第43話 別れ
「西家の企みに謎の男、それとマクア様の救出ですか……マクア様については聞いてはいましたし、西家が何かを企んでいたのは薄々感じては居りましたが、ちょっと勘案すべき事案が多すぎますね」
「無明……か」
双頭天守への侵入を終えた俺が誰にも悟られることなく拠点としている宿に戻ってきてみれば、深夜だというのにミナモとアズロックの二人が出迎えてくれた。
そんな二人に城内で見た内容と二日後の作戦決行を伝えてみれば、ミナモは余りの情報量に頭を抱え、アズロックは眉間に深い皺を刻んでいた。
ちなみにコユキとバラムは既にぐっすりと眠っているのだという。昼間はあれほど敵対的だというのに、仲のいいことで。
「……西家……30年前……まさか?」
「どうしたアズロック」
「いや、此方の勘違いであってほしいと願うばかりなのだが……我らが一度旅した無明という男は、とんでもない人間であったかもしれない」
「なんだと?」
いや、確かにあの剣技はとんでもないレベルだった。少なくとも、真一級の中でも上位レベル――ソロモンバイブルズのメンバーと比べてもそん色なく、それどころかその一点においては遥かに超えているかもしれないレベルだ。
そんな人間が、無名のままに在野で燻っていたとも考えられない。
「ともかく、無明が何者であろうと今回の件にはあまり関わりはしない……とは思う」
「嫌な予感はしますけどね……」
ミナモの言う通り、絶賛何らかの暗躍中である西家を利用しようと動く無明を放置しておくことは難しいし、ナズベリーのことも心配だが……冒険者である以上、優先事項は依頼の達成だ。
国境さえ渡れば、マクアの護送はアズロックに任せて、ナズベリーのことに注力することもできるだろう。
それに、無明の目的こそわからないが、マクアを幽閉しているのは時期的に考えて白明の目論見であり、無明には全く関係ないはずだ。大きな障害にはならない……はず。
「私としては、二日後の白明の予定とやらが気になりますかね」
「山の国で何か企んでいるのは確定事項だからな。前々から外出が決まっていたとなると、その目論見に関したもんかもしれない」
「というよりも、姫様が城郭に居ることを知っていてなお、予定を変更せずに城郭を空けるという事実の方が恐ろしいのですよ」
「ああ、そうか」
コユキの存在は、間違いなく白明にとっては無視できない問題だ。彼女の立場は、例える必要もなく敵国の当主。それこそ、爆弾解除のように慎重に扱わなければいけない案件だ。
まさか、先日に城に訪問したにもかかわらず、その存在に気づいていないということもあるまい。
その上、コユキは世界有数の実力者でもある。白竜ジョブについているともなれば、山の国では五指に数えられる実力者となるだろう。
そんな目の上のたん瘤を無視してまで、外出する――いや、この話はあくまでも予定だ。当日になってキャンセルする可能性だってある。
「白明については此方が探ってみよう。西の城郭とはいえ、民草が要る以上、噂話が絶えることないからな」
「逃走経路については、事前に話し合ったもので問題はないと思います。あとは――」
「当日のコユキの行動になるな」
元を辿れば俺たち冒険者組と、コユキの北家組は別々の目的で行動していた。逃走経路の割り出しまで手伝ってもらった以上、これ以上の迷惑はかけられない。
少なくとも、幽閉されていたとはいえ、嫁入りした他国の姫君を誘拐した実行犯を、黒曜との面会という名目で一度城内に同伴させてしまっている以上、北家と西家の対立はさえられないものとなるはずだ。
そして、それ以上に深くマクア救出にコユキが関わってしまえば、大手を振って西家が北家を弾劾する理由を与えてしまうことになる。
「少なくとも、私たちはあなた方が進もうとしている最後の一線を超えることはできません。これは今まで姫様が無理を通してきたわがままも効かない、責任の話になりますから」
「そりゃそうだ。人の上に立つ人間ってのは、足に敷いた人間の分だけの責任を足枷に持っているもんだ。だから安心してくれよ。こっから先は、俺らだけの話になる」
「ご配慮、ありがとうございます」
惚れた弱みに付け込んで、なんてことをミナモは心配していたのだろうが、生憎と俺はそんなクズじゃない。……あいつらとは違うんだ。
ともかく、ここからは北家の後ろ盾やコユキの助力を乞うことは難しいだろう。ただ――
「ただ、西家の動きについては常に私たちは目を光らせています。もしもの時は、また会うことでしょう」
「フッ、感謝をするのは俺たちの方だったってわけか」
「何も感謝することなどありませんよ。すべては利害の一致なのですから」
彼女は言外に語る。
自分たちが付け込むことができる西家の弱みを見つけたときは、遠慮なく西家を避難するために俺たちの側に回ると。
完全なる孤立無援、というわけではないようだ。
――そうして、俺たちは別行動となる。
「今回はダメだったけど、次は絶対に惚れさせる」
「あー……期待はしないでおくよ」
「むー!」
翌朝にそのことをコユキに伝えてみれば、悔しそうな顔をしてそんなことを言われてしまったのはいい思い出だ。
惚れた張ったの戦いはまだまだ始まったばかりだと、彼女は俺と――そしてバラムへと宣戦布告をしていた。
なぜバラムなのか、というのは野暮だ。
……俺はバラムのことに全然気づけなかったんだけどな。
ともかく、そうして俺たちは別れ、それぞれの目的のために行動を再開することとなる。
またこうして、集まることができたのならば、そんな後ろ髪引かれる思いを胸にして――
同じ五人が集まることなど、この先二度と叶わなくなってしまう望みだということを知らずに、二日後は訪れた。
戦いの幕は、まだ開かない。
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