ダンジョンでスローライフ!? ~パーティから追放されるどころか最高難易度ダンジョンに取り残されてしまった俺ですが、世界の裏技を見つけて好き勝手に過ごさせていただきたいと思います!~
第50話 予感は予感でしかなく、およそ現実を測る指標にはなりえない
第50話 予感は予感でしかなく、およそ現実を測る指標にはなりえない
ビュンビュンと木々の間を通り過ぎていく。
静かに、しかし派手に――もしここが、魔物被害によって廃村に追いやられた村に繋がる道でなければ、馬から迸る炎によって、新手の魔物と勘違いされていたであろう様相である。
無論、その火の馬にまたがって先を急ぐ俺も、その魔物の範疇として扱われていたこと間違いなしだ。
「また腕を上げたなコルウェット」
「ふふんっ、もっと褒めなさいルード。私もあの惨劇から何もせずにのほほんと生きていたわけじゃないのよ」
「だな。もしかすれば、今のお前なら172層から地上まで、一日でそうはできるかもしれねぇな」
そう言いながら、俺は前に座るコルウェットの神がかり的な魔法の腕前に感嘆した。
時刻は正午を過ぎた真昼間。金の彫像から解放された俺が影との戦いの後に出会ったのは、俺やナズベリーが山の国を訪れた理由であるモアラの依頼とは全く関係のないコルウェットであった。
なぜ彼女がここに居るのか。
その問いかけに対するコルウェットの答えはこうだ。
『悪いけど、ちょっと急がなくちゃいけないから移動しながらでいい? あと、魔法使うのに集中したいから、詳しい話は向こうに着いてからだから』
一方的にそう言い放ったコルウェットは、慣れた手つきでお得意の天賦スキル〈
そして今、俺たちは南家の領土に繋がる林道を、恐ろしい速さの馬に二人で乗って移動している。
そこまでして急がなければならない、文字通り火急の要件がある、ということだが……まったくもって、嫌な予感しかしない。それこそ、山の国に訪れてから西の城郭に至るまで、一度しか出会わなかった影に同時に五体も出会ったこととと関係しているような……そんな予感を覚えてしまうのだ。
「ルード」
「なんだ?」
嫌な予感に対してあれやこれやと考察をする俺の思考に、コルウェットの声が滴り落ちる。寝耳に水という例えは間違っているが、俺の思考に水を差されたことには違いない。
ともかく、無駄な考えをやめてから、俺は呼ぶ声に返事を返した。
「とりあえず、私がここにいる理由と、大まかな経緯を説明するわ」
ばっさばっさ。花騎士を使い移動に邪魔な大木を切り分けながら、高速で山道を移動するコルウェットは、その片手間に俺に対して、約束通り今の状況に至った経緯を説明してくれるようだ。
「まず、私がここに居るのはあなたたち四人が突然いなくなったからよ。魔力の痕跡を辿ったヴィネが、あなたたちが山の国に行ったって言うから、マリアとブルドラの首根っこを掴んでここまで来てやったわ!」
「なんでマリアとブルドラが一緒に居るんだよ……」
「戦力は多い方がいいと思ったの。いざとなったら使えることは、コーサーの一件で証明済みでしょ。あと、流石にブルドラと二人っきりは嫌だからマリアに来てもらったの」
「まあマリアは案内としては確かに一級品だが……ブルドラのコーサーの一件って、俺の記憶じゃ敵対して俺に襲い掛かってきたことしかなんだけど」
「あっはは! 確かに、うざいの我慢して連れて来たのに、もう一回あいつが敵になったら、今度こそ私、ブルドラのこと焼き殺しちゃうかもしれないわね!」
流砂の国から山の国に来るまでの間に、コルウェット一行に何があったのかは知らないが……相当に鬱憤がたまっていることは間違いないだろう。
流石に藪を突いて蛇を出すわけにもいかないので、さりげなく話題を転換して……
「それで、何があった?」
「真一級の資格を使って、南家の当主とコンタクトを取ったら、そのまま戦力として雇われた。まさか雇われた案件に関わってた北家の当主がコユキだとは思わなかったけど、その伝手を使えばルードたちを探せると思ったのよね」
「あー……そういえば、北家からも増援が遅れてくるってコユキが言ってた気がするな」
「それ、私たち。でもちょっと状況が変わっちゃったの」
「変わった? 状況が?」
「そ。結果、増援はいったん南家に帰還。その中で、唯一私だけが残ってルードを探してたわけ」
状況が変わった。その言葉に、俺の中にくすぶっていた嫌な予感が膨れ上がる。ついでに一つ、とある予想が浮かび上がった。
「増援が帰還って……いや、その前に……もしかしてだが、一週間ぐらい探してたり……」
「するわね」
「……悪い」
「謝るよりも感謝してほしいぐらいなんだけど」
「わかった。ありがとう、コルウェット」
「ふんっ。ま、おかげで助けられた命もあるわけだし、悪いことばかりではなかったわ」
どうやらコルウェットは、一週間もの間、行方不明になった俺を心配して西家の領地というある意味での敵地で捜索を続けてくれたようだ。
確かに、コルウェットの花騎士は敵を探知する機能もあるため、複数体を召喚し分散して探させることで、単独で広域を調査できるのか。
とはいえ、行方不明になった冒険者を探す無意味さをよく知っているうえで、コルウェットはそんなことをしてくれたのか。
感謝してもしきれないな。
「それに、この程度で許されるほど、私があんたにしたことは甘くないからね」
「気にしてないって言った気がするが……まあ、それでコルウェットの気が済むんならそれでいいさ」
「ともかく。事が起きる前にルードを見つけられたのは幸運だったわ。最悪の事態が、少しだけよくなった」
「……最悪の事態?」
「そ、最悪の事態」
最悪の事態、と聞いてしまえば、俺の嫌な予感なんてもう必要ないだろう。
「山の国の勢力図が、一晩にして一変した。……っと、到着よ。詳しい話は中でしましょう」
そんな会話をしているうちに、火の馬はいつの間にかどことも知れぬ窪地に敷かれた野営地に到着していた。
木材と土塁によって築かれた即席の防衛拠点のようにも見える陣地。その見張り台と思わしき場所に立つ衛兵に対して、コルウェットが何らかの合図を送れば、おそらくは土属性であろう魔法が発動して、土塁の一部が崩れ落ちて、陣地の中へと通じる門が出来上がった。
その中に俺を誘うコルウェットに対して、俺は問いかける。
「なんだここは」
そんな俺の質問に対して、わかってるでしょう? と言うかのように呆れながら、コルウェットは答えた。
「最前線よ。西家と、それ以外との全面戦争の、ね」
どうやら、事態はたった一週間で、俺が想像していた以上に悪化していたらしい。
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