第2話 草食みのエドワード

俺の名はエドワード。

転生者だ。

平民の子に生まれたので姓は無い。

容姿は普通よりは良い…はずだ。

ちなみに髪の色は黒寄りの群青色だが、この世界はカラフルな髪色が当たり前に存在するので、何なら目立たない部類に入る。

歳は14。

職業は『冒険者』だ。


この世界には『魔物』と呼ばれる害獣がいて、それらを狩るのが冒険者の主な仕事。

冒険者には4つの階級があって、上から金、銀、銅、見習いとなる。

俺は去年から冒険者を始めて、現在は銅級だ。

頑張れば銀級には上がれそう。

金級は…ちょっと厳しいかな…。

俺が拠点にしている冒険者ギルドで一番強い人でも銀級だから、金級冒険者にはあったことすらないけど、金級向けの依頼クエストって竜退治とかそういうレベルだからな…。

『剣術の才能SSS』とかあればいけたんだろうけど、『毒耐性』しか無い俺には厳しい。


まあ、無いものねだりしても仕方ない。

凡才だって冒険者は出来る。

銀級までいけば社会的なステータスもそれなりだ。

とりあえず当面の目標は銀級昇格。

地道にコツコツ頑張るぞ。

おー!

というわけで冒険者ギルドに来たところ、受付のおっさんに呼びつけられた。


「何か用ですか、バーナードさん」


バーナードさんは元冒険者のイカツイおっさんだ。

初めて見たときは「美人の受付嬢いねーじゃん…」とがっかりしたものだが、もう慣れた。


「来たな、草食くさばみ。お前に受けてほしい仕事がある」


草食みは俺の『二つ名』だ。

この世界の平民には姓が無いので、名前の他に二つ名とかニックネームが付くことはよくある。

ちなみに俺の場合は、飯屋でよく野菜を食べていたらこうなった。

いや、俺は別に野菜大好きってわけじゃないんだ。

ただ、俺以外が肉ばっか食べてる所為で、相対的に野菜大好きっ子みたいになってしまったんだ。

みんなもっと野菜食べな?


「え、受けてほしいって、まさか『指名依頼』ですか!?」


指名依頼とは特定の冒険者に名指しで飛んでくる依頼のことだ。

指名する分、普通の依頼よりも料金が高めに設定されていたりする。

冒険者の間では「指名依頼が来たら一流」と言われることもある。

その指名依頼がこの俺に!?


「銅級のお前に指名依頼なんかくるわけねえだろ」

「あ、はい」

「依頼内容は行商人の護衛だ。3人欲しいってことだが丁度良いのがいなくてな。『弓斬り』の2人は捕まえてあるから、後はお前で3人目ってわけだ」

「護衛依頼って銀級以上じゃなきゃ受けられないんじゃ?」

「『弓斬り』が銀だから大丈夫だろ。で、護衛期間は2日。東の町までの片道で、報酬は1人大銀貨5枚だ」

「帰りの費用は?」

「もちろん込み込みだ」

「ですよねー」


俺はちょっと考える。

帰ってくるまで含めたら4日拘束で、帰りの馬車代抜きなら日当大銀貨1枚って感じか。


「微妙〜」

「まあな。ただし、道中襲撃を受けて無事に守り切ったら追加手当てとして大銀貨1枚がつく」

「道の端っこに捕まえておいたゴブリンを置いておいたら襲撃判定になりませんかね?」

「昔それやって捕まった馬鹿がいてな…」


いたんだ…。

どこの世界にもよこしまなこと考える奴はいるもんだなあ。


「まあ、受けますよ。暇だし」


何もなければ穏やかな春の日の下を2日歩くだけで大銀貨4枚。

こう考えればまあまあ悪くない依頼だ。


「で、いつからですか?」

「東門に馬車が止まってるから行ってこい」

「ええ!?今日の今からってこと!?」

「お前、さっき『受ける』って言ったよな?」


くそ!

嵌められた!

護衛依頼なのに銅級を行かせようとしてる時点で不審に思うべきだった…。

いやまあ暇だから、別に今からでも問題ないんだけどさあ…。




「お、エドワードが3人目か」

「エド君やっほー」


東門に着くと既に『弓斬り』がスタンバっていた。


「カイルさん、ミレイナさん、こんにちは」


『弓斬り』は剣士のカイルさんと弓使いのミレイナさんの2人パーティーだ。

剣士と弓使いだから『弓斬り』っていう単純なパーティー名だな。

まあ、『あかつきほむら』みたいな痛々しい名前じゃないだけマシな方だ。

明け方の炎だったら何だってんだ?


「エド君は今日も行儀が良いねえ」

「いやあ、それほどでも」


ミレイナさんは長い栗毛がチャームポイントの美人さんだ。

1番のチャームポイントは立派な胸部装甲だけど、俺は紳士なのでそういうことは言わないのだ。


「エドワードが良ければ出発するけど、良いか?」

「大丈夫です」

「助かるよ。もう待てない!って依頼主がうるさくてさあ」


カイルさんは焦茶の髪に整えられた顎髭が似合うイケメンだ。

ちなみに2人は結婚している。

いいな〜俺も美人で巨乳のお嫁さん欲しいな〜。




老門兵がチラッと馬車内を確認するだけで、俺達は無事町の外に出られた。

チェック雑過ぎだろといつも思うけど、割と辺境寄りの町だからか事件とかはほとんど起きない。

護衛対象の馬車は3台あって、俺は真ん中の馬車の横を歩いた。

ちなみに商人は1人だけだが、馬に紐を繋げて1人で3台とも操っている。

一瞬すげ〜と思ったけど、別に馬の扱いが上手いわけではなかった。


(単純に人件費ケチったな)


そのせいか馬の歩みも遅く、結局2日で東の町にはたどり着けなかった。


「困りますね、ダンケルさん」

「なんじゃい。1日延びたくらいで文句言うな」

「その分金は上乗せしてもらいますからね?」

「ちっ!分かっとるわい。銀貨2枚でいいな?」

「いいわけないでしょ」

「まあ聞け。もう東の町は目と鼻の先じゃ。明日の昼前には着く。つまり延びるのは半日だけじゃ」

「ふざけんなジジイ。2日目の昼に着く予定が3日目の昼に着くんなら丸一日伸びてるだろうが。ちゃんと大銀貨寄越せ」

「ちっ!守銭奴め!」

「あんたがな!」


2日目の晩の休憩中、カイルさんと商人の間で護衛料の調整が行われた。

商人は随分粘っていたが、結局大銀貨1枚追加で決着した。

そりゃそう。

襲撃があったわけでもなく、明らかに向こう側に原因があるのだから、譲歩してやる理由なんか何もない。


「全く!あの強欲ジジイめ!」

「交渉お疲れ様〜」

「お疲れ様です。飯出来てますよ」

「あいつの仕事はもう二度と受けんぞ!中々人が見つからなかったのも悪い噂が広まってるからだろ!う、美味い!何だこのスープは!」

「でしょ〜?今日もエドが作ったんだよ。美味しいよね〜」


飯作りは俺の担当だ。

日中は真ん中で楽させてもらってるから、飯を作るくらい安いもんだ。


「昨日のスープとほとんど同じですけどね」

「いや、確かに味が違う。何ていうか、昨日よりこう…しっかりした味っていうか…とにかく美味い!」


食レポは下手だが、言わんとすることは伝わる。

昨日は乾燥キノコで出汁取って、今日は乾燥させた小魚で出汁を取っているのだ。


「依頼はハズレだったが、エドの料理が食えたのだけは良かったな!」

「だよね〜。やっぱり野菜盛り盛りなのは笑っちゃうけど」

「『草食み』だからな、アッハッハ!」

「いや、道中食えそうな野草集めたら自然にそうなるんですよ」


誰だってそうなる。

俺だってそうなる。


「でも本当に美味しい〜。ねえ、エド、このままうちのパーティーに入らない?」

「何かの冗談ですか?」

「冗談じゃないよ〜。いいよね、カイル?」

「おお、エドワードなら大歓迎だ」

「いやでも、俺まだ銅級ですよ?銀級パーティーになんて…」

「エド、銅級か銀銀かなんて、料理には何の関係もないんだよ」

「俺料理人じゃないんすけど…」

「アハハ、冗談冗談。でも勧誘は本気だよ?前々からパーティー増員することは考えてたし」

「今回もそうだけど、2人パーティーって『ちょっと足りない』場面が多いんだよな」

「戦闘中も『もう1人いたらなあ〜』ってよく思うもんね」

「エドワードは今1人でやってるんだろ?今すぐ答えを出せとは言わないから、真剣に考えてみてくれないか?」




俺も以前はパーティーに所属していた。

同じ村で育った奴らで、半年くらいは一緒に依頼を受けていた。

だが、パーティーの1人が負傷して田舎に引っ込むと、それまでのバランスが崩れて、怪我も増えて、結局残ったのは俺だけだった。

それ以来俺は何となくソロのままでいた。


(でも、良い加減ソロじゃ厳しいかな?)


銀級までなら何とかなると思う。

しかし、それから先の展望がない。

金級まではとても無理だろう。

なら、そろそろもう一度、仲間の力を借りる頃合いなのかもしれない。


「襲撃だ!」


翌日、考え事をしながら馬車の隣を歩いていたら、突如前方に無数の人影が現れた。


「盗賊だ!」



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銀貨1枚3,000円

大銀貨1枚12,000円

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