第3話 エロい声の真実

 前田さんが起こした謎現象を説明してもらうため、彼女の家に入る俺。

果たして、何を聴かされるのか…。



 「おかえり~、知美ともみちゃん」


玄関に着いて早々、女性1人に出迎えられた。家に入る前にお母さんがいると教えてくれたので、間違いないはずだ…。


「あら? 君が神田かんだ君ね? 知美ちゃんから聴いてるわよ」


前田さんが事前に連絡したのは知っているが、俺の事に触れていたとは…。


「はい、“神田 潤”っていいます。今日は急にお邪魔してすみません」


「良いのよ。だって、神田君は知美ちゃんとなんですもの」


「え~と、それはどういう…?」


「お母さん! 話は後にしてよ!」

語気を強める前田さん。


「…それもそうね。神田君はわたしと一緒にリビングに来てちょうだい。知美ちゃんは着替えてから来てくれるわね?」


「ええ」

彼女はお母さんの横をすり抜け、階段を上がっていった。


「神田君。靴を脱いだら、わたしに付いて来て」


「はい」


前田さんのお母さんに付いて行き、リビングに到着した。

…4人掛けのダイニングテーブルがある。


「好きなところに座ってちょうだい」


「ありがとうございます」

お言葉に甘え、座ることにした。


その後、前田さんのお母さんは俺の真正面に座ってきた。


「わたしは明美あけみっていうの。これからもよろしくね」


「はぁ…」

前田さんの件を聴き終わったら、2度と会わないと思うが…。


「ねぇねぇ、神田君って知美ちゃんと仲良いの? 家に男の子を連れてきたのって、君が初めてなのよ」


「そうなんですか? …実は今日の席替えで隣同士になって、初めて話したんです」


「初めて話した男の子を、すぐ家に招待するなんて…。知美ちゃん、君のことが気に入ってるかも」


悪いが俺はそう思わない。この家に来る道中、『これからは私に触らないでちょうだい』と言ったんだぞ。しかもあれは、“照れ隠し”って感じじゃない。


今回の説明が済んだら、今後話すことはないかもな…。



 「…お待たせ。お母さん、神田君」

私服に着替えた前田さんがリビングに着き、明美さんの横に座る。


「これで準備完了ね。…今日のことは、わたしが教えてあげるわ」


「はい、お願いします」


「授業中、知美ちゃん以外の女の子がおかしくなったのは…」


……

……


なんだ? 引き伸ばし過ぎだろ。もったいぶることか…?


「わたし達が“サキュバス”の血を引いているからよ」


「…はぁ?」

この期に及んで、ふざける気なのか? 俺は前田さんを観る。


「おばあちゃんもそう言ってたし、ホントなんじゃない?」


「マジで…?」

見た目は普通の人と変わらんぞ。


今までの話を聴く限り、サキュバスの話は先祖代々受け継がれているんだな。


「神田君。サキュバスって何かわかる?」

明美さんに訊かれる。


「男を誘惑するエロい悪魔…で良いですかね?」


「男の子には常識だったかしら」


常識は大袈裟だろ…。とはいえ、高校生で分からない人は珍しいかも?



 「わたしのおばあちゃん、つまり知美ちゃんのひいおばあちゃんがサキュバスだったらしいわ。写真がないから、姿はわたしも知らないけどね」


「だったら、サキュバスの血を引いているかわからないのでは?」

証拠が何一つないよな。


「わたしもそう思ったことがあるわ。けど、お母さんから聴いた話を実感してからは、意見を変えることにしたのよ」


「あの…、何を実感されたんです?」

意見を変える何かを体験したんだよな?


「体の相性が良い人に触れると、すごく気持ち良くなるの♡」


「え…」

あの時の前田さんのエロい声って、そういうことなのか…?


「だから知られたくなかったのよ…」

彼女のテンションはダダ下がりだ。理由を聴けば納得できるがな。


「知美ちゃんの連絡を観た限り、かなり大きな声を出しちゃったみたいね。知美ちゃんがかなり敏感なのか、神田君との相性がすごく良いのか…」


そうか。それがさっきの“相性抜群”になるんだな。


「もしかしたら、2人は赤い糸で結ばれてるかも。これから親睦を深めてみたら?」


女子の友達ができたら嬉しいけど、前田さんはどう思うかな?


「神田君とは隣の席になっただけ。必要以上に馴れ合う気はないわ」


保留ではなく拒否か…。


「もう、素直じゃないわね」


明美さんはそう言うが、前田さんは本当に嫌がってるように見える…。

彼女の人となりを全く知らないので、断言はできないが。



 俺の前に座っている2人が、サキュバスの血を引いている…。そう仮定したとしても、あの疑問は消えはしない。


「あの…、前田さんの声で女子がおかしくなったのはどうしてですか?」


サキュバスはエロい悪魔だ。なら、おかしくなるのは女子ではなく男子になるはずだろう?


「それはね…、わたし達が受け継いでるサキュバスはだったからよ」


「落ちこぼれ?」


「本来は神田君の予想通り、男の子を興奮させるものよ。けど彼女の声は、同じ女の子を興奮させる異質な存在だったの…」


突然変異的な…? 俺にはよくわからんが。


「そのせいで、彼女は仲間のサキュバスにひどいことをされたみたいよ。それに耐え切れなくなって人里に降りた時、運命の男性に出会って恋をしたって聴いてるわ」


「…ずいぶん詳しく伝わってるんですね」

言葉だけでは説明しきれないだろ…。日記とかもあるんだろうか?


「それが彼女の願いなんだって。先祖に迷惑をかけたくないからだそうよ」


「迷惑なら、もうかかったわよ…」

そうつぶやく前田さん。


「わたしとお母さんが昔から何度も言ってたのに、知美ちゃんが聴き流すからでしょ」


「そんな事言われても『サキュバスの血を引いてる』なんて誰が信じるのよ!」


そう考えてたから、前田さんは消しゴムを手渡しで渡すように要求したのか。

普通は手と手が触れあっても、問題ないからな。


けど予想に反し、彼女の体は俺の手に敏感に反応した…。これが真相みたいだな。



 これで、一通りの話は聴けた。さらに膨らませるか、ここで終えるかは早急に判断して決めるとしよう…。

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