第51話 西家の謀略
「戻ったわ!」
「帰って来たか、コルウェット……ふむ、そちらの男はもしや……」
「ええ、ルードよ。私が探していた人」
「なんと、今の西家の領域で生きていたとは……やはり、貴様ら真一級の冒険者たちは、化け物揃いということか」
野営地の奥に設置されたひときわ大きな天幕につられるがままにコルウェットに付いてきた俺は、そこで一人の男と出会う。
「ルードだ」
「南家の現当主、
「当主が最前線って……いったいどうなってるんだ、コルウェット?」
「そうね。最初から説明したいのだけど……その前に、挨拶をした方がいい人がいるんじゃなくて?」
「挨拶……?」
西家の領地からそう遠くない場所に、西家と敵対関係にある南家の当主がいることに驚いていた俺に対して、ちょいちょいとコルウェットが天幕の一角を指さした。
その方を見てみれば――俺の方へと近づいてくるアズロックが居た。
「合流するのが遅いぞルード」
「アズロック。悪いな、心配かけた」
「生憎と、一角の実力者にかける心配など持ち合わせてはいない。そして、謝るなら此方ではなくこのお嬢さんにしてあげるべきだ」
コルウェットからアズロックへ、そしてさらにたらいまわしにされるようにして、アズロックの背後から一人の女性が現れた。
「い、生きてたんですね、ルードさん!」
「あー……」
「確かに、王族である私の救出に命を賭ける理由もわかりますが……それをされる身にもなってくださいよ!」
現れたのはマクアだった。まさか、まだ山の国に残っていたとは……、いや、それよりも。
「悪い。心配かけた」
「はい。命がけの救出感謝します。おかげで、私は西家の拘束から逃れ、北家に匿われることになりました」
「他国の王族だと聞いてな。一応、丁重にもてなしはしているよ」
俺たちの会話に割り行ってきた鏑は、当然とでもいうように言う。
「衣食住はもちろん、帰りたいとあらば家の精鋭を付けて山の国から脱出させるさ。なにしろ、流砂の国との交易は南家の領分だからな」
その目に嘘をついている様子はなく、マクアが国に帰りたいといえば、今すぐにでも帰りの便を用意してくれるだろう気構えだ。
ただそれだけで、俺は信用に値する人物だと判断した。というよりも、コルウェットやアズロック、そして立場上、腹の探り合いに長けているであろうマクアが気を許している時点で、俺が口を挟むような段階は、既に終わっていると考えた方がいいだろう。
「わかった。じゃあ、とりあえず現状の説明をしてくれないか? 実を言えば、アズロックたちと別れてからどれだけの時間が経ってるかも定かじゃねぇんだ」
「傷か?」
「ナズベリーの奴にやられた。奴のスキルでかちんこちんだったよ」
「話には聞いていたけれど……どういうことよ、ルード」
軽く俺の身に起きたことを話してみれば、横で話を聞いていたコルウェットが口を出してきた。
そういえば、コルウェットは年こそ離れてはいるが、ナズベリーの親友だったか。そりゃ、心配にもなるよな。
「先に行っておくがナズベリーは無事だ。ただ、詳しい話はあとにしておいてほしい……ともかく、現状の確認をさせてくれ」
状況を見る限り、事態は急を要するようだ。だからこそ、俺は早急に何が起きたのかを確かめる必要がある。
「俺からいえることは、アズロックと別れた後に無明と交戦し敗北し、ナズベリーのスキルによって金に変えられ拘束されていた。それを俺は自力で解いたわけだが……その際、西家の黒曜に助けられた」
「黒曜に?」
アズロックたちと別れてからの経緯を説明してみれば、話を聞いていたマクアが首をかしげて疑問を示した。
「ああ。会話らしい会話はしていないが、言動と行動からして白明や無明とは別と考えて問題はなさそうだ」
「確かに、俺たち南家の方でも、黒曜と白明の軋轢に関しては掴んでいる……わかった。それじゃあ、確認の意味も含めて、何があったのかを俺が説明させてもらおうか」
それから、俺の話を聞き終えた鏑が音頭を取って、俺が金の彫像にされていた一週間の間に起きた出来事について説明を始めた。
「まず、アズロックたちが南家と西家の緩衝地帯に近い街に飛び込んだのが、今から六日前のことだ」
「偶然、砦の視察に来ていた鏑殿と会うことができたから、その時にマクア様の保護を申し出たのだ」
どうやら、アズロックはマクアを一度南家に任せ、俺を助けに戻ろうとしたらしい。ただ、それを鏑に同行していたブルドラとコルウェットと合流したのだという。
「そういえばブルドラの奴は?」
「酒飲んで眠むってる」
「いつも通りね」
まあ、いつも通りだな。
「ともかく、西家から出て来たのが思わぬ要人であったために、一度城郭に帰り、流砂の国と連絡を取ろうとしたのだが……」
「その時に、何かが起こったってことか」
「さよう」
マクアを保護した鏑一行は、アズロックとバラムを連れて、一度南の城郭に戻ろうとした――しかし、そこで問題が起きた。
おそらくは、コルウェットの言う最悪の事態を引き起こした大問題が――
「端的に言えば、西家は白竜の首を狙っていた。俺たちが城郭に帰ろうとして、西家領地へと降り立つ白竜を見たのはその時だったんだ」
「となると……白竜が殺されたのか」
西家が白竜を狙って動いていた。コユキが白竜が怒っていると言っていたことを考えれば、間違いはないだろう。
そして、西家を他家が取り囲んでいることを考えれば、白竜が死に、或いは重傷を負い、山の国の象徴たる白竜を傷つける蛮行を見過ごすことができなかった三家が西家に矛を向けた、というわけか。
「違う」
「なに?」
ただ、俺の予想を否定するように、鏑がそう言った。
「それはまだ、最悪じゃあなかったんだよ、ルードとやら」
「最悪って、それ以上があるのかよ」
「あったんだ。これが。山の国の象徴的なシンボルであり、四つの家に分裂する力を生み出した超常的な力を持つ存在……それが、白明の軍門に降ったのだ」
「なんだと?」
白明の軍門に降った? 白竜が?
「えっと、白仲間だから……ってわけじゃねぇよな」
「話がそれだけ簡単だったらどれだけよかったことか……いや、そもそも白明にとって、白竜を迎え入れることは予定になかったはずだよ」
「……もったいぶらずに言ってくれ。何が起きたんだよ」
もったいぶる、というのは詳しい説明を要求している身としては、こう言った遠回りな説明もすべて聞いた方がいいのだろうが、それよりも何よりも――
「白竜が白明に付いたって、何があったんだよ!」
話してみればわかる。
誰彼構わず話しかけては、好々爺の如き口調で朗らかに笑う白竜が、何の利用もなく、他家に対して侵略をするような人間に付くわけがない。
そもそも、あの竜が誰かの下に付くような存在には思えない――
「……あの日、俺たちは見たんだよ。この世のものとは思えない戦いを――」
一度目を閉じてから、鏑は六日前のことを詳らかに話し始めた――
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