第20話 母の容態に妹の職場
妹の理那が働いており、尚且つ母の琉那が入院している職場の名前は、第二東京大学病院という大体十年くらい前に出来たばかりの大学病院だ。
元々第一東京大学に医学科というものがあったのだが、奇病、難病などの研究などはあまり積極的では無かったらしい。
だが、少子化や人口が減って医者の数もその流れで減少していく事に、危機感を憶えた第一東京大学に所属する医学科の教授と助手、そしてソレを支援する人達が後押しする形で、医者の育成専門の東大が出来たという流れらしい。
スポンサーの影響のおかげかどうか知らないけれども医者になるには金が掛かると言われていたが奨学金制度だけでこの大学は通えるらしい。
後は少々の食費を自分で稼げばどうにかなる程度の学費で医者の卵をしっかりと育てているそうだ。
まぁ、ここまでが理那から聞いた話だな、元々理那はなんとこの大学の三期生だからな・・・選んだ理由も仲の良い年上の幼馴染や友達がいたのもあったと思ったけど・・・幼馴染の子はともかく、他の子はどんな子だったか思い出せないな。
元々、理那が創ったレディースのチームの
そして、このチームの初期メンバーの子達は昔からの妹の幼馴染で友人だった。
二個上の子が二人、一個上の子が二人、そして、妹と同い年の子が一人の六人が同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学校に同じ高校とずっと一緒に進んできた。
妹も含めたこの幼馴染の六人が、レディースのチームを創った理由は、妹の理那と後になって仲良くなった親友にあった。
理那にはもう一人親友と言える友人がいるのだが、その子と仲良くなったのは中学校にいた頃らしい。
理那の幼馴染の子達は本人も含めて、まさに当時から才能の塊と全員が評されていて、学校やそれ以外の期待を勝手に背負わせられてきたのだが、中学校の時に理那の親友になった子ははっきりと言うと、本当に普通の子だった。
だからだろうか・・・普通に優しいその子との距離感が理那の幼馴染も含めて全員が心地良かったらしい。
だが、先程も言った通り理那達に勝手な期待を押し付けるクズ共がいた。
そいつらは何を勘違いしてか理那の親友に危害を加えた。
その危害は偶々軽度なモノで収まったが・・・収まらされてしまったが、正直女の子にとってはとても、これ以上無いくらいにとても嫌な行為をされた。
そして、未遂とはいえ実行した連中や関係者に理那達は大激怒した。
その結果がレディースチームの創設・・・何でだ?と思うかもしれないが理那達の考えと答えではこうなったらしい。
因みに、この学校で件のクズ行為に関係する連中は全員が俺と親父によって粛清された。
俺がケンカ担当で、自衛隊上がりで国家公務員であった親父が権力関係を担当する形だった。
とりあえず親父からその親友を襲ったクズ共は潰す事を許可貰えたので、全員向こう20年は歩けなくなるくらいにぶちのめした。
親友が襲われたのは自分のせいだと塞ぎ込む妹に兄が立ち上がらない訳が無い。
俺の妹の親友は俺の妹だ。
理那の幼馴染達にも俺は昔、直接同じ事を喋っていた・・・だから俺は有言実行とばかりに、その親友の敵を討つべくそんなクソみたいな事をする連中を片っ端からぶちのめした。
その後暫くしてから、この辺りの治安がよくなっていると俺の友人達から情報を貰ったが・・・正直、消化不良だった事も否めなかったな・・・何故かと言うとそのクズ共に指示を出していた飛び切りのクズは親父が持っていってしまったからな・・・沈めたり埋めたりはしてないらしいが、ヤクザ関係の人間も紛れ込んでいたらしい。
そのせいか親父はそのヤクザ関係者が所属する組織に・・・組織的にカチコミをかけた。
もっと分かりやすく言おう、親父は戦争を始めた。
何を言っているのか分からないと思うかもしれないが本当に戦争だったんだ・・・唯一の救いが使われたのがゴム弾だった事だけで後は組織を本当に物理的に壊滅させた。
丁度その後ろにいた政治家が目障りだったらしく親父的には本当に都合が良かったらしい。
それ以降、理那達にふざけた事を押し付ける大人はいなくなったが・・・何も出来ない子供な自分達が嫌になったのか知らないが、この出来事の後に理那達はレディースなどという事をやりだしたのが、当時のエピソードである。
まぁ、その幼馴染達の両親のどちらかが、或いは両方が親父と母さんの友人らしいので仲が良いのはさもありなん、血は争えないと言った所だろう。
因みに親父以外の親達は経済的に攻めていたらしく、関係会社がいくつも潰れたと母さんが呆気カランと喋っていたのを今でも思いだす。
そんな事を思い出しながら俺は院長先生に呼ばれて院長室を訪ねていた。
「初めまして、第二東京大学病院の院長にして理事長の
院長先生・・・鳳先生はどうやら俺の両親の友人らしいが・・・俺が困惑をしていると、鳳先生は話を進めた。
「琉那さんの容態についての説明は、理那君だけではなく君も聞くべきだと、私の方で勝手に判断したから理那君に頼んで今日は訪ねてもらったんだよ」
俺は鳳先生の言葉に少し反省をしつつもはっきりと自分の考えを伝える。
「確かに母の事を理那に任せきりなのは兄としては失格なのでしょうが・・・俺はまだ、母を救っていない」
自然と力が入る身体をどうにか抑えつけながら俺は鳳先生に告げる。
「俺は母を救う為なら、ドラゴンでも神様でも殴り飛ばしますよ」
意識的に抑えてはいたものの、やはり何か漏れ出しているのだろう鳳先生の顔が少し引き攣っていた。
「前言撤回だ・・・君は正しく正信君の息子だよ・・・そっくりだよ、何よりも怒ってる時のその顔が・・・昔、彼を怒らせて潰された馬鹿どもを大量に思い出すよ」
本当に思い出しているのだろう、鳳先生は非常に遠くを見ていた。
「・・・コホン、まぁ君が本当に諦めていないのならそれで良いんだ、後はダンジョンで得た素材を出来るだけこちらに直接卸せないかと思ってね・・・私達は実験や治験を行えて患者を治せる下地作りや薬品の精製を出来てニッコリ、余分な食材は業者が買い取って売りに出せてニッコリ、君は活動資金を手に入れてニッコリという感じで誰も損はしないと思うのだが・・・どうかね?」
「まぁ、俺は構いませんが・・・母の事が条件ですね」
「分かっているよ、とりあえず私達の診断結果では後、8ヶ月だ・・・スキルを用いた診断結果で全員が同じ結果を答えた、間違いはほぼ無いだろうと思ってくれ」
「上等ですね、理那にそれまでに何を狩ればいいのか調べておくように頼みますよ」
「・・・恐らく、ドラゴンを仕留める必要があるだろう。・・・暫くはレベルアップに勤しみたまえ」
俺はそれを聞いて嗤った。
「望む所ですよ」
俺は既に狩人で鬼だった。
院長先生とのお話を終えた俺は理那と話をする為に受付まで歩いていった。
入った時は俺と理那を見た瞬間に受付達は動いていた。
そういうマニュアルになっているのだろうかと思い返しながらも理那に取り次いでもらう。
今は他の患者さんの診断を行っているそうだからと、同じ敷地内にあるカフェブースでコーヒーを嗜んでいると、
「お待たせ、兄貴・・・母さん、スキルの力で少し持ち直したけど、やっぱりこのままじゃ・・・」
「分かってる、明日から大量に狩りに行ってくるから・・・お前は心配するな」
「・・・じゃあ、とりあえずあの薬草の大量の納品、お願いしちゃうね」
「任せろ、とりあえず2日くらい周回してみてから納品に行くから・・・そっちも色々と準備を頼むよ、俺は一先ず家に帰る・・・食糧の買い付けにも行かないといけないしな」
コーヒーを飲み終わり、理那に車で送ってもらおうと思ったら、
「・・・あっ!?いたいた!理那、先生達が例の薬草で呼んでるから、拳兄の送るのは私達で行ってくるね!」
理那の後ろから、理那よりも少し小柄な女性が二人声をかけてきたが、彼女たちは俺も知っている。
「
声をかけてきたポニーテールにメガネをかけた女性が
もう一人の女性が
そして、俺の送迎を取られた理那はと言うと、
「・・・二人とも、ちょっとこっちに・・・」
葵と結月を壁の方に連れて、協定がどうとか、アプローチは健全にとかよく分からない専門的な話をしているようだ。
「・・・平気、私がしっかりと拳兄を悪いムシから守るから」
そんな事を言って葵が俺の腕に抱きつく。
「あー!?葵ちゃんそれはズルい!?私も拳兄に抱きつくもん!!」
結月もすぐに俺の腕に抱き着いて二人は俺を引っ張って外へと向かう。
「・・・二人とも、カフェとはいえここは病院なんだから医師としてしっかりとモラルを持ちなさい・・・じゃあ、兄貴の事は任せたからね」
理那はそんな俺の事を見送って仕事に戻っていった。
「じゃあ拳兄、どこでデートする?」
俺の腕にしがみつきながら結月はそんな事を宣うが、今日はこれから次の探索の為の食糧を取りにいく事を伝えると、
「なら、途中で寄りながら家に帰れば問題無いね」
葵が自分の車を自慢気に見せてきた。
「葵の車はランドクルーザーか、内装も本格的だな」
「葵は結構機能性を求めるよね、私はスピード一択なんだけど」
「・・・結月の運転は、酔う」
葵のこの一言で全てを察した俺は、どんどん葵をヨイショして葵の車の助手席に座った。
「・・・むぅ、スーパーカーのスピードなら10分で着くのに・・・」
「俺はパトカーとカーチェイスする趣味は無い」
一応、このフラグは圧し折っておかなければ・・・
「・・・後で地雷に・・・」
「お願いだからヤメてね?」
珍しく葵がクスクスと笑ってるのを見ながら、俺は明日の事を考えていた。
それもコレも食糧を用意してからか・・・そう考えた俺は葵と結月の最近の話を聞きながら二人に送られていった。
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