第4話 アーティファクトの『銃』

「でも、全然似てないじゃん」


「あぁ、私はママ似だから」


「ママ似……」


 女王様はものすごい美人なんだろうな……。ララはこんなに可愛くて、モデルみたいにスタイルがいいのに、お父さんは小さくて丸っこくて———


「お主、何か失礼なことを考えておらんか?」


 セルギ国王が、目を細くして僕をにらむ。


 国王、意外とするどい。まずいぞ、話をそらさないと。


「あ〜。あのぉ、このアーティファクトって、どうやって使うんですか?」


「おぉ、よくぞいてくれた。アーティファクトには、石板と同じように穴があいておる。そこに宝石をはめると、武器として使えるんじゃ」


「なるほど……」


 僕は、机の上にある銃に手を伸ばした。たしかに銃の上の部分には、1円玉と同じくらいの穴があいている。ここに宝石を入れたら銃をうてるんだろう。


 ……不安だ。こんな古い銃に石を入れたからって、何も起こる気がしない……。


「ねぇ、ララ。ためしに使ってみたいんだけど、宝石ってどこにあるの?」


「近くに入山禁止の山があるんだけど、そこの洞窟へ行けばあるよ」


「じゃあ、連れて行ってよ」


「うん。いいけど……本当に、いいの?」


「何が?」


「こっちの世界にいてくれるの?」


「まぁとりあえず、このまま帰るのもどうかな、と思って———」


 どうしたんだろう。ララがもじもじしている。


「ララ。もしかして、あのことをまだ言ってないのか?」


 セルギ国王が何やらあせっている。一体何なんだ。これ以上、まだ何かあるっていうのか。


「あのね、ユウリ。実はね……。こっちに来た時に通った鏡は、1ヶ月くらい前に、突然通れるようになったの。それでね、いつまた通れなくなるか、私たちにも分からないの」


「つまり、帰れなくなるかもしれんのじゃよ」


 なるほど。


 それって、先に言っておかないといけないことなんじゃないかな? 

 

 でも、このまま帰るってことは、ララを見捨てるってことで……。この国の人たちも、ひどい目にあわされて……。


「いいよ。やるよ!」


 やっぱり、このまま帰るわけにはいかない。


 僕が言うと、セルギ国王とララは、口を開けたまま僕を見つめる。何か、変なことでも言っただろうか?


「い、いいのか……?」


 セルギ国王が眉間にしわを寄せながら、僕の身体をよじ登ってくる。


 怖い怖い!


「だって僕がやらないと、国が乗っ取られて、獣人の人たちはみんな奴隷にされるんですよね?」


「そうじゃが……。帰れなくなるかもしれんのじゃぞ?」


「まぁそうですけど、別に困る人はいないだろうし。いいですよ。だから、おりてください」


 国王様、太ってるから重いんだよ。


「ありがとう、ユウリ!」


 ララが叫ぶと同時に、金色の煙で前が見えなくなった。


 ん? 宙返りはしなかったぞ。


 そして煙の中から、猫になったララが飛び出してきて、僕の胸に飛びついた。僕はララが落ちないように抱きめる。


 もしかして、興奮しても、猫になってしまうのだろうか。


 白くてふさふさのしっぽが、目の前でゆれる。僕が顔を近づけると、ふわふわの毛が顔をなでた。


 あぁ、幸せだ……。この国には獣人がたくさんいるんだもんな。よく考えたら天国じゃないか。


 父さんと母さんは、もしかすると心配するかもしれないけど、僕はこの世界で獣人たちを救うよ。




 翌日、僕はララと一緒に山を登る。


 旅に出る前に、アーティファクトの銃を使ってみるためだ。銃を使うためには宝石がいる。山の中にある洞窟へ行けば手に入る、とララは言っていたが、中々たどりつかない。


 ちなみにこの古い銃は『アーキルの銃』という名前らしい。


 大昔に、その時の国王が作らせたものだそうだ。全体が黒い金属で出来ている銃は、別にびているわけではないが……。色がくすんでグレーになっている部分があるし、傷だらけだ。


 それに、僕の手のひら2つ分くらいの大きさの銃は、結構重い。これはもう、ただの鉄の塊だ。本当に使えるんだろうか。


「ユウリ、ついたよ!」


 ララの声に顔をあげると、洞窟が目に入った。でも、なんだか奥の方が紫色に光っている。あやしい雰囲気だ。


「この洞窟って、何で紫色に光ってるんだ……?」


 絶対に普通の洞窟じゃない。入りたくないんだけど。


「来たら分かるって!」


 ララは洞窟の中へ入って行く。


「待って、ララ!」


 洞窟の中に入ると、奥の方から冷たい風が吹いてくる。


 漫画だと、洞窟の奥にはモンスターがいて、その寝息だったりするんだよな。嫌だなぁ……。


「ねぇ、ここってモンスターとか、いないよね?」


「ここは入山禁止の山だから、よく分かんないけど———大丈夫! もし何か出たら、私が倒してあげるから」


 今の間は何だろう。やっぱりモンスターがいるってことなんだろ? 


 ねぇ、ララ。そうなんでしょ?

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