第28話 雪中行軍の先

 ホワイトアウトする視界状況の中、俺は賢明に目を凝らして吹雪で真っ白な空間を進んでいた。


 「・・・エネミーサーチにしっかりと敵の反応が返ってくる・・・やっぱりここにもモンスターはいるよな」


 問題なのがそのモンスターの姿が視界に全く入らない事だ。


 感覚的には見えても可怪しくはないのだが、姿を確認出来ない為、安全を取って戦闘を避けるようにエネミーサーチの反応の隙間を縫うように移動している。


 これと方位磁石を併用してるおかげで方角を間違えることは無いがやはりゴールが見えないのはかなりキツい。


 「・・・このコンディションの中で野営とかマジで死ねる・・・この階層でセーフティーサークルを見つけてもスルーするのは確定だな・・・」


 俺は顔を覆うマスクとマフラーから白い息を漂わせながらそれでも足を動かして前に進む。


 この階層で移動を始めてから既に一時間が経過している。


 「エネミーサーチが反応するアンノウンがいなければもう少し早く進めるのだが・・・いや?待てよ?・・・」


 エネミーサーチから返ってくる反応の中に全く移動しない反応がある。


 他の反応には姿は見えないものの、近くに巣穴のようなモノがあって、その中を移動しているような感じなのだが、1個だけ全く動いていない反応がある。


 「今までの感じなら階段の前を守るフロアボスみたいなモノがいる可能性があるか・・・ダメ元で行ってみるか・・・」


 動かない反応に向かって移動を開始すると、吹雪が少し弱くなり、周辺の視界が少し良くなって周りの状況を確認する事が出来た。


 俺はエネミーサーチの反応が近い為、ピッケルなどの道具をアイテムボックスに入れて、身体を柔らかくするように動かしながら反応に近づく。


 近づいていくと、


 「グォォォォォ!!!」


 3メーターどころか5メーターはある白熊が出てきた。


 「って北極か!?・・・っ!?危ねぇ!?」


 その巨体以上の疾さで俺に前足に付いてる爪で攻撃を仕掛けてきたが俺はソレを難なく躱した。


 白熊は俺に避けられないようにまるで魚を掬うように前足を薙ぎ払い、


 「・・・!?」


 「ガァァァァ!!!」


 薙ぎ払いを跳躍して避けた俺に目掛けてもう片方の前足を縦に叩きつけてきた。


 ・・・が、


 「・・・調子に乗るなよ?」


 闘気と気功の併用でステータスを底上げしている俺の筋力を持ってすれば奴の攻撃を受け止めるのは難しくは無い。


 俺は両腕を頭の上で交叉して白熊の攻撃を受け止めて、


 「・・・ゼァ!!」


 大きく弾き返す事で白熊に隙を作り、ソレと同時に白熊の懐に潜り込んだ。


 「オラオラオラァ!!!」


 白熊のボディに強烈なラッシュを叩き込み、不意打ちのお礼をしっかりと返して一旦距離を取って様子見する。


 流石に返り血を浴びるのは最後の手段にしたい・・・この巨体だと普通に打撃を加えてもダメージを与える事が出来ても、殺すまでは至らないだろう。


 俺は白熊の全体を見て、


 「・・・やっぱり頭が一番か・・・」


 ここで問題なのが相手の全長が5メーターはあることと、


 「問題は雪だな」


 先程から足が取られる雪上という状況が問題となっている。


 「・・・こういう時にという言葉に憧れを抱いてしまうが・・・」


 無いもの強請りをしてもこの状況は改善しないので、俺はこういう時の為に用意してきたアイテムボックスの中身を使って勝負を仕掛ける事にした。


 俺はアイテムボックスから一斗缶を取り出して白熊の周りを周回するように動く、中身は勿論ガソリンで、そのばら撒きながら動いた。


 時折、白熊にも掛けてやりつつ、計二本の一斗缶を使用して俺が取り出したアイテムは・・・


 「着火マンに新聞と違うサイズのオイル缶が登場です」


 ちょっと大きめだがレベルアップした俺の筋力なら軽々と片手で持てる。


 因みに熊はラッシュのダメージが抜けないのか非常に足が鈍い。


 一斗缶の中身を掛けられても追いかけてくる事が出来なかった。


 そんな感じで白熊の周囲3メーターに一斗缶の中身をぶち撒けたのですがどうなるかと言うと、


 「勿論、ボン!!って事だ!」


 そう言って俺はオイル缶の口にこれでもかってくらいに新聞で蓋をしてから火を着けて熊に向かって投げつけた。


 結果・・・


 「キャオオオオオン!!!?」


 火達磨になった白熊の断末魔が響き渡るが、火が消える事は無い。


 寧ろ白熊の周囲に撒いたガソリンにも燃え移り、白熊の周辺が火の海に変わっていく。


 やがて離れて様子を伺う俺の足元の雪まで融けていき、狙い通りに周辺の雪を融かしていく。


 だが、やはり融けた雪が火を消してしまったが・・・俺は真っ黒に焦げてもまだ動ける熊に対して拳を握り、


 「・・・悪いな、後で美味しく頂かせてもらう」


 熊の脳天に渾身の拳骨を叩き込んだ。


 熊の脳天を砕く手応えを確かに感じながら俺は拳を振り抜き、その拳を空に高く掲げた。


 5メーターサイズの白熊との闘いは俺の作戦勝ちとなった。


 

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