第18話 外伝 帝 理那の苦悩
兄貴がダンジョンに行く準備を始めたと正継叔父さんから連絡を貰った。
叔父さんには連絡するのに、アタシには連絡しない兄貴に苛ついてめちゃくちゃ連絡しまくった。
アタシは自分のステータスを確認した。
「ステータス」
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名前
年齢 26才
身長 162センチ
体重 51キロ
スリーサイズ
B 86
W 59
H 78
レベル 28
身体能力値
筋力 23
反応 42
敏捷 18
器用さ 72
魔力 31
SP 0
スキル
言語解読
医術
調合
手術技能
医学知識
暗記術
並列思考
高速思考
高速演算
並列演算
鑑定
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「いつ見ても憂鬱になる情報が出てくるわね・・・誰の許可をとって乙女のトップシークレットを載せてんのよ?」
私は少し苛ついた表情で自分のステータスを確認して、母をこの病院に移す手続きをする。
アタシが今日この日まで努力に努力を重ねてきたのはこういう時の為だ。
アタシはそう気合を入れて母の転院手続きをして、自分が所属する大学病院に移した。
久しぶりに会った母は酷く窶れていた。
それでも、しっかり生きようとしているのが医者のアタシには分かる。
「・・・母さん、アタシが絶対に治してみせるからね」
アタシがそう決意を口にすると、
「・・・理那、私は大丈夫だから・・・無理をしないでね?」
母、
「・・・そんな事を言われて引き下がったら女が廃るに決まってるじゃん!!」
私は静かに気合を爆発させながら、診察の時間以外は自分の研究室に籠もりダンジョン病の特効薬の研究に心血を注いだ。
そこから2日が経った。
それで分かったのは現代医療と医学では治療する事は愚か、原因を究明する事すら出来ないという答えだった。
今のアタシはレベルの効果によりステータスが上がり、天才と呼ばれてた昔よりもずっとスペックが高くなっていた。
只、そんなアタシでも未知を解明するには圧倒的に時間が足りなかった。
アタシが一生を掛けて漸く治療法を一つ創り出せるかどうか・・・そんな難病だった。
この病院のアタシ以外の先生達も、全員医者というジョブを選んでいる。
それでも、母を助ける為にはピースが全く足りていない状況だった。
私はそれでも母の治療法を見つける為に研究室に閉じ籠もった。
兄から連絡があったのはその翌日、昼過ぎぐらいの時間だった。
母の治療法が見つからないまま絶望して、いつの間にか研究室で寝落ちしていたようだ。
アタシの患者の診察は予め他の先生達に頼んでいた為、私は母の診察をしてから兄がいる実家に帰った。
母には兄が家に帰って来ている事を伝えておいた。
「じゃあ、あまり無理しないように伝えておいてね?」
母はアタシにそう伝言を頼んだ。
私はそれを聞いて泣きたくなった。
泣きそうな気持ちを一生懸命に抑えながら、車を走らせて実家に着くと、カレーの匂いがした。
私は色々な気持ちがごちゃ混ぜになりながらも家に入り、兄貴と顔を合わせた。
「・・・お帰り」
「・・・ただいま」
兄貴は何でもないように私に声を掛けてきた。
言いたい事が沢山あってごちゃごちゃしている内に兄貴の方から、
「仕事は順調か?」
そう聞かれた途端、アタシの中から、私の中から沢山のモノが溢れ出した。
「そんな訳ないじゃん!!お母さんを治す事が出来て無いのに順調な・・・わけ・・・!?ウッ・・・ふぇ・・・」
あぁもうダメだと・・・私の心は悲鳴を上げて表面に出てしまった。
まるで子供のように泣きじゃくる私を、兄貴は、お兄ちゃんは昔のように優しく抱きしめてくれた。
「うぇぇぇぇ・・・一杯調べても・・・これでもかって・・・調べても・・・見つからないの!?・・・このままじゃ・・・私、お母さんのことも・・・」
助けられない・・・そんな諦めの言葉を見透かして遮るかのようにお兄ちゃんは言った。
「まだ終わっちゃいないさ」
お兄ちゃんのその言葉の意味を理解出来ずに・・・私は滲む視界でゆっくりとお兄ちゃんの顔を見た。
「理那、お前の研究者仲間に言語解読系のスキルを持っている奴はいないか?きっとこの書物と薬草が母さんの病気を治す鍵になるはずだ」
そう言われた私はゆっくりとその書物を手にとって一枚捲ってみる。
そこに書いてあったのは症例とそれに適した治療薬の調合方法だった。
私が今一番知りたかったモノが、お兄ちゃんの手で私に届けられた。
「・・・これ・・・調合書だ・・・ダンジョン病の事も書いてある・・・」
「!?理那、これ読めんの!?」
お兄ちゃんは何かズレた事に驚いていたけど、気にせずに私は薬草の方も鑑定してまた調合書を見て確認したら、お母さんが助けられる希望が見えて、すぐに動こうと思ったけど・・・
「元気が出た所でメシを食って少し休め・・・年頃の娘がそんな目の下に隈を作ってるんじゃねぇよ」
私はお兄ちゃんに言われて初めて自分が空腹なことに気づいた上にお兄ちゃんの指が私の唇を抑えている事に動揺した。
私の事を年頃の女の子扱いするならそんな簡単に唇に触らないでよ!?後、お腹の音は聞こえてないよね!?
私の内心を知ってか知らずか、お兄ちゃんはカレーをお皿に盛り付ける為にキッチンの方に行ってしまった。
私の女心は非常に複雑である。
カレーを食べた私は先にお風呂に入る事にした。
あのままだとお兄ちゃんは四杯目まで手を伸ばすだろう、なら、今の内に先にお風呂に入ってしまおうと私は考えた。
脱衣所で衣服を全部脱いでから私は鏡で自分の顔をよく見る。
・・・うん、女の子として色々と反省しなきゃ・・・そう思って私はお風呂場に入った。
私は先にシャワーで身体と頭を洗ってから湯船に浸かった。
ボンヤリと考えるのは先程の書物の事だ。
お母さんの病気の治療法がチラッと見た限り、該当しそうなモノが載っていたように思えた。
そう考えるとまた気持ちが逸りそうになり、大きく息を吐いて力を抜く・・・そんな時に、
「・・・理那、起きてるか?お風呂で寝てないだろうな?」
「ちょ!?馬鹿兄貴!?覗きとかさいてー何だけど!?」
私はため息を聞かれた動揺から慌てて兄の声に反論する。
だが、お兄ちゃんはそんな事を気にせずに、
「脱衣所の前から声を掛けてるからセーフだ・・・まぁ、アレだ・・・俺もお前にちゃんと謝っておかないとって思ったからな」
「えっ?」
私はこの時普通に思い当たらなかった。
でも、聞いてみたら納得した・・・確かにお兄ちゃんは全部一人で決めてしまって、私だって家族なのに遠ざけようとした。
でも、自分でこういうのも難だけど、正直それで良かったと私は思っている。
だって、それだと私はもっと早い段階で心が折れていただろう・・・スキルによる思考加速を得てしまった私は壁にぶつかるのも、その高さを理解するのも早い・・・お兄ちゃんはそこに気づいていたのだろう。
だが、それはそれ、これはこれだ・・・お兄ちゃんがしっかりと謝る事も滅多に無い機会で私もお兄ちゃんに直接頼られる絶好のチャンスだ!!この機会を逃さない為に私は女の子にあるまじき適当さで下着を着けて服を着た。
スパーン!!といい音を響かせながら私はお兄ちゃんの前に顔を出して、しっかりと聞く。
一応、医者としてのプライドを保つ為に重要な質問をしてから、私はお兄ちゃんが正しかった事をしっかりと認める。
「分かった、アタシ頑張るからね?兄貴?」
私は自分の役割と力がしっかりとお兄ちゃんに頼られている事に喜んでいると、お兄ちゃんが私の頭を撫でてあることに気づく。
「お前アタマびしょびしょじゃん!?」
私の頭を乾かそうとお兄ちゃんはタオルとドライヤーを取る為に脱衣所の中に入ってきた。
「あっ!?ちょっ!?まだ入っちゃダメだから!?らめー!?」
まだ脱いだばかりの私の下着が散乱する脱衣所にお兄ちゃんは平然と入ってきてタオルとドライヤーを持って私を脱衣所のイスに座らせた。
お兄ちゃんに犬のようにアタマを拭かれるのも、ドライヤーで乾かされるのも嬉しかったけど・・・下着がそのまま落ちていたのが、女の子的にショックだった。
せめて見られても問題無い可愛い下着だったのが、せめてもの救いだった。
この後、私はお兄ちゃんがお風呂から出てくるのを待って数年ぶりに一緒に寝た。
子供の頃のように純粋に自分の力を信じられるような気持ちになった後、私はお兄ちゃんの温もりで秒で眠りに落ちた。
明日から頑張るぞと眠りに落ちていく私は心に決めた。
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