第2話 有限の無限物資

NASAは、金の塊が緑の光と共に顕現した。という事実を全世界の混乱状態を見かね、情報を緊急記者会見という形で動画資料と共にマスコミに流すことを決定した。


その非現実的な情報はすぐさまにマスコミにより、ニュースという形で全世界に報道された。


「なんだよこれ、これじゃあまるでじゃないか」


天野 理一みちひとは緑の光と共に現れた星をテレビ画面で見つめてそう呟く。


その星の発生はまるで、アニメやゲームに出てくる魔法と酷似していた。

理一は、いや、全復活者がその星の発生の不可思議と共に、自分の体への不安感を抱いた。


本当に自分は人間のままなのか。自分が自分であるのかもわからない。生きている心地がしない。


そんな考えが全世界の復活者の脳に影を落とした。いや、影を落とされたのは復活者だけではない、ただの一般人だった。


死者が復活するという、それでさえ有り得ない現象に、更にその星が宇宙から降ってきたものではなかった。その事実が一般人をも不安にさせ、その不安は膨らみ、やがてその姿を憎悪に変えた。

つまり、全世界で復活者に対する、「」が広がり始めていた。


「俺は、本当に人間なのか……」

不安、焦燥、恐怖、自覚していなかったその波が押し寄せてきたことを感じた。


「ただ俺は会社から帰っていただけなのに…、どうして…」


頭の中は真っ白で、考えも浮かばない。ただただ、「白」というの中で孤独を感じていた──



◈◈◈



4月22日、日本時間午後5時45分。再び世界を揺るがす事件が発生した。

3ヶ国全ての星付近に大きく、そして黒い影が出現した。立体的で、現在もその形を変化させている。


やがて、星の被害によって立ち入り禁止区域になっている東京23区の中心に約40メートルの影が立ち上がった。いや、東京だけではない。3つの国の星の上にソレは現れた。

その姿は深くフードを被った人間に見える。


「「「こんにちは、日本アメリカ、イギリスのみなさん」」」


その影は、女のような機械のような、濁りのある声で会話、いや、一方的な独話を開始した。


「今、この地球の方々は突如落下してきた隕石に混乱しているでしょう」


その声はすべての家庭のテレビからも流れていた。

電波ジャックだろうか、しかしそれはアナログテレビのみに許されたジャック方法であり、いまのデジタルテレビには通用しないはずだった。


しかし現に今もテレビの画面に映されている、黒いフードを被った影はその声をテレビ、その他にもスマートフォンから発している。


「しかしあなた達のような人間ならば、いずれの謎も全て解き明かしてしまうでしょう」


それは少し諦めの感じられる、仕方の無いような言い方だった。


「私がこうしてあなた達の目の前に現れているのは、地球に落ちた隕石の中に入っているを、3カ国の内のどれかが発見したからです」


世界中では、その姿をテレビで見る者、スマートフォンで見る者、星の上を見上げている者が更なる混乱に陥っていた。

それをよそに影は言葉を続ける。


「まだそれを見つけられていない2国のために、今ここで発表させてもらいますが、星の中には2つのモノが内包されています」


「ひとつは──



◈◈◈



9日前、4月13日、イギリスのロンドンでは、他の2国より遥かに早く星の解体作業が行われていた。


政府直属の「星降り事件調査機構Stars Survey Organization」(SSO)による9日間にも及ぶ解体作業の末、未だに三ツ星事件がその息を絶っていなかったことが判明した。


4月22日、イギリス時間午前8時45分。

解体作業中、1人の作業員が星の中に眩しく黄色く輝く壁を発見した。


そしてその作業員がその壁に手を触れたその瞬間、星からどす黒く粘液のような影が出現した。


ソレは形を変え、やがては40メートルにも及ぶ巨大な影を形成した。フードを深く被る大きな人のように見える。


それが今まさしく3ヶ国で世間を揺るがしている「影」の発生の瞬間だった。



◈◈◈



「ひとつは、テンジニウムという物質です。これは簡単に説明すると、有限の無限資源、と言った所でしょうか」


影はその巨躯から腕を伸ばし、掌の上に黄色く輝く正方形のモノを発生させた。


「これがテンジニウムです。まずは使用方法から説明しましょう。使い方はとても簡単です。ただあなた達が望むものを願うだけ」


影は、そうですね、と呟き、


「では『水』にしましょう。あなた達が1番馴染み深い資源でしょう?それではテンジニウム、水を」


それは願いか、命令か、どちらとも受け取れる言葉に反応したかのように正方形テンジニウムはその体から大量の水を溢れさせた。


その姿をテレビ、スマートフォンで見ている者達、現に目視している者達は驚き、ざわつき始める。


「このように願った物をテンジニウムは物理を崩壊させ、出現させます。無限に、永遠に。まあ、一時的に止めることもできますが」


掌の上の正方形は止まることを知らないようだ。永遠に水を流し続ける。流れ出た水はどこかへと霧散していく。


「しかしこのテンジニウムがの無限資源であることを忘れてはいけません」


有限の無限資源。その名前の矛盾を明らかにする。


「この、水を出せと願われたテンジニウムはもう、水を発生させることしかできなくなります」


例えば、と、続ける


「このテンジニウムに石油を出せ。と願っても、反応はありません。ただただ水を生産するだけです。ぜひよく考えて使用してください」


「3ヶ国に落下した隕石の中には、一辺2m正方形のテンジニウムが内包されています。自動的にそれは分裂を始め、一辺1mの正方形を8つ作ります。しかし、テンジニウムが効果を発揮するためには、それを1mの正方形に保たねばなりません」


今のあなた達の技術では分裂を防ぐことも、傷をつけることもできませんがね。と、嘲る。


そして更に黒く、機械的な冷たさがある声で、


「そして、もうひとつの内包物があなた達に多大な影響を与えるでしょう」


1人で笑って呟くように、


「そうですね、ソレを各国が剥奪するために勃発するのは──










────戦争、でしょうか。

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