(3)

「う……うそ……ここの宗派、なんで、あんな危険なモノを町中に保管してたの〜?」

「うがががが……」

 私達は、この事態を解決出来る勢力を求めて……王都のあっちこっちをうろつき続けていた。

 冒険者……「鋼の男」のせいで、実力者の大半は死亡。冒険者ギルドは組織崩壊。

 暗殺者アサシン……「鋼の男」のせいで、実力者の大半は死亡。暗殺者アサシンギルドは組織崩壊。生き残りの大半は、冒険者ギルド最高幹部達を道連れに自爆散華。

 盗賊団その他の犯罪組織。私らが知ってる連中は、全部……逃げ出してたか死んでた。

 特定組織に所属してない魔法使い。私らが知ってる連中は、全部……逃げ出してたか死んでた。

 魔法使いを養成する学校・私塾。私らが知ってる連中は、全部……逃げ出してたか死んでた。

 全ての元凶である「鋼の男」。……更にチートな化物に、あっさり殺された。

 その「鋼の男」を殺した女。……『三千大千世界マルチバースの狭間』とやらに帰って行った。

 王都が地獄に変って以降の最初の日没を迎える頃には……生きた人間を見掛ける事さえ稀になっていた。もう、一日足らずの間に王都内で出た死者は……人口の9割で済んでたら万々歳だろう。

 そして……こんな事態が起きた場合に、一般人が最初に頼るであろう……聖堂・神殿・寺院。

 ああ……。

 私達が現実だと思ってた「この世界」が……実は……吟遊詩人のヘボな叙事詩か、三文芝居の脚本の中の世界だったとしたら……クソ……「実は、この世界では『本物の神聖魔法』は、ほぼ消え去ってて、一般人が『神聖魔法』だと思ってたモノは、ヤバい魔物により与えられた力だったんですぅ」って逆張り設定は、この為か……。

 王都に「魔王級」の魔物が大挙してやってきた時、一般人は……聖堂・神殿・寺院などに助けを求めた。

「死ね、こんちくしょうッ‼」

「げひゃあッ‼」

 イルゼは、半人半魔と化して、聖堂から溢れ出してきた元・一般人を「魔法の矢」で大虐殺。

 でも……。

 半人半魔どもの指揮官らしい何百年か前はチョ〜豪華だったであろうボロボロの法衣を身に付けたミイラっぽいナニかに「魔法の矢」が命中しても……効いてない……。

 まだ、人間だった頃の記憶が残ってるらしく……「おや、何かしたのかな?」って言いたげな相手を小馬鹿にした感じのゼスチャー。

 そう……一般人が「神聖魔法」と思ってたモノの使い手の正体が……ヤバい魔物との取引で力を得てた「邪術者」だった以上、そいつらが死んだら、その死体は……聖遺物ならぬ邪遺物・魔遺物と化す。

 そして、その邪遺物・魔遺物と化した死体は、「魔王級」の魔物が何匹も出現した状況では……活性化して超チート級のアンデッドと化し……。

 って、何で、「一般人が『聖遺物』だと思ってるだけの、チョ〜危険な邪遺物・魔遺物」を町中の聖堂に保管してた阿呆が居たんだッ?

 あああ……畜生、ひょっとして、聖職者どもも、自分達が崇めてた聖者・聖女の正体が「超マズい邪術者」だって知らないケースも有ったのか?

「やっぱ、こんな所、来るべきじゃなかったんですよッ‼」

「『駄目元で行ってみよう』とか言ったの……ルーカス君でしょッ‼」

「そうでしたっけ?」

 悪い冗談みたいな状況だ……「魔王級」の魔物が複数出現した時に一般人が真っ先に頼った場所……聖堂・寺院・神殿なんかの宗教施設……こそが、この状況では一番の危険区域だったなんて……。

「もういい。私が転移門ポータルを開くから……」

「や……やめて下さい。姉さんの魔法は、ほぼ必ず暴走するんだから……」

 そう言って、イルゼは転移門ポータルを開く呪文を唱え……。

 唱え終ってない内に……何故か転移門ポータルが出現。

「えっ?」

 そして、その転移門ポータルから……。

 巨大な手……。ただし……目がチカチカするような変な色の鱗がビッシリ……。

 その巨大な手は……転移門ポータルを無理矢理広げ……。

「うがああああッ‼」

「どうなってんすかッ?」

「え……えっと……まさか……まさか……」

「こ……この可能性を考慮すべきだった……かも……」

「え……ええ……深く考えたくは無い可能性ですけどね……」

「な……なに? なんなんすかッ?」

「『魔王級』の魔物がたくさんやって来たせいで……もう……王都は……魔界に飲み込まれかけてる……」

「えっ?」

「だから……『この世界』のどこかにつながる転移門ポータルを開こうとすると……一定の確率で、魔界につながる転移門ポータルと化してしまうみたい……」

「そ……そんな……馬鹿な……」

「いや……自分で体験した事は無いけど……そんな事が起きて『この世界』から消えちゃった町の記録は……」

「あの……一定の確率って、どの位なんすか?」

「わかないけど……時間が経つほど大きくなってく事だけは確か……だと思う」

「がっ?」

「ぐるっ?」

 ところが……。

 ピキ〜ン。

 何とも嫌な雰囲気。

 周囲の空間が歪んでるように見えるのは……王都そのものが魔界に飲み込まれかけてる為だけじゃないようだ。

 何かの緊張感……ただし、私たちをガン無視した……。それが、周囲の空間を支配し……。

「があああッ‼」

「ふんごぉッ‼」

 そして……超チート級ミイラ怪人に率いられた半人半魔軍団と、転移門ポータルから出現した巨大な魔物に率いられた「直立二足歩行の極彩色のドラゴン」って感じの姿をした魔物の集団は……私たちを無視して大喧嘩を始め……。

「に……逃げろ〜ッ‼」

 どうやら……魔物は魔物でも……仲が悪い集団同士だったようだ。

 助かった……のか?

 しかし……。

 ドォ〜ンっ‼

 かなり離れた筈なのに……目の前に降ってきた……。

 じゅるじゅる。

 がじがじ。

 じゅるがじ。じゅるがじ。

 とんでもない魔物軍団同士の大喧嘩の現場から……投げ出された魔物が……ごめんなさい、数え方が判らない。

 単数か複数かも判らない。

 かつてはデブの中年男だったであろう半人半魔の……えっと……その……エロ触手と化した股間のナニが……ドラゴン人間風の魔物の腹に突き刺さり……。

 そのエロ触手は……ドラゴン人間風の魔物の体を同化していき……。

 一方で、ドラゴン人間風の魔物は……自分の体を同化しようとしているらしい半人半魔の体をガジガジと齧り続けていた。

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