第11話 おじさんはおなかがいっぱい
『アシナガ様、おはようございます! 今日は寝坊せずに起きられました。アシナガ様のお陰です!』
『アシナガ様、大好きです』
『アシナガ様、朝の鍛錬してきました。最近、魔力循環がうまくなってきたように感じがします』
『アシナガ様、こちらは朝大分肌寒いですが、そちらは大丈夫でしょうか? 病になられぬようお気を付けください』
『アシナガ様、いつも通りお返事は大丈夫ですから。ですが、目を通して頂いて私の気持ちだけでも伝わっていると嬉しいです』
『アシナガ様、大好きです』
『アシナガ様、いつも色んな贈り物を私たちにありがとうございます。また、手配していただいたようで……お金しか送れなくてごめんなさい』
『アシナガ様、大好きです』
『アシナガ様、朝食はしっかり食べられましたか? しっかり食べてアシナガ様がずっとずっとお元気だと嬉しいです』
「ううーん……重い!」
ガナーシャは一人、身体を拭きながらリアと繋がっている伝言魔導具の中身を見返しながら呟いた。
昨日も冒険から帰ってきてリアとメッセージのやりとりをしていた。
一緒に冒険していたので知ってはいるのだが、リアの感じた事や思ったことは、おじさんのガナーシャにはない感覚で面白いし、一つ一つに今自由に冒険できている喜びに溢れていて幸せな気分にはなれる。
それに、こちらがメッセージを返さなくても恨むでも怒るでもなくただただ送りたいだけだというのをちゃんと伝えてくれているので彼女の優しさというか、気持ちは伝わってくる。
だが、いかんせん。頻度と『アシナガ様』への依存がひどい。
「うっぷ」
ガナーシャはいつものように足を擦るではなくお腹を触りながら声を漏らす。
今朝は、殊更リアの機嫌が良く、ガナーシャに対しても積極的に絡みにいっていた。
大体朝食はそれぞれのタイミングでとる。
だが、今日は、ガナーシャが遅かったこと、ニナのお祈り帰りの時間、ケンがいつもよりしっかり鍛錬したこと、リアも起きて鍛錬できていたことで、全員の朝食の時間が重なったのだ。
「はいはーい、あんた達、今日もいっぱい食べなね~」
「ちょっ……おい、あんた! こんなに持ってくるんじゃねえよ!」
ケンが宿の女主人に悪態を吐いているように見える。
だが、ケンの不器用さと致命的なコミュニケーション能力を知るガナーシャにはこう聞こえている。
『あの、おかみさん! 僕たちはこんなにサービスしていただけるほどお金を払えても、また、優れた者でもありません!』
致命的にコミュニケーション能力が低いので、宿の女主人には全く伝わっていないが。
それに、女主人も全くそれに気にする様子はない。
「いいのいいの! ずっとウチを丁寧に使ってくれてるし、アンタたちのお陰でこのあたりの魔物も大分減ったって他のから聞いたし、それに、ちゃーんと金は貰ってるからさ!」
そう言ってにっこり笑った女主人のその言葉で、ケンとリアはぴたっと固まり、ニナが微笑みながら口を開く。
「アシナガ様、ですかねえ?」
ガナーシャ、イコール、アシナガを知るニナはこちらを意味深に見てくる。
正体がバレたくないガナーシャは、表面はいつもの苦笑だが、内心は心臓ばくばくだ。
だが、ケンとリアの二人はそれに気づかない。
ただただ、口をもにもにさせて喜びに打ち震えている。
「そっ……か……師匠が、俺たちの、為に……」
「うひ……こほん、うふ、ふう~、そ、そういう事ならば遠慮なく頂きましょう。しっかり食べて心身を充実させることは、ずっとアシナガ様に教えられてきたしね。ふふふ、うふふふふふ、じゃ、じゃあ、食べよう。ほら、おじさんも食べて食べて」
「え? いやあ、僕は……別に……」
「何言ってるの? おじさんだって元気にならなきゃ、ほらほら~!」
と上機嫌のリアにいっぱい食べさせられたのだ。
「若い子とおじさんの内臓の出来は違うんだとまたどこかで教えないとなあ」
ガナーシャはリアの愛の重さと朝食の量にお腹をさすりながら、伝言の魔導具を手に取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます