第2話 決断
さて、事を整理しよう。
私は1945年の春に行われた沖縄の
ここまでは良い。いや作戦が失敗してるんだから良いワケは無いのだが、ひとまずは良い。ここからが問題だった。
私は、何故か今も生きている。それも私もよく分からない形で、だ。
目の前の白衣の女がすべて知っているらしいが、先ほどざっくりと話してもらった内容は私には最初から最後まで理解不能だった。
「ま、まぁ理解が追い付かなくても仕方ないと思います。他の方も最初は戸惑ってらっしゃいましたし」
「他の?他にも私のように転生した方が居るのかね?」
良かった(?)、私以外にもこんなヘンテコな運命を背負った者が居たのか。
誰だろう、やはり山本五十六大将だろうか?この際誰でもいい。同じ時代の者に会いたい・・・!
「そう言えば、君の名前を聞いてなかったな。何というんだい?」
「私ですか?
「そうか、よろしく」
私が手を差し出すと、彼女・・弥生は不思議そうな顔をした。
「どうした?ほら、握手だよ握手」
「あぁ、すいません。今までユニットから握手を求められるなんて事、無かったもので・・・よろしくお願いします、伊藤中将」
そう言うと彼女は、少々恥ずかしがりながらもしっかり私の手を握った。
「・・・ところでなんだが、私の声変わってないか?なんか若々しくなった気がする」
心なしか体も軽くなった気がする。転生の影響か、それとも機械人形であるが故か?
「え、えぇまぁ、声以外にも色々変わってますけど・・・まぁそれは良いです。後でご自身でご確認ください」
「おぅ、分かった」
声以外って、何が変わってるんだ?まさか見た目が別人のごとく変わってるなんて事は・・・無いか流石に、いくら何でも。
「それで、私は何を指揮すればいい?新型兵器とか言ってたが、どんなものなんだ?」
「見てもらった方が早いと思います、付いてきてください」
彼女は私に背を向けて歩き出した、私もそれに続く。
新型兵器・・・全く想像もつかないな。
一分ほど歩いたところにその新型兵器はあった。
いや、あったというよりも「いた」という表現の方が似合うような、と言うか私の知っている兵器のソレとは随分違うというか。
「初めまして、伊藤整一中将。お初にお目にかかります」
その兵器は至ってきれいな声で私に挨拶した。
「・・・なぁ、日下さん。その新型兵器とやらはこれの事なのかね?」
「はい、この子が先ほどお話しした兵器の『人型艦船』です。この子は駆逐級吹雪型三番艦初雪です」
「ひ、人型艦船・・・駆逐艦?この子が・・?」
昔、どこかの軍艦の艦内新聞の端に擬人化された軍艦の挿絵が載っていたことも有った気がするが、まさかそれが現実になるとは誰だって夢にも思うまいよ。
『艦船』と呼ばれた目の前の兵器の見た目は、どこからどう見ても普通の女学生だった、艦船の要素は一つもない。強いて違和感を挙げるなら人間離れに顔が綺麗すぎるくらいか。
「厳密に言うと、この子は艦船を動かす『メインコンピュータ』のようなものです。この子たちが操作する軍艦で構成された艦隊の指揮を」
「私にやれと言う事か」
「そうです、彼女たちと共に前線に赴き、戦闘指揮を取っていただきます」
なるほど、だんだん話が見えてきたぞ。
「それで、どうでしょう」
「どうって?」
「彼女たちを指揮してもらえますか?」
彼女は私に問いかける。駆逐艦初雪と呼ばれた少女も、弥生の後ろから怪訝そうに私の顔を覗き込んでいた。
そんなもの、答えなど決まっている。
「人型艦船か・・・何の理由でそんなものを作る必要があったのかはともかく、私はそれを指揮する為にもう一度この世に生を受けたのだろう?ならばやるしかないな、それが私の天命なのだろうから」
「そうですか・・!」
私の返答を聞くと、彼女は少し顔を明るくした。後ろの初雪も心なしか嬉しそうだ。
「では、これから伊藤中将には艦隊運営の教習を受けてもらいます。艦隊へ配備されるのはその後になります」
「了解した、あ、それから一ついいかい?」
「何でしょう?」
「私の事は中将と呼ばなくていい、名前で結構だ。私は既に一度死んだ身だ。昔の階級を使いつづけるのも変だしな」
「そ、そうですか。分かりました。伊藤整一、さん・・」
彼女はぎこちなく私をさん付けで呼んだ。まぁ、そのうち慣れるだろう。
「で、では、基地の方へご案内しますので・・・」
「あ、ちょっと待ってくれないか」
歩き出す彼女に再び待ったを掛けた。
「どうかされましたか?何か不備でも・・あ、さん呼びはダメですか?」
「いやそうじゃなくて、お手洗い借りれないか?さっきから黙ってたんだが小便が詰まったんだ・・・」
機械も小便するようになったんだな、全く技術の進歩は凄い。
「あ、えーっとたしかそこの突き当りを曲がった所にあったと思います」
そう言うと彼女は廊下の端を指さした。
「おぉそうか、じゃあ少し借りるとするかな・・・」
彼女の指さした方の突き当りを左に曲がると、確かに便所があった。
「随分きれいな便所だな、それじゃお借りするとしますか・・」
そう言って手洗いの鏡の前を通った時。
「・・・ちょーっと待てよ?」
明らかな異変に気付いた私は、小便そっちのけで鏡を覗き込んだ。
「な、なんだこれは・・!?」
そこに映っていたのは、当然ながら『私』だった。だがしかし、どう見ても私の知っている私の姿では無いのだ。
まず身長が高い、170センチは優に超えているだろう。髪は黒のオールバック、顎には少々髭が生えている。顔に入っていた無数のシワはきれいさっぱり無くなっていた。世の奥様方御用達の化粧品をふんだんに使ったってこうはならないだろう。
服装は見慣れた白の軍服だったが、それ以外のすべてが変わっていたのだ。
「ちょ、日下さん?日下さぁーん!?」
私は必至で彼女を呼んだ。
「どうかしましたかー?トイレの水は自動で流れますよー」
トイレに水が流れるのか?しかも自動で。はー凄い・・・じゃなくて!
「これ!この私の姿は一体何なんだ!?まるで別人じゃあないか!」
私は鏡に映りこんだ自分を指さして必死に訴えた。全くとんでもないことをしてくれた。
「だからさっき言ったじゃないですか、声以外も色々変わってますよって」
「あーーそういえば確かに・・・でもまさか姿まで変わるとは思わないじゃないか」
「でも、かっこいいでしょう?」
「ま、まぁ・・・うん」
確かにかっこいいから否定はできない。しかし、うーん・・・
「ふふっ、これからお願いしますね、伊藤さん?」
「あぁ俺、これからどうなるんだろうなぁ・・・」
この先の出来事に一抹の不安を覚えた私は、鏡の中の自分らしからぬ自分を眺めながら、小さく呟いた。
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