第17話 家に帰って待っていたのは・・・
今回のダンジョンで得た素材は例の書物と薬草と肉以外を換金したら凡そ12万円程になり、特に薬の原料になるカエルの肝ががかなり高額で引き取って貰えた。
しかも今回は初回のお試しであり、有用な薬を開発出来たら更に価値は上がるだろうと鑑定士(ダンジョンに潜っている内に出来た職業らしい)のお姉さん(俺よりずっと年下だが)が言っていた。
それを聞いた俺はボスフロッグの肝は売らないで、薬草と書物と一緒に妹の研究用に引き渡す事にした。
お姉さんは俺がダンジョンに潜る理由を察しているのか、特に何も言わずに他の素材を鑑定して買い取り金額を査定してくれた。
お詫び少し兎のお肉を分けてあげたら、それはそれで感謝されてしまった。
何でもお肉の価格が高騰しているらしい。
「例え兎でもお肉はお肉ですから・・・」
「いや下手なお肉よりもずっと美味しいぞ・・・その兎」
俺がそう言うと鑑定士のお姉さんは笑いながら、「じゃあ期待しないで食べてみますね」と言ってここで俺達の会話は終わった。
俺も特に気にせずに家に帰る為に駐屯地から出発した。
電車を乗り継いで家に到着したのはお昼過ぎだった。
俺は家の鍵を開けて自分の部屋に入ってとりあえず着替えた。
その後、アイテムボックスから携帯を取り出して電源を入れると、
ピコーンピコーンピコーンピコピコピコーン!!!?
「!!?」
と、怒涛の勢いで通知や着信履歴が着いた。
俺は恐る恐るとそれを確認すると・・・
その通知の殆どが妹の理那からの連絡だった。
しかも、後半どれも顔文字もデコメも無し・・・これだけでも妹がどれだけ怒ってるか・・・分かる人には分かるだろう・・・
俺は一番新しい着信に、今家に帰った事を理那にメッセージで連絡した。
この時、心配を掛けた事を素直に謝ってはいけない・・・幼児退行して大泣きされるからである。
理那も正直言って親父の急死にはかなり堪えていた・・・そこに母さんのダンジョン病の話である。
今頃、恐らくダンジョン病の新薬開発で相当追い詰められている筈である。
だから、そこで折れないように謝るなら、直接顔を合わせて言わないとダメなのである。
多分、妹の事だ。
今からこの家に帰ってくるだろう。
そう考えた俺は少し多めに料理を作る事に決めて、道中のスーパーで買った野菜とカレールーを使ってカレーを作った。
カレーが出来上がって少ししたら家の駐車スペースに車が止まった。
見てみると理那の車だった。
普通に玄関から入ってきた妹の顔はそれは形容のし難い思い詰めた顔だった。
「・・・お帰り」
「・・・ただいま」
俺が理那にお帰りと言うと、理那はそれだけで既に泣きそうな程、顔をくしゃくしゃにする。
「・・・仕事は順調か?」
俺がそう言うと、理那の中から色々なモノが溢れ出した。
「そんな訳無いじゃん!!お母さんを治す事が出来て無いのに順調な・・・わけ・・・!?ウッ・・・ふぇ・・・」
俺はゆっくりと理那を抱きしめて、背中を優しく叩いてやった。
「うぇぇぇぇ・・・一杯調べても・・・これでもかって・・・調べても・・・見つからないの!?・・・このままじゃ・・・私、お母さんの事も・・・」
助けられない・・・そう言おうとする理那に、俺は優しく語りかける。
「まだ、終わっちゃいないさ・・・」
理那が顔を上げて俺を見上げる。
「理那、お前の研究者仲間に言語解読系のスキルを持っている奴はいないか?多分、この書物と薬草が母さんの病気を治す鍵になるはずだ」
そう言って俺はアイテムボックスから例の薬草と書物を取り出した。
理那は俺が取り出した書物を手にとって恐る恐るとページを捲った。
「・・・これ・・・調合書だ・・・ダンジョン病の事も書いてある・・・」
「!?理那、これ読めんの!?」
理那はじっくりと書物に目を通してから俺の質問に答えた。
「一々翻訳するのが面倒だったからアタシもステータスでスキルを修得したの・・・」
その後に理那は薬草を、白月草を鑑定しているようだ。
「・・・これ、殆どのダンジョン病の特効薬の原材料になってる・・・兄貴、コレ大量に確保出来ない?後・・・むぐっ!?」
光明を見出して再び暴走を始めようとしている妹を止めるべく、俺は人差し指で妹の口に蓋をする。
「元気が出た所でメシを食って少し休め・・・年頃の娘がそんな目の下に隈を作ってるんじゃねぇよ」
そう言って俺はカレーを二人分、皿に盛り付けて理那にまずメシを食うように告げた。
何処からか可愛らしい音が聞こえたせいか、理那は素直にカレーをおかわりして食べていた。
理那は二杯、俺は四杯カレーを食べて、先に食べ終わった理那は先に風呂に入りにいった。
俺も暫くしてから食べ終わり、脱衣所の扉の前から少しだけ理那に声をかける。
「・・・理那、起きてるか?お風呂で寝てないだろうな?」
「ちょっ!?馬鹿兄貴!?覗きとかさいてー何だけど!?」
まだ風呂に入っている理那がバシャバシャと慌てながらこっちに抗議してくる。
「ちゃんと脱衣所の前から声を掛けてるからセーフだ・・・まぁ、アレだ・・・俺もお前にちゃんと謝っておかないとって思ったからな」
「えっ?」
理那の困惑した気配が伝わってくるが、俺は構わずそのまま話を続けた。
「母さんの事、相談しないで俺が一人で決めてしまっただろう?」
「あっ!?」
「お前に話す事も考えなかった訳じゃないんだが、お前まだ親父が死んだ事を引き摺っていただろう?だから、母さんが助けられないと知った時に、どうなるかちょっと分からなかったから叔父さんに頼む事にしたんだ」
「・・・・・」
俺が理由を話した辺りで理那の反応が無くなったと思ったら風呂場が開く音がした後に急いで服を着る音が響いた。
それの直後にスパーンと勢いよく脱衣所の扉が開いた。
「・・・それってつまり兄貴は最初からアタシじゃ無理だって思っていたって事?」
「・・・ちょっと違うな・・・今までの地球に存在していた治療法じゃ誰も助けられないって俺は判断したんだよ・・・理那が力不足だからじゃない、世界そのものが変わったから、その変わったモノを使わないと助けられない、俺はそう考えたんだ」
「・・・・・」
「だから、俺は準備してダンジョンに潜った・・・そして、見つけたのがあの書物と薬草だよ」
理那は少し悔しそうな顔をしながら、
「・・・兄貴の考えは分かったよ・・・悔しいけど実際兄貴の読み通りに、既存の製造法と材料じゃ効果的な薬は造れなかったんだ・・・そうだよね、世界が変わったんだよね・・・じゃあ対応出来ない病気が増えても当たり前か・・・解析系のスキルも、もっと取らないと医者として生きていけなくなるね」
恐らく理那の面倒を見ている患者の病状が、あまりに改善されないから、最悪を想像してしまったのだろう。
「なら、アタシはコレを解読して母さんの病状にあった薬を探して準備しておくよ・・・材料は兄貴が探してくれるんでしょう?」
「当たり前だ、片っ端から狩ってくるに決まってるだろう」
俺がそう言うと、
「分かった、アタシ頑張るからね?兄貴?」
漸く元気が出て、いつもの可愛い妹の笑顔を見て頭を撫でたら・・・
「あぁ、頼りにしてる・・・ってお前アタマびしょびしょじゃん!?ちゃんと拭けよ、風邪引くぞ・・・タオルとドライヤー・・・」
「あっ!?ちょ!?まだ入っちゃダメだから!?らめー!?・・・わぷ!?」
丸洗いされた犬のようにタオルで頭と髪をしっかりと拭いて、ドライヤーで乾かされた理那は、何故かご機嫌なのか不機嫌なのか分からないテンションで文句をブチブチと言っていた。
因みに俺が風呂に入る前に理那は脱衣所に何かを片しにいったようだが、俺は首を傾げるばかりだった。
俺達兄妹の束の間の団欒はこうして過ぎていった。
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