(2)

 ここ1年、ずっと路上で寝ている。

 かつての家は売り払った。

 金もほとんど残っていない。

 眠りたくない。

 あの日の夢を見る。

 でも……体には疲れが溜っている。

「おい、起きろ……」

「あ……?」

 知らない内に路地裏で寝ていたようだ。

 幸か不幸か、夢を見るほどではない浅い眠りだったようだが……。

「あんた……4色の稲妻ブリッツ・フォン・フィーア・ファルベンの1人だった『青の稲妻ブラウ・ブリッツ』のカリーナだろ?……冒険者で魔法使いの」

「はぁ? 違いますよ……。あたしゃ、ただの宿無しですよ……」

「そうだよな……。冒険者じゃなくて……元冒険者だよな」

 私を起こした男は……私の前髪を掴む。

「いたたた……何すんの?」

「うるせえ。テメエだけ、のこのこ生きて帰りやがって……恥かしいとは思わねえのか?」

 どうやら……私達のパーティーのかつてのファンらしい。

 パーティーで唯一おめおめと生き残った私を、かつてのファンは赦してくれなかった。

 いくら魔法使いでも、例えば寝込みを襲われれば……それが、私が冒険で貯めた金で折角買った家を売り払い、路上で暮すようになった理由だ。

 私達のパーティーの熱烈なファンの中には、メンバーの自宅を突き止めていた者も居た。

 その状態で、かつてのファンの憎悪の対象になったら、どうすべきか?……その答が今の路上生活だ。時々、最適な答だったのか自分でも疑問に思う事が有るが。

「やめて、やめて、やめて、酷い事しないで……」

「うるせえ……」

 腹にパンチ。

 私は口から吐瀉物を吹き出し……。

「て……てめえ……汚ねえ……ふ……ふ……ふざけやがって……」

 その吐瀉物は男の顔にかかっていた。とんだ「ブッカケ」だ。

「やめてぇッ‼」

 私が悲鳴をあげると……。

「ぐええええ……」

 男の腰から下が消える。

「あああああ……マズい……マズい……マズいよ、これ……」

 私は「使い魔」を制御出来る精神力さえ失なっていた。

 私の恐怖に呼応して現われた私の使い魔は……男の体を食らい始める。

 私は、頭が真っ白になった状態で……その場から逃げ出した。

 私の使い魔と、その犠牲者を、その場に残して。

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