(3)

「う……あ……?」

 私……昨日の晩、何をしてた?

 記憶が無い。

 えっと……温かい。

 柔らかい布団に……肌触りのいい毛布。

 でも……動けない……。

 何故?

「姉さん、何て事したんですかッ⁉」

「んがががが……」

 声のした方を見ると……。

「あ……ああ、おはよう……だっけ? 今、何時?……えっと元気だった?……あと、久し振り……元気だった? って、あれ?『元気だった?』って、さっき言ったけ?」

 そこに居たのは……同じ師匠の元で修行した魔法使いとしての妹弟子のイルゼ。

 そして、その右手には……。

「んがっ‼ んがっ‼ んがっ‼」

 ああ、そうか……体が動けないのは、このせいか……。

 私の使い魔は……小型マスコット形態になって魔力で出来た縄で拘束され、イルゼに首根っこを掴まれていた。

 1年前の時点では……冒険者ギルドの本部勤めだった筈だが……。

「何やってんですか?『ギルド所属の冒険者同士のトラブルやギルド非所属の野良冒険者の駆除なら、部外者を巻き込まない限りは死人が出ても王宮は不介入。冒険者ギルドの自治に任せる』がギルドと王宮の取り決めですけど……相手は一般人ですよッ⁉」

「あ……まさか……」

 だんだん、昨日の記憶が脳内に甦り……。

「あああああ……」

「やっと、自分が何やったか思い出したんですか?」

「あわわわ……私……なんて事を……」

 私が慌てふためく様子を見て溜息をつくイルゼ……。

「まさかまさかまさか……まさかぁぁぁぁぁぁッ‼ 死体残ってたの?」

 しばらくの間の沈黙……。

 何故か、顎カックン状態になるイルゼ。

「あああああ……」

 何故か、今度はイルゼの方が慌てふためき始める。

「落ち着いてえッ‼」

 その一言に「言霊」を込め……。

「何やってんですかぁッ‼『落ち着け』は、こっちのセリフですッ‼」

「い……いや……でも……」

「でもも、クソも、ここ1年、酒浸りで、魔力を制御出来なくなってる『魔法使い』が『精神操作』系の魔法を使ったら、何が起きるか判りませんよッ‼」

「精神操作って言っても……あなたが、取り乱してたから……落ち着くように……」

「やめて下さい。あたしがいいと言うまで、絶対に魔法は使わないで……いや、ちょっと待って」

 この部屋は覚えが有る……。冒険者ギルドと提携してる旅館の中でも……最高級の店の更に最高級の部屋だ。

 どう言う訳か……イルゼは、この部屋の出入口に向って走り……ドアを開け……。

「あのさ、衛兵さん達、大丈夫? 何か変な事起きなかった?」

「はい、大丈夫です」

「はい、我々は落ち着いております」

「ええ、ご命令通り、とっても落ち着いています」

「全く、うろたえていません。次のご命令をお願いします」

 何故か感情らしきモノが全く感じられない不気味さを感じるほどの棒読み口調の男達の声が聞こえたと思ったら……。

 その声を余裕でかき消すほどのイルゼの絶叫が轟いた。

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