(2)

「いいですか、姉さん」

 王宮は……まだ、一応は無事なようだ……。

「何?」

「交渉は、あたしがやりますから、黙っといて下さい」

「はい」

「もちろん、魔法を使うなんて、もっての他です」

「うん」

「じゃあ……」

 そう言って、イルゼは閉じられた王宮の城門まで行き……。

「冒険者ギルドの者です……」

「今、何と言った?」

 城門の向こう側から、魔法の拡声器を使ったらしい声が響く。

「冒険者ギルドの者です」

「間違いないか?」

「はい」

「念の為の最後の確認だ。本当に冒険者ギルドの者か?」

「はい、冒険者ギルド本部に勤めている魔法使いです」

曲者くせものじゃ〜ッ‼ 皆の者、出合え〜ッ‼ 確実に殺せ〜ッ‼」

「えええええ?」

「ごめん、言い忘れてた〜」

「姉さん、何をですかッ⁉」

「王宮の人達は……冒険者ギルドの事を……国王直属の騎士団を大虐殺したテロリストの一味と思ってるみたい」

「早く言って〜ッ‼」

 次の瞬間、城壁の上から矢が降り注ぎ……。

 イルゼに言われた事を、うっかり忘れて……魔法防壁……。

 って……しまった……前にもやった……。

 魔力が……コントロール出来てない状態での魔法防壁展開で……。

 私らの身は守れた。

 ただし……。

 城壁が……まるで……目に見えない真ん丸い「無」に削り取られたかのように……。

 崩れた……。

 粉々になった……。

 瓦礫と化した……。

「どうすんですかッ‼ これじゃ、俺達、完全に悪者……」

「もう、何も考えるな……突撃だ〜」

「んな、無茶苦茶なッ‼」

「王族を逃すのに成功すれば、後は何とでもなるッ‼」

 城壁が崩れた箇所から王宮に突入し……ああ、これで……王宮を魔物たちから護ってた結果も壊れちゃったな……絶対に……。

 もちろん、衛兵達はゾロゾロと現われ……。

「てめえらッ‼ 私の言う事を聞けッ‼ 私の命令通りにしろッ‼」

 「魔法の拡声器」にも使われてる音声増幅の魔法に、更に「言霊」を込め……。

「はい……ご命令を……」

 あ……。

 しまった……。

 ルーカス君まで……私の「精神操作」の魔法の餌食に……。

 魔力は十分、でも、制御出来ない状態の「精神操作」なんで……。

 ごめんなさい。

 もう、ルーカス君は……一生、自由意志のない奴隷人間……。

「姉さんッ‼ 何て真似するんですかッ‼」

 イルゼの怒号。

 見渡す限り……そこにゾロゾロと居るのは……。

 どんな治療をしても……元に戻らないであろう……死ぬまで……自分で善悪の判断を付けられず……マトモな日常生活さえ送れない……私の命令に従うしか出来ない……体は人のままなのに、もう、人間とは呼べない哀れなナニか……。

「仕方ないよ……これも……『より大きな善』の為の必要な犠牲なの……」

「あ……あのですね……。いくら、王族を助け出す為と言っても……」

「償いは……助かったら必ずやる……だから……」

 私は、心の底まで奴隷人間と化した衛兵の中で一番偉そうなのに命令。

「お前は、別命あるまで、ひとまず待機」

「はい、ご命令のままに」

「じゃあ、こっから右側の約半分は……ありったけの荷馬車と馬を用意。残りは、私について来て」

「はい、ご命令のままに」

 奴隷人間たちは一斉に答える。

「じゃあ、あんた……私たちを」

 そう言って、私は、一旦は待機するように命令した衛兵に……。

「……

?」

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