第二章:The Magnificent Seven/選ばれし7人

(1)

「ね〜、お酒まだぁ〜?」

 私は、イルゼにそう訊いた。

「だ・か・ら……成功するまで、お酒は無しですッ‼」

「ちょっとぐらいいいでしょ。この店で一番強い酒を一番大きいジョッキで一杯だけ。オツマミは要らない。お酒さえあればいいから」

「駄目ですッ‼」

「何で?」

「この計画を成功させるには……まずは、姉さんをマトモに戻す必要が有るんです」

「無理」

「はぁ?」

「昔の私に戻るなんて無理。仮に戻れても、あいつを倒すなんて無理。はい、論破」

「あのですねぇ……」

「わかった、わかった。できるかどうかは、わかんないけど、がんばってみるから……」

「その調子です」

「だから、お酒飲ませて。この店で一番強い酒を一番大きいジョッキで二杯だけ。味はどうでもういい。酔っ払えれば、それで十分」

「あのですねぇ……。これから、打ち合わせなのに酔っ払って、どうするんですか?」

 ここは、冒険者ギルド本部の近くの酒場。

 私達は、冒険者ランキング1位でありながら、冒険者ギルドにとっては消し去りたい存在である通称「鋼の男」の暗殺の為に集められた……7人の「選ばれし者」だ……。

 正確には……らしい。

 ギルド本部の仕事をやってる修行時代の妹弟子のイルゼも、その「選ばれし7人」なのかは……酒が切れてたせいで、逆に頭が働かなくなったみたいで、よく覚えてない。

 あと、7人の筈なのに……まだ2人しか……。

「いやだぁ〜ッ‼ あの化物と戦うなんて……冗談じゃねえぞッ‼ 死にたくない〜ッ‼」

 2人目が来たようだ。

 3人目かも知れないが。

 ともかく、「選ばれし7人」が実は3人半しか揃わなかろうが、十人以上になろうが、私には関係ない。

 私にとっての……目の前の最大の問題は……どうやって酒を飲むかだ。

 飲みたい。

 飲みたい。

 飲みたい。

 飲みたい。

 ともかく、飲みたい。

 無茶苦茶、飲みたい。

 酔っ払って、そのまま安楽死するのが、今の私の最大の夢だ。

 待てよ。

 コントロールが出来なくなっただけで、私の魔力は元のままの筈。

 なら……。

 精神を集中し……。

 どげしっ‼

 後頭部に衝撃を感じると同時に……私の顔面はテーブルに叩き付けられた。

「何、すんのッ⁉」

「姉さん、何か、ロクでもない事、しようとしてたでしょ?」

 うん、たしかに、テレポーレーションの魔法で、ここを逃げ出そうとしてたけ……。

「うわああああッ⁉」

 天井から、半裸の男が降ってきて、私達の目の前のテーブルの上に落ち……テーブルは真っ二つに割れた。

 その男は……。

 胸元を大きく開けたセクシーな袖無し臍出しシャツに、股間を強調したピチピチのタイツ。

 男なのに、やたらとヒールの高い靴。

 明らかに染めてる金髪と……明らかに魔法で変えた健康的な褐色の肌。

 何で、明らかに肌の色を魔法で変えてると判ったかと言えば……。

 こいつの肌の色を魔法で変えたのが、私だからだ。

 元々は北方の少数民族特有の病的な白い肌(ちなみに白過ぎる肌の連中はエグい差別を受けてる)だったんだけど、この王都の色町では、褐色肌の男娼が人気だったから魔法で肌の色を変えたのだ。男の客にも、女の客にも。

「すいません、連行してた……『白き聖戦士』が、突然……あれ?」

 そう言って、酒場の中にギルドの衛兵さん達が入って来たけど……。

「あの……こいつ、そもそも……聖戦士パラディンじゃないよ」

 私は、天井から落ちてきた男を指差す。

 どうやら、私がテレポーテーションの魔法で、ここから逃げようとしたのが、中途半端に妨害されたせいで……このアクシデントが起きたらしい。

「へっ?」

 一般人は愚か、初級の冒険者達さえ(一部当事者を除いて)知らない事だが……「神」と称する「ナニか」から授かった本物の「神聖魔法」を使える連中は……完全に絶滅危惧種だ。

 聖堂の司祭達も、「プリースト」を称する冒険者も……俗に「聖女」「巫女」と言われてる連中も……全部・ぜんぶ・ぜ〜んぶ、どうやら一応は「本物」は居るらしいけど、私のこれまでの生涯で会った奴は、ほぼ全員、別の種類の魔法か、「神」とは別のタチの悪い「何か」との契約で力を得ているか、古代のマジック・アイテムを使ってるかだ。

 私のチームメイトだった「銀の稲妻の聖女」と言われた「僧侶」も……実は、かなりヤバい魔物との契約で力を得ていた。つまり、あいつの「治療魔法」で怪我や病気を治療された哀れな奴の魂は、死後に魔物さん達が魔界でやる宴会のオードブルにされるって訳だ。

 もちろん、「神聖魔法」の使い手の中で、更に希少な「聖戦士パラディン」だの「勇者」だのは……この王国全土どころか、全世界で5人居れば奇跡だろう。

 そんな連中が、冒険者なんて俗っぽい仕事をやってる訳が無い。

「あ……姐さんもですか……」

「あ〜、久し振りだね……」

「あ……あの……冗談じゃないですよね?」

 震えそうな声で、そう訊いたイルゼの顔には笑みに見えるが笑みじゃないナニかが浮かんでいた。

 早い話が……顔の筋肉が痙攣してるのが笑みっぽく見えるだけだ。

「何が?」

「だから……冒険者ランキングの元2位のチームのリーダー「白き聖戦士」ルーカスが……実は聖戦士パラディンじゃないなんて……」

「無理っす……。たまたま手に入れた古代の聖剣の力で、あの力を使えてたんっす。その聖剣が破壊された今……」

 そうだ……。こいつは、力の源だった聖剣を失なったんで、冒険者やめて男娼に商売換えしたのだ。

「聖剣を破壊した当人の『鋼の男』とマトモに戦える訳ないっす」

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