第22話 出発前の兄妹水入らず

 結月と葵にご飯を作って貰った翌日の早朝に理那が帰ってきていた。


 理那にも昨日の夕食の余りを食べさせる。


 「むむっ!?葵ちゃんも結月ちゃんもまた腕を上げてる!?」


 結月が作った魚の煮付けと葵の肉じゃがを頬張りながら理那は唸っている。


 「お兄ちゃんの・・・んんっ、兄貴の味噌汁もお野菜の甘さと風味がいい感じで癒やされるし・・・どうしよう、結月ちゃんと葵ちゃんにウチで永久就職して欲しいかも・・・」


 最後の不穏な一言と共に、俺の事をジト〜っと見る理那に俺は肩を竦めながら、


 「今はそれどころじゃないだろう?それに俺からしたらアイツらも妹なんだよ」


 「・・・はぁ〜、皆大変だなぁ〜・・・母さんが治ったら相談しちゃおうかな?」


 俺は理那の一言にぎょッとしながら、


 「いや止めろよ!?母さんなら愛があれば〜・・・みたいな事を言って、全員押し付けてくる可能性がめちゃくちゃ高いんだからな!?」


 理那がレディースをやる前にお見合いの写真持ってきて、これ全部?なんて息子に聞いてきた母親だぞ!?


 「あの純情な母さんがそんな事を本気で言う筈無いじゃん」


 それに対して俺は心の中で、嘘だ!?と叫んでいた。


 「・・・まぁ、母さんが本当にそう言っていたとしても兄貴の、所謂何じゃないの?」


 理那のそのな冷たい視線と口調に、俺ははっきりと答える。


 「・・・誰が好き好んでドロドロの愛憎劇に巻き込まれたいと思うのか・・・付き合ってなくても勝手な死ぬ奴が世界には沢山いるんですよ!?」


 俺の脳裏にはモテたくなくて仕方ない友人の顔が脳裏に浮かんだ。


 「・・・弘文兄さんかぁ・・・まぁ、あれはレアケースだよ・・・きっと・・・」


 モテすぎて命の危険があって、俺の友人の一人でもある神楽坂 弘文かぐらざか ひろふみが、一回だけ自分の目の前で刺された事を思い出したのだろう。


 因みにその時は、俺等友人総出でその時のストーカー達を色々な手でアチラコチラに擦り付け・・・もとい分散させた。


 そうしないと、弘文のファンクラブの無害な連中だけでなく、何故か当時まだ10才ぐらいにしかならなかった妹の理那とその幼馴染全員まで巻き込まれそうだったからだ。


 「・・・核弾頭か何かかな?」


 俺が当時の事を理那に改めて説明すると、理那からそのような答えが返ってきた。


 「・・・俺からしてみればあまり変わらん・・・」


 そんな弘文も今は妻子持ち、理那の幼馴染の天寺 司あまでら つかさと結婚している。


 彼女は結月と同い年だが、瑠花の次ぐらいに結婚して弘文の仕事の手伝いをしている。


 因みに弘文の仕事は弁護士だ、だから司は弘文の弁護士秘書として仕事を手伝っているが、弘文の家はかなりの子沢山の大家族で、弘文と司の両親が手伝う程大変なようだ。


 「まぁ、あそこまでイチャイチャしてれば変な女も寄り付こうとしないでしょ、後、来年一人増えるって」


 「マジで!?」


 来年一人増えると弘文の家の子達は六人兄妹になるが・・・


 「そこまでしてもう一人欲しいのか?」


 一番上の子は確かそろそろ中学校に上がる頃だったような気がするのだが・・・


 「反抗期になっているのが目に浮かぶな・・・」


 「・・・まぁ、ソコはあの二人の問題だから何とかするでしょ・・・そういえば兄貴、昔、お嫁さん宣言受けていたよね?」


 「止めろよ!?俺はどうにか濁して弘文の嫉妬を受け流したのにそんな爆弾を放り投げてくんな!?」


 莉愛ちゃんとは弘文の一番上の娘で幼い頃に将来の夢はお嫁さんでその相手が俺だったというとんでもフラグだった。


 因みに未だに弘文はこの事を根に持っている。


 司はニヤニヤとするだけで弘文を止める事は殆どしない。


 「・・・司のあれは兄貴が結婚しないから早く結婚しろっていう・・・遠回しな嫌がらせ?」


 「そんな理由聞きとう無かった・・・」


 司は多分、俺が結月と葵の好意をはぐらかしているのが気に入らないのだろう。


 「・・・はぁ、この話はヤメヤメ、気が滅入ってくる・・・それより、そろそろダンジョンに行ってくるぞ?」


 俺がそう言って席を立つと、


 「分かった、運転して送って行くね?」


 食べた食器を流しに入れて、理那は車の鍵を持って玄関まで一緒に来た。


 「・・・仕事は?」


 「今日からはなるべく兄貴がいる時は家に帰れって・・・結月ちゃんや葵ちゃんも含めた全員に言われちゃった・・・」


 理那は恥ずかしそうに頬を染めながら拗ねたように唇を尖らせた。


 「・・・もうアタシもそこまで子供じゃないんだけどなぁ~・・・」


 そう言って理那は車のドアを開けて、運転席に座る。


 俺も助手席に座り、シートベルトを締める。


 「じゃ、出発するね?」


 「あぁ、頼んだ」


 そうして理那の車は上野動物園跡地に向かって走り出した。

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