(2)

 周囲から次々と轟音。

 轟音がした場所あたりの瓦礫が弾け飛ぶ。

「な……なに?」

 どうやら……目にも止まらぬ程の速度の何かが……こっちに近付きつつある……。

 そして……。

 一体全体……今日は何回、初体験をするんだ?

 初めて聞いた……「鋼の男」の恐怖の悲鳴。

「どこに行く気だ?」

「が……っ?」

 2人目のチート鎧が「鋼の男」の目の前に出現していた。

 そして……2人目のチート鎧の前蹴りが……「鋼の男」の鳩尾みぞおちに叩き込まれていた……。

 ガシャン……。

 その音とともに……「鋼の男」の腹から血が吹き出す。

 どうやら、足にも隠し武器が仕込まれていて……それが、「鋼の男」の腹の装甲を貫いたらしい。

 ドン……。

 「鋼の男」が膝を付く。

「どうなっている? お……同じ……鎧では……ない……のか……? もし……同じ鎧なら……なぜ、ここまでの差が……?」

 ガシャン。

 再び、その音。

「あの世で、ゆっくり考えろ。あの世とやらが有って、お前が、そこに行ければだが……」

 え……?

 あ……。

 「鋼の男」の鎧は……死者の霊を食う鎧。

 2つ目のチート鎧にも同じ能力が有るなら……。

「ちょ……ちょっと待って……」

 一応……訊いといた方がいいかも。

「何だ?」

「そいつが死ぬ前に訊きたい事が」

「手短に頼む」

「質問は……何だ?」

「何で、冒険者が嫌いなの? 嫌いなだけで……こんな酷い事をしたの?」

 だけど……返って来た答は……。

?」

「えっ?」

……?」

「何を言ってるの?」

「好きな方をお前らが選べ。『たまたま力を手にした頭のおかしいクズ野郎が好き勝手やったせいで……お前らの仲間は何の理由もなく無意味に死んだ』って事にするか……『お前らが知ったら、自分が冒険者になろうとした日を呪う程の酷い怨みを……俺が冒険者どもに抱いていたが、最後の情けで、その恐しい真実を言わずに死んでいった』……その2つの好きな方を信じろ」

「そ……そんな……何も答えて……ない……」

 ドンッ‼

 次の瞬間、2人目のチート鎧の腕に出現した隠し武器の刃物が……「鋼の男」の脳天に突き刺さる。

「こいつが出血多量で死ぬ前に、君達にとって意味が有る答は返ってきそうにないな。勝手ながら……時間の無駄と判断させてもらった」

「は……はぁ……」

「では……君達に対処出来ない問題は解決したと判断し、私は帰らせてもらう。何か……とんでもない事が起きてるらしいが……残りの問題は、この世界の人間達の手で解決していただきたい」

 チート鎧2人目が、そう言った途端、彼女の近くに転移門ポータルが開き……。

 生きた人間が入ってるのと、死体が入ってるの(多分)の2つのチート鎧は転移門ポータルに消え去り……。

「ちょ……ちょっと……待って……」

 あ……マズい……。

 最大の問題は……何1つ解決してない。

 つか……。

「あの……姉さん……さっきから、訊こうと思ってたんですが……」

「ああああ……」

「あたしらが居なくなってた間に……何が起き……」

「ドぉ〜コぉ〜ダぁ〜……」

盗人ヌスットメ〜……出テ来イ……居ルノハ……」

 どうやら……あのチート鎧が有れば……あいつらに対処出来る可能性は有った……。

 でも……居なくなった……。

 消えた。

 一時的に2つに増えてたのに……今は1つも無い。

「あああ……あの……魔物……何なんすかッ?」

「って……あいつら……どう見ても……『魔王』級の連中でしょ? 何で……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る