第46話 優先順位


「派手なことになってるな、ルード!」

「ちょいとことを急き過ぎた!」


 城壁と一緒に堀も飛び越えて場外へと出た俺は、すぐさま待機していたアズロックと合流する。


「そいつが、流砂の国のお姫様か」

「ああ、そうだ。ただ、生憎と上に下にと動き過ぎてグロッキーになってるから、自己紹介はあとにするぞ」

「了解した。ただ、前からも後ろからも衛兵が来ているが……どうする?」

「んなもん決まってるだろ、正面突破だ」

「間違いない」


 夜半だというのに、西家の衛兵はどうにも精力的に過ぎる。右から左から、前から後ろから。西の城郭中の衛兵がすべて集まってきているのではないかと錯覚するほどの怒涛の行進が、俺たちを捕まえるために――殺すために動いているのはいやはや壮観だ。


 しかし、足を止めていれば、先の風の魔法によって殺されるし、運よく生きながらえて捕まったとしても辿る道筋は同じだろう。


 無論、そんなことをされてはたまらない以上、最大限の抵抗をもって反撃させてもらうけれど。


「前は頼んだぜアズロック!」

「応!」


 マクアを抱える俺の代わりに、アズロックが道を切り開くために前に出る。


 丁重に扱ってこそのお姫様だ。


「〈岩石王〉――〈倶竜くりゅう〉」


 逃げるためには道が必要だ。しかして、俺たちの周りには人で出来た壁だらけ。その窮地を脱するべく、目的地である南門を最短距離で突っ切ることのできる道に対して、アズロックはその天賦スキルを媒介とした土魔法を放った。


 その名も〈倶竜〉。


 おそらくは、コルウェットの〈花騎士〉と同じアズロックのオリジナル魔法であると思われる竜が地面より隆起し、まるでモグラが地面を泳ぐように地面を這い、前方の衛兵たちを蹴散らしていった。


「〈縛土〉!」


 流石は真一級の冒険者。〈俱竜〉によって蹴散らされ、地面に倒れた衛兵たちを中位魔法の〈縛土〉で次々と拘束し無力化して行っている。


 172層で色々な力を手に入れたとはいえ、魔法に優れず、また手加減も拙い俺にはまねできない技だ。


「走るぞルード!」

「もっかい我慢してくれよ、マクア!」


 ともかく、開けた道をまっすぐに俺たちは走った。



 ◆◇



 世界でも随一の危険地帯である最高難易度ダンジョンを仕事場としている真一級の冒険者は、もちろん世界有数の実力者である。


 そんな人間を相手にしなければいけない衛兵たちには同情を禁じ得ないほどに、一方的な戦いを繰り広げたそののちに、俺たちはあっという間に南門へとたどり着いた。


「……手応えが感じられんな」

「そりゃまあ、ダンジョンなんて戦場に常に身を置いてる一流の冒険者と、訓練をしてるとはいえ安全地帯の町の中を哨戒することが日常な衛兵を比べてやるなよ」

「……だとしても……いや、今はやめておこう」


 どうやら、アズロックはここまで簡単に蹴散らせてしまったことに違和感を覚えている様子。確かに、俺も違和感を覚えなくもないが、それはそれ、これはこれだ。


 何事も優先順位を間違えてはならない。


「あ、ルードちん!」

「すぐ出発できるなバラム!」

「もちろんだよ! あ、でも私御者できないからおーねがいっ」

「此方が担当しよう。さあ、二人とも早く荷台に!」


 南門の外側には、少し離れたところにここ数週間の稼ぎをすべて使って購入した馬車が止めてある。


 そんな馬車を守っていたバラムが荷台からひょっこり顔を出したところで、合流は完了だ。


 目指すは西の城郭の南。山の国南部に繋がる峠道――


「――って、マジかよ……!!」

「おい、どうしたルード!」


 馬車までたどり着いた後は、ゆっくり休める。そんな甘い考えを斬り裂くように、俺は馬車の前に立つ影へと飛び掛かった!


「邪魔すんじゃねぇ無明!!」

「生憎と、今何かをされるのはこっちとしても都合が悪いんだよ」


 まさかまさかの、白明の目論見とは最も遠い位置に居たと思われる無明が、俺たちの前に立ちはだかったのである。


 以前見た無明の戦いを見れば、間違いなくマクアを守っている余裕なんてない。だからこそ、俺が――死に事のない俺が時間稼ぎとして馬車を飛び降りていうのだ。


「先に行ってろアズロック! あとから追いつく!」

「了解した!」


 俺たちの目的はマクアの救出。その目的が第一であり、俺がここでどうなろうと目的さえ達成されれば、どうとでもなる。


 幸い、俺には〈重傷止まり〉なんて都合のいいスキルがあるからな。


「さぁてと。お前とは、話したいことがあったんだよ、無明」

「へぇ、別に答えてやっても構わんが、置いてかれちまったみたいだが大丈夫か?」

「問題ないさ」


 二人して――いや、少し離れたところに隠れていたナズベリーも含めて三人して、西の城郭から遠ざかっていく馬車の後姿を見送ってから、俺は改めて無明へとその問いを投げ出したのだった。


「ナズベリーに何をした? 返答の次第によっちゃ……旅を同伴したよしみみを捨てて、全力を出さなきゃならねぇ」

「おーこわいこわい。さぁて、わしは何をしたでしょう」


 

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