第44話 作戦決行
夕刻を過ぎて日の沈む時間帯。
俺たちは作戦を遂行するために役割を決め、それぞれの配置についていた。
「作戦の要はお前だルード。絶対に失敗するな」
「わかってるよ」
マクアから伝えられた白明不在の予定に変更はなく、一度目の侵入の二日後となる今日の昼間に白明が乗った馬車が城郭を出るのが確認されている。
白明が不在となれば、警備の手も緩くなるはず。そうして俺たちの予定も変更されることなく、今宵マクアを救出するために動くこととなった。
作戦は単純。俺がマクアを城から救出し、状況に応じて強行突破で城から脱出。城外に出た後はアズロックと合流し城郭の外を目指し、バラムが待つ早馬を使って西家の領地から脱出、という手はずだ。
コユキの話では、どんな事情があれ、南家の領地であれば西家が追ってくることもないだろうとのこと。それこそ、犯罪者の捜索協力の願いですらも撥ね退けるんじゃないかとの話だ。
そこからは南家の領地の土地勘を持つアズロックの案内に従って、隠れながらもできるだけ早く山の国を囲む山脈を超えるルートを辿り、流砂の国に移動する。
それらすべての中で最も難易度が高いのは、間違いなく城内に侵入しマクアを連れ出すことだろう。
そこを失敗してしまえば、その先に立てた計画はすべてが崩れる。絶対に失敗することはできない。
「んじゃ、行ってくる」
「気張るのだぞ、ルード」
「あいよ」
そうして、俺は城内へと足を踏み入れた――
◆◇
城内の様子は変わらず、多くの衛兵がひしめき合っている。残念なことに、期待したほど警備が手薄になっているというわけではないようだが、逆に警備が厳重になっているというわけでもないようなので、問題なく天井裏に潜みつつ北天守閣へと俺はたどり着く。
それから、マクアの部屋を探して――
「また会ったな」
「また会いましたね」
問題なく、部屋の中で寝巻に着替えていたマクアと合流した。あまりにも綺麗な侵入であるが、もしや俺は冒険者よりも盗人の才能でもあったのだろうか。
いやまあ、幼少の頃より身を縮めて、ある意味で教育熱心な母親から隠れるようにしていたことは確かだけれど。
ともかく、ここまでは順調だが、問題はここからだ。
「荷物は?」
「特別に思い出となるようなものはありません。何分、ほとんど拉致と変らない方法で連れてこられてしまいましたから」
「あー……そんなんでよく、西家はマクアを嫁入りしたって吹聴したな」
「まあ、一応私がここに来たのは、見合い話を聞くためでしたからね。その流れで婚姻、ということにしたのでしょう」
間違いなく問題行為、ではあるが、コーサーの一件で内政が荒れている今だからこそできる強引な手続きだ。少なくとも、俺たち冒険者に頼らなければマクアの現状を確認できないほどには、流砂の国は混迷を極めているわけだしな。
……いや?
時期がおかしい。
聞く話によれば、マクアが嫁入り(見合い)をしたのは半年前のはず。コーサーの事件は今から約2か月前。となると、マクアの行方をアビル王が追求する時間があったはずだ。
だというのに、モアラがマクアの置かれる状況を知らず、尚且つ西家に嫁入りしたということが喧伝されているとすれば――まさか、マクアの幽閉は西家の独断じゃない?
「ルードさん、どうしました?」
「い、いや、なんでもない。ともかく、脱出について伝えるぞ」
ほのかにくすぶる闇に思いを馳せるのもいいが、今はそんな余計なことを考えている時間じゃない。
ともかく、さっさとこの誘か……救出作戦を成功させなくては。
いつ衛兵が来るかわからない以上、ここにとどまっている一分一秒が惜しい。
「脱出経路は、天守閣の壁を使う」
「か、壁ですか!?」
「ああ、流石にマクアを連れて城内を隠れて移動することはできないから、逆にマクアを俺が背負って壁を伝って下に降りる方法を取る。外に出れれば、城内よりも逃走は簡単だ」
「わ、わかりました……」
あくまでも俺の隠密スキルは、自分を隠すためのモノ。一対一の状況から難を逃れるために磨かれたものであり、一人で潜入する程度ならばその応用で身を潜めることはできこそするが、誰かを連れて隠れる技能を俺は持ち合わせていない。
となれば、外壁を伝って移動する方がいいと俺は判断した。見つかったとしても、飛び降りて屋根を走れば城内よりは逃げやすいはずだしな。
滅茶苦茶目立つけど。
「ともかく、準備が完了してるならさっさと脱出するぞ」
「は、はい。わかりま――きゃぅ! な、何をするんですか!」
「あー……しっかりと捕まっててくれよ」
突然抱き上げたのを悪いと思いつつ、俺はお姫様抱っことでも言おう抱え方のまま、最小限の音ではめ殺し窓を破壊して場外へと出た。
「ひゃ、ひゃあああああ!!」
「ちょ、バレるって! 静かに!」
「わ、私、高い所は苦手なんですぅうううう!!」
「先に言ってくれよ!」
初耳の事実に驚愕しているうちに、俺は行動を急き過ぎたことに気づいた。
そして――
「気づかれたか」
「ご、ごめんなさい!」
「いや、いいよ。こうなることは織り込み済みだったしな」
俺の侵入が、衛兵たちに気づかれてしまったらしい。
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