転生NIPPON帝国海軍
陸奥ノ国
始まりの朝
第1話 終焉の海、始まりの朝
1945年4月 坊ノ岬沖
戦闘が始まってから、どれほどの時間が経っただろう?
艦の両舷に大量に配備されていた対空装備は既に大半が沈黙し、空にはアメリカ軍の艦載機が飛び交っている。僚艦は既に半分ほどが海に消えた。
甲板は兵士の死体と、流れ出た血で赤く染まっていた。
船体も傾き速度は出ない。あちこちで爆発と火災が起こり、浸水も止まらない。
皆この艦を――大和を何としても沖縄までたどり着かせようと必死だ。
だが内心、そんな事できやしないという事はこの艦に居る人間の誰もが分かっていた。
『注排水装置全損!傾斜復元不能!』
絶望的な報告が艦橋に届く。この艦の命を辛うじてつなぎとめていた機能にも遂に限界が来てしまった。
『ひ、左舷魚雷接近ー!』
伝声管から叫ぶような声で魚雷接近の報告が届く。しかし、この満身創痍の大和ではもはやどうしようもない。
私たちはただ、轟音と共に上がる巨大な水柱を眺めているしかなかった。
「長官!もう、もうここいらでよろしいかと思います!」
悲痛な声で副長が言った。もうじきこの艦は沈む、無敵不沈と謳われた大和が・・・
「分かった・・現時刻をもって作戦は中止、艦長に総員離艦の命令を出すよう伝えろ。それから、駆逐艦に救助要請をしてくれ」
私は兵に命令を出した。恐らくこれが私の発する最後の命令となるだろう。
艦橋を見渡す。皆、顔に悔しさが滲んでいた。
「残念だったね・・・皆、ご苦労様でした」
私は幹部たちにそれだけ言うと、黙って艦橋を後にする。もう、交わす言葉もない。
大和が沈むときは日本の沈むときである――誰かがそう言った。その言葉は今、最悪の形で現実になろうとしている。
日本は負ける、まず間違いなく負ける。この戦争はいささか規模が大きくなり過ぎた。
戦後の日本はアメリカの属国になるかもしれない、国際世論からは多大な非難を浴びるだろう。
軍部は一億総特攻と謳っている、もしかすると日本という国家はこの戦争で無くなるかもしれない。
だがもし、もしこの戦争の後も日本が残っていたならば、真に平和な国であってほしい。
少なくとも平時は、国民が戦争を考えずとも良い国になってほしい。
私はここで死ぬ。しかし、もしもう一度機会が貰えるのなら、私は今度こそ、平和のための海軍に尽くそうと思う。
戦争など起こさぬ、真に平和を求める国家にこの身を捧げよう。
そう心に決めた瞬間、断末魔の如き炸裂音と共に私の意識は闇へと消えた。
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「・・て・・さい・・」
朦朧とした意識の中、誰かが私を呼んでいる。
多分、女の声だ。海軍に女なんていたかな?
「う、う~ん・・・」
目を開けようとするがまぶたが重い。すごく眠い、長い間寝ていた気がする。
「起きてください!」
「分かった今起きる、起きるからそんなに叫ばんでくれ・・・」
私はゆっくり目を開ける、刺すような光で目が痛い。
「おはようございます、伊藤整一中将」
目の前には白衣を着た女が一人立っていた。私を呼んだのも、恐らく彼女だろう。
「おはよう・・・ん?あれ?」
私は随分素っ頓狂な声を上げた。いや、そんなことは問題じゃない。
「どうかされましたか?」
起きて記憶がはっきりとした私は、自身に起きたとある異変に気付たのだ。と言うか、異変しかない。
「おかしいな?君、私は戦死した筈では無かったか?確か私は大和に乗艦して・・・」
「そうですね、伊藤中将は天一号作戦で戦死されましたね」
私の死の事実を、きっぱりと彼女は言った。やはり私は死んだのか・・・
「では何故私は生きているのかね?」
「厳密には生きてはいません。詳しく話すと長くなるので今は割愛しますが・・」
「ザックリとでいい、話してくれないか。今の自分が何なのかぐらいは分かっておきたい」
そのくらい分からんと今の現状に納得できない。そりゃそうだろう、だって戦死したはずなのに、生きてるんだから。
「あなたは新型兵器の指揮ユニットとして、海軍中将伊藤整一の思念や記憶を搭載した特別な機体として製造されたんですよ」
一息置いた後、彼女は頭から終わりまで一ミリも意味の分からん事を私に言った。
よく分からんが詰まるところ・・・どういう事だ?
「え~・・つまり私は君の言う新型兵器を指揮する為に、死んだ体を引っ張り上げて得体の知れない機械人形に仕立て上げられたと?」
「だいたい正解です」
「と言うことは、いわゆるあれか?転生とかいうやつか?」
「まぁ、そんな感じですかね?」
なるほどなるほど、そうかそうか・・・
「よし、私は夢を見ているらしいから寝る!」
「寝ないでください詳しく説明しますから!」
大和と共に沈むとき、もしもう一度機会が貰えたらと祈ったのは確かだ。
けど、第二の人生を与えてくれるにしてももう少しまともな時代にまともな体で転生させてくれないかね。
なぁ、神様?
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