加入の件は…」


昨日の晩に考えておいた。

仲良し夫婦の間に挟まるのはどうだろうとか、パーティー的には俺が中衛担当したら良い感じだなとか、色々考えたが…。


「ぜひお願いします」

「おお!」

「本当!?やったー!」


色々考えた結果、とりあえず入ってみてから考えよう、という結論に至った。

判断を先延ばしにしたとも言う。

最悪、合わなかったら抜ければいいんだし、まあ何とかなるようになるだろう。


「あ、パーティー名どうしよっか。今まで私とカイルで『弓斬り』だったけど、エドが入るなら『魔弓斬り』?」

「いや、変えなくていいですよ。俺も一応、剣使うんで」

「よし、他に問題は無いな?それじゃあ、エドワード。改めてよろしく!」

「こちらこそよろしくお願いします!」




という会話から3日後。


「すまん!パーティーの話は無かったことにしてくれないか」

「えーーーーー!?」


町に帰って家で休んでいたら、カイルさん達が訪ねてきて急にそんなことを言われてしまった。


「俺、何かやっちゃいました?」

「いや、どっちかって言うと俺達がヤっちゃった感じで…」

「実は、赤ちゃん出来ちゃって…」

「えーーーーー!?」


美男美女の仲良し若夫婦冒険者コンビ。

2人きりの時間も長いだろうし、やることやってればそりゃあ子供も生まれるだろう。

不思議なことは何一つ無いが、しかしこのタイミングでかぁ…。


「身籠った状態で冒険者は流石に無茶だからさ。ミレイナも俺も冒険者は引退することになった」

「カイルさんもですか!」

「身重のミレイナをあんまり1人にしたくないからな。仕事探したら門兵の募集が出てたから転職することにしたんだ。ほら、昨日も通った東門の門兵、もうご老人だったろ?」

「ああ。あのお爺さん門兵と入れ替わりで」

「ごめんね。パーティー、私達から誘ったのに…」

「いや、確かにちょっと驚きましたけど、おめでたなら仕方ないですよ。ていうか、おめでとうございます!」

「ありがとう〜!赤ちゃん産まれたら見にきて〜」

「もちろんです!」




そんな感じで俺のパーティー加入の話は無くなった。

まあ、元々ソロだったから別にいいんだけど。

おめでたにケチ付けるほど人間腐ってないし。

…しかし、何だな。

美人の嫁さんとの間に子供が出来て、ヤクザな冒険者家業からも足を洗って門兵公務員に就職とか、カイルさんの人生完璧だな。

いいなー。

俺も美人で巨乳のお嫁さん欲しいなー。

どっかその辺にいないかなー、美人で巨乳で性格も良い独身女性…。

いるかそんな奴…?

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